

監修医師:
前田 広太郎(医師)
腺腫様甲状腺腫の概要
腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter)は、甲状腺において多数の結節(しこり)が出現し、過形成(正常細胞の数が増加すること)と腫瘍性の変化が混じっている良性の病変で、病理学的な診断名を示します。病理学的には、甲状腺濾胞上皮が過剰に増殖し、嚢胞ができて、出血・壊死・線維化・石灰化などが混じり、腺腫(腺細胞が増殖し腫瘍になること)と過形成の間のような形をとります。かつて腺腫様甲状腺腫という名称は、日本国内では一般的に用いられていました。しかし、世界的には1970年代以降、この用語の使用は急速に減少しています。2022年WHO分類(第5版)では、新たに「甲状腺濾胞結節性疾患(thyroid follicular nodular disease)」という包括的用語が導入され、これには従来の腺腫様甲状腺腫を含む、多結節性甲状腺腫、多発性過形成結節、腺腫様結節、コロイド結節などが含まれます。つまり、国際的には「腺腫様甲状腺腫」という用語は徐々に使用されなくなり、「甲状腺濾胞結節性疾患」という概念に統一されつつあるのが現状です。甲状腺癌取扱い規約第9版では、腺腫様甲状腺腫は「甲状腺濾胞が多結節性に増殖し腫大する病変で,単結節性のこともある。」と記載されています。症状としては、多くの場合無症状で、頸部腫大(甲状腺の腫れ)や圧迫感、嚥下障害、声の嗄声などが後期に現れることがあります。ホルモン分泌異常(機能性結節)として、甲状腺機能亢進症を引き起こすこともありますが、基本的には甲状腺機能異常は伴いません。
腺腫様甲状腺腫の原因
甲状腺腫瘍は良性腫瘍、低リスク新生物、悪性新生物の3段階に分類され、腺腫様甲状腺腫は良性腫瘍に分類されます。2022年の第5版WHO分類では、甲状腺濾胞結節性疾患(thyroid follicular nodular disease)に包括されることとなりました。
腺腫様甲状腺腫の原因は不明ですが、びまん性甲状腺腫から発生するという説が有力です。腺腫様甲状腺腫は甲状腺内に結節が多発する疾患であり、腺腫の様に増殖を示す部分、過形成を示す部分、およびほとんど正常の部分が混在します。病理所見として、肉眼的には数個の結節を認めることが多いです。結節はしばしば出血、壊死、嚢胞形成、結合織増生、石灰沈着などがみられます。病理学的には腺腫は腫瘍ですが、腺腫様甲状腺腫は主に過形成であり、区別されます。違いとして、腺腫の結節は孤立しており、被膜で包まれ、全体が均一な組織像ですが、腺腫様甲状腺腫は結節が多発し、被膜で包まれず、結節内の構造が多様であることが違いです。
腺腫様甲状腺腫の前兆や初期症状について
喉ぼとけの近くが腫れ、結節状に腫大した甲状腺腫を触れることができます。結節がはっきりしない場合も多いです。甲状腺全体がたくさんのしこりからなり、正常甲状腺組織がないものから片側だけに2~3個結節を触れるものまでさまざまです。稀に巨大な甲状腺腫のため気管や食道への圧迫症状(ものが飲み込みにくい、呼吸がしづらいなど)を呈することがあります。首の横や縦隔内(肺と心臓の隙間の空間)に大きな腫瘤があると血管を圧迫することもあります。甲状腺の腫瘍ですが、甲状腺機能亢進ならびに低下による症状はみられません。
腺腫様甲状腺腫の検査・診断
まず視診。触診を行います。結節状に腫大した甲状腺腫を触れることができます。甲状腺が腫れていることだけがわかって、結節がはっきりしないことも少なくありません。腺腫様甲状腺腫との鑑別として、経過の長い橋本病の甲状腺腫は非常に硬く、触れただけでは鑑別が難しいことがあります。血液検査では、甲状腺機能(遊離T4、遊離T3、TSH)は正常値です。甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗サイロイドペルオキシダーゼ抗体)は陰性となります。甲状腺の超音波検査では、多発性の結節がみられ、結節が被膜で包まれておらず、結節内部の構造は多様である、といった所見がみられます。上記の項目を全て満たせば腺腫様甲状腺腫の確定診断となります。もともと、腺腫様甲状腺腫は病理学的診断名であり、病理学的診断が行われていれば診断は確実です。悪性腫瘍や他の疾患との鑑別が難しい場合は穿刺吸引細胞診や病理組織診断を行うこともあります。腺腫様甲状腺腫の病理所見は腺腫様に増殖を示す部分、過形成を示す部分、およびほとんど正常と思われる部分が混じっています。
腺腫様甲状腺腫の治療
腺腫様甲状腺腫は、基本的には外科治療の必要はなく、経過観察となります。非常に大きな甲状腺腫や、気管や食道の圧迫症状のある場合、機能性結節を生じた場合、および甲状腺癌の合併が疑われる場合は外科的摘除を行うことがあります。手術を要する比較的大きい腺腫様甲状腺腫は、癌の合併が10~20%にみられるという報告もあり注意が必要です。定期的な診察や超音波検査および甲状腺機能や甲状腺自己抗体のチェックが必要となります。
腺腫様甲状腺腫になりやすい人・予防の方法
腺腫様甲状腺腫は発症率がそれほど多くないとされ、正確に診断されていない症例も多数あると思われ、正確な発症頻度は不明とされます。多結節性甲状腺腫(腺腫様甲状腺腫を含む)の疫学データとしては、ヨウ素欠乏地域では特に高頻度で見られ、先進国でも超音波検査で10〜35%程度に結節を認め、 女性・高齢者に多く、年齢とともに増加する傾向があるという報告があります。予防の方法は確立されていません。
参考文献
- 高見 博:良性腫瘍と腺腫様甲状腺腫の診療. 臨床外科 51巻 2号 pp. 159-164(1996年02月)
- 佐々木 栄司:腺腫様甲状腺腫の細胞診. 検査と技術 53巻 1号 pp. 19-25(2025年01月)
- Sekar, Mithraa Devi, et al. Critical appraisal of the WHO 2022 classification of thyroid cancer. Thyroid Research and Practice 20(1):p 8-14, Jan–Apr 2024.
- 小児慢性特定疾病情報センター:腺腫様甲状腺腫 診断の手引き.
- A Pinchera, et al. Multinodular goiter. Epidemiology and prevention. Ann Ital Chir . 1996 May-Jun;67(3):317-25.
- 菅間 博:腫瘍様病変と良性腫瘍. 日本内分泌外科学会雑誌. 2024 年 41 巻 1 号 p. 3-8




