

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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偽性副甲状腺機能低下症の概要
偽性副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモン(PTH)が分泌されているにもかかわらず、骨や腎臓がその働きに反応できないために起こる病気です。I型とII型に分けられ、I型は「GNAS遺伝子」の異常による遺伝性疾患で、母親から受け継ぐ場合や突然変異で発症することがあります。II型では遺伝子そのものに異常はなく、細胞内の情報伝達の障害が原因と考えられています。
症状は乳幼児期から現れることが多く、血液中のカルシウム不足(低カルシウム血症)によって生じます。典型的なのは「テタニー」と呼ばれる筋肉のけいれんで、腕を圧迫すると手がすぼまるように縮む様子が見られます。また、頬を軽くたたくと口の周りの筋肉がぴくぴく動く症状がみられる場合もあります。他にも手足のしびれ、気分の変化、子どもの場合はけいれん発作などが見られます。
診断には血液検査で副甲状腺ホルモンやカルシウム、ビタミンD、マグネシウムを測定し、ホルモンが出ているのにカルシウムが低いことを確認します。さらにホルモン注射を行い反応をみる試験が診断に用いられることもあります。
治療の中心は活性型ビタミンD製剤で、腎臓でのカルシウム吸収を助けます。必要に応じてカルシウム製剤も併用され、定期的な血液・尿検査で調整が行われます。過度な治療は腎障害や尿路結石を招く可能性があるため注意が必要ですが、適切な管理で症状は抑えられます。
偽性副甲状腺機能低下症の原因
偽性副甲状腺機能低下症は、大きくI型とII型に分けられます。
I型は「GNAS遺伝子」という遺伝子の異常が原因で起こります。GNAS遺伝子は細胞の中で情報を伝えるために必要な「Gsタンパク」というタンパク質を作る役割を持っています。母親から遺伝子の異常を受け継ぐと発症しますが、家族に同じ異常がない場合でも突然変異によって起こることがあります。
II型ではGNAS遺伝子そのものには異常がありません。しかし、細胞内の情報伝達に関わる他の部分に問題があり、結果としてホルモンの働きに反応できなくなります。
どちらの型でも共通するのは、副甲状腺ホルモンが分泌されているにもかかわらず体がうまく反応できないという点です。
偽性副甲状腺機能低下症の前兆や初期症状について
偽性副甲状腺機能低下症は、乳幼児期に症状が現れることが多く、診断もこの時期にされることが多いです。
主な症状は、低カルシウム血症によって起こります。たとえば、腕を圧迫すると手の筋肉が勝手に縮んで手がすぼめたような形になることがあります。これは「テタニー」と呼ばれます。また、頬を軽くたたくと口の周りの筋肉が引きつるように動くこともあります。これもカルシウム不足による神経や筋肉の過敏さが原因です。
他にも、手足のしびれや感覚の異常、気分が落ち着かない、うつのような気分の変化などの症状がみられることもあります。また、子どもの場合はけいれんが見られることもあります。
偽性副甲状腺機能低下症の検査・診断
偽性副甲状腺機能低下症が疑われるのは、多くの場合、低カルシウム血症による症状が出たときです。
診断のためにはまず血液検査を行い、副甲状腺ホルモン、ビタミンD、マグネシウムなどの値を調べます。ここで、副甲状腺ホルモンは出ているのに、血液中のカルシウムが低いという特徴が確認されます。
さらに、副甲状腺ホルモンに対する反応を確認するため、ホルモンを注射して体の反応をみる試験が行われることもあります。これらの結果を総合して診断がつけられます。
偽性副甲状腺機能低下症の治療
治療の目標は、血液中のカルシウム不足を改善し、テタニーやけいれんなどの症状を防ぐことです。
主な治療法は、活性型ビタミンD製剤を服用することです。これは腎臓でカルシウムを吸収しやすくする働きがあります。注意が必要なのは、食品やサプリメントに含まれる通常のビタミンDとは構造が少し異なる点です。食品やサプリメントでは治療効果は期待できません。また、子どもの場合はカルシウムの値が変動しやすいため、必要に応じてカルシウム製剤も使います。治療を続けるにあたっては、定期的に血液検査や尿検査を行い、血中カルシウムの値を確認しながら薬の量を調整することが欠かせません。
なお、治療のしすぎでカルシウムが多くなりすぎると、腎機能の低下や尿路結石を引き起こす可能性があります。しかし、偽性副甲状腺機能低下症では副甲状腺機能低下症よりもそのリスクは少ないとされています。
適切な治療が行われれば、テタニーやけいれんなどの症状は十分に抑えることができます。
偽性副甲状腺機能低下症になりやすい人・予防の方法
日本では2025年時点で、およそ1500人の患者さんがいると推定されています。男女で発症のしやすさに差はありません。そして、偽性副甲状腺機能低下症I型は遺伝による発症があるため、家族に同じ病気の人がいる場合はリスクが高くなります。ただし、突然変異で発症する場合もあり、必ずしも家族歴があるわけではありません。
現在、偽性副甲状腺機能低下症を予防する方法はまだわかっていません。現時点では、早期に診断して治療を始めることが大切です。
参考文献
- 南学正臣 et al.「内科学書 5 改訂第9版」(中山書店、2019年)118-121ページ
- 難病情報センター「偽性副甲状腺機能低下症(指定難病236)」(最終閲覧日2025年9月6日)




