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井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

甲状腺濾胞がんの概要

甲状腺濾胞がんは、甲状腺に発生するがんの一種です。 甲状腺は首の前側にあり、新陳代謝を調節する甲状腺ホルモンを分泌する蝶の形をした器官です。その甲状腺を構成する濾胞と呼ばれる小さな袋状の組織から発生するのが甲状腺濾胞がんです。甲状腺がんにはいくつか種類がありますが、濾胞がんは乳頭がんに次いで2番目に多く、日本では全甲状腺がんの約5%を占めます。

甲状腺濾胞がんの原因

甲状腺濾胞がんの明らかな原因は、完全には解明されていません。しかし、放射線への被ばくやヨウ素不足など、甲状腺濾胞がんの発症にはさまざまな危険因子が関係すると考えられます。とはいえ、このような危険因子がない、少なくても甲状腺濾胞がんを発症することがあります。「これをすれば確実に防げる」という原因が特定されていないため、誰にでも起こりうる病気といえます。

甲状腺濾胞がんの前兆や初期症状について

甲状腺濾胞がんの初期症状は、はっきりしない場合がほとんどです。多くのケースでは痛みのない小さなしこりとして首に現れます。甲状腺は普段、喉ぼとけのすぐ下あたりにある小さな臓器で、健康な状態では外から触れません。しかし、濾胞がんなどで腫瘍ができると、甲状腺が部分的に腫れてコリコリとした塊に触れることがあります。しかし、しこり以外に症状はなく、体調も普段と変わりません。

しかし、腫瘍が大きくなってくると症状が出ることもあります。例えば、がんの結節が大きくなって気管や食道を圧迫すると、息苦しさ飲み込みにくさを感じる場合があります。また、がんが声帯を動かす神経にまで及ぶと、声がかれる(嗄声)こともあります。決して頻繁ではありませんが、これらの症状があれば甲状腺の病気も疑う必要があります。特に、首のしこりとこうした症状が同時に見られる場合は、できるだけ早めに医療機関を受診しましょう。

その際は内分泌や甲状腺の外来がある病院を受診するのが望ましいです。しかし、そのような病院やクリニックの数は多くないため、より身近な耳鼻咽喉科一般内科を受診して相談します。特に、耳鼻咽喉科では首の領域の診察に慣れており、触診や超音波検査で甲状腺のしこりを評価できます。そのうえで、必要に応じて甲状腺の専門医を紹介してもらえます。

甲状腺濾胞がんの検査・診断

甲状腺濾胞がんが疑われた場合、確定診断までにいくつかの検査を行います。流れとしては、問診・視触診から始まり、画像検査、細胞検査、必要に応じて外科的な生検や手術による確認という順序になります。

医師による診察

まず医師が症状や家族に甲状腺の病気の方がいないか、上記であげたリスクの有無を確認します。そして、首の様子を目で見て、実際に手で触れてしこりの有無や硬さ、大きさ、周囲への癒着の有無などを調べます。

超音波検査

甲状腺の検査で一般的なのが超音波検査です。プローブという器具を首に当て、甲状腺の内部を画像で観察します。超音波検査により、しこりの大きさや数、内部の性状などがわかります。超音波は痛みもなく被ばくもしない安全な検査ですので、甲状腺がんが疑われる場合にはまず行われます。超音波所見から、良性か悪性かある程度の鑑別が可能ですが、確定診断には次の細胞検査が必要になります。

穿刺吸引細胞診

しこりが見つかり甲状腺がんの可能性がある場合、穿刺吸引細胞診という検査を行います。これは細い針を腫瘍に刺して細胞の一部を吸い取り、顕微鏡でその細胞の形を調べる検査です。採取した細胞を病理医が調べ、がん細胞の有無やがんの種類を判定します。この細胞診の結果で「濾胞がんの疑いあり」と報告された場合には、次の段階として手術による診断・治療へ進むことが一般的です。

病理検査

濾胞がんは細胞診だけでは良性の濾胞腺腫との区別が難しいことがあります。そのため、濾胞がんが強く疑われる場合には診断も兼ねて外科的に腫瘍を切除する手術が行われます。このように、濾胞がんの確定診断には手術による組織検査が必要になることがある点がほかの甲状腺がんと異なるポイントです。

血液検査

甲状腺の機能や関連物質を調べるための採血も行います。具体的には甲状腺ホルモン(遊離T4やT3)や、甲状腺刺激ホルモン(TSH)などの値を測定します。また、サイログロブリン(Tg)という、甲状腺細胞で作られるタンパク質の値も測定されることがあります。サイログロブリンは甲状腺がんの腫瘍マーカーとして用いられ、手術後の再発チェックに有用です。

画像検査

細胞診の結果が甲状腺がんと確定した場合、病期(ステージ)を評価するために追加の画像検査を行うことがあります。首の断面を詳しく見るCT検査や、骨への転移を調べるMRI検査、全身のがんの広がりをみるPET検査などが必要に応じて選択されます。

甲状腺濾胞がんの治療

甲状腺濾胞がんと診断された場合、治療の基本は手術です。濾胞がんは治療が効きやすいがんなので、手術でがん組織を取り除くことで多くの場合は根治を目指せます。加えて、状況に応じて放射性ヨウ素内用療法やホルモン療法、分子標的薬による治療などを組み合わせます。

手術

濾胞がんの手術では、がんの広がりや大きさに応じて甲状腺を部分的に切除するか、すべて切除するかを決めます。濾胞がんが疑われる段階では、まず腫瘍のある側の甲状腺葉の摘出手術(片葉切除術)を行い、取り出した組織を詳しく調べます。 この段階でがんであると確定したら、残っている反対側の甲状腺も追加で全部摘出する甲状腺全摘手術を行うことがあります。

一方、初診の時点で遠隔転移が認められるような進行例では、最初から甲状腺をすべて摘出する手術を選択することが多いです。

放射性ヨウ素内用療法(RAI療法)

甲状腺濾胞がんの特徴として、ヨウ素を取り込む性質が挙げられます。そこで、手術後に放射性ヨウ素のカプセルや液体を内服し、体内に残った甲状腺がん細胞を内部から破壊する治療を行います。これを放射性ヨウ素内用療法と呼び、甲状腺がん特有の治療法です。

ホルモン療法

手術で甲状腺を全部または大部分切除すると、身体は甲状腺ホルモンが不足した状態になります。そのままでは下垂体からTSH(甲状腺刺激ホルモン)が大量に分泌され、残存する甲状腺組織やがん細胞を刺激してしまいます。再発予防の観点からTSHをあまり分泌させないようにするのが望ましいのです。そこで、甲状腺ホルモン薬(レボチロキシンなど)を適切な量服用し、TSHの分泌を抑制する治療が行われます。

薬物療法

甲状腺濾胞がんでは、上記までの手術・放射性ヨウ素療法・ホルモン療法で多くの場合コントロールできます。しかし、がんが進行して手術で完全に取り切れない場合や、放射性ヨウ素療法を行っても効果が得られない場合には、分子標的薬と呼ばれるタイプの抗がん剤による治療を検討します。ただし、副作用も多岐にわたるため、患者さんの全身状態やがんの勢いなどを総合的に判断して使用されます。

甲状腺濾胞がんになりやすい人・予防の方法

甲状腺濾胞がんになりやすい方

以下のような危険因子があるとされています。このような要素を複数持つ方は、一般の方よりも濾胞がんを発症しやすい可能性があります。ただし、実際にはリスクがまったくない方から濾胞がんが発生することも多々あります。リスク要因に当てはまらないからといって安心せず、首のしこりなど異常に気付いたら年齢や性別を問わず検査を受けることが大切です。

女性

女性に多く、男性の約3倍発症しやすいことがわかっています。特に30歳代以降の女性でリスクが高くなります。

ヨウ素摂取不足

現在の日本ではあまり問題になりませんが、内陸部で海産物を摂らない食生活の方が多い地域では、甲状腺腫や濾胞がんの頻度が高いとされています。

放射線被ばく歴

小児期に放射線治療を受けた、放射能事故の被ばく地域にいた、といった方では甲状腺がん全般のリスクが上がります。

遺伝性の要因

家族に甲状腺がんの方が多い場合や、Cowden症候群など甲状腺がんの合併が知られる遺伝子変異を持つ場合です。

甲状腺濾胞がんの予防方法

結論からいえば確実な予防法は確立されていません。しかし、以下のような対策がリスクを下げるのに有用と考えられています。現在のところ、甲状腺濾胞がんそのものを完全に予防する方法はありませんが、下に記すような対策でリスクを下げたり、早期発見の可能性を高めたりすることは可能です。

適切なヨウ素摂取

ヨウ素不足が濾胞がんのリスクを高める一因であるため、日頃から適度なヨウ素を含む食品を摂ることが推奨されます。

不必要な放射線被ばくを避ける

医療被ばく(レントゲン検査やCT検査)は必要最小限に留めることが望ましいです。特に小児の検査でCTなどを行う際は、医師と相談して本当に必要かを検討します。

定期検診と早期発見

症状がなくても、健診などで甲状腺のチェックを受ける機会があれば積極的に利用しましょう。超音波検査は痛みもなく短時間で甲状腺の様子を観察できます。特にリスクの高い方は、定期的に甲状腺検査を受けて早期発見に努めることが最大の予防となります。

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