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甲状腺未分化がん
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

甲状腺未分化がんの概要

甲状腺未分化がんは、甲状腺にできるがんのなかでも極めて進行が早いタイプのがんです。甲状腺がん全体の1.4%と比較的まれな病態であるものの、甲状腺がんによる死亡例の約1/3を占めるとされ、予後(経過)の悪いことが知られています。発症者の多くは高齢者で、発症は男性にやや多いとされています。

甲状腺がんは、がん細胞の状態によって大きく「分化がん」と「未分化がん」に分けられます。分化がんは比較的ゆっくりと病状が進行するのに対し、未分化がんは悪性度が高く、急激に進行することが特徴です。

「甲状腺」はのど仏の下あたりに位置し、周囲には副甲状腺や食道、気管、喉頭などの組織があるほか、動脈や神経などが走行しています。代謝などに重要な役割がある「甲状腺ホルモン」を分泌する組織です。 甲状腺未分化がんでは、甲状腺が位置する首の腫れや痛みなどの症状が見られ、病状が進行するにつれて飲み込みにくさ(嚥下困難)や呼吸困難などの症状が現れます。また、末期まで進行するとがんが周囲の組織に転移し、さまざまな症状が現れるようになります。

診断後の生存期間は3ヶ月〜6ヶ月程度と予後不良でありく、標準的な治療も確立されていません。しかし、進行が早くさまざまな症状が出現することからも、積極的な治療の有無に関わらず、症状に応じた全身療法が必要となるケースが多いです。

参考文献:佐藤伸也ほか 「甲状腺濾胞性腫瘍の経過観察中に未分化転化した甲状腺未分化癌の1例」

甲状腺未分化がんの原因

甲状腺未分化がんの主な原因は、もともと発症していた甲状腺がんの細胞の性質が変化することだと考えられています。

甲状腺がんは、未分化がんのほかに「低分化がん」「濾胞がん」「髄様がん」「乳頭がん」などが知られています。いずれも遺伝子の異常や放射線による被曝、体重の減少などのリスク因子によって発症することがあります。

がん細胞が正常な細胞の状態をどの程度維持しているかを「分化度」といい、その状態によって未分化、低分化、高分化と評価されます。分化度が低いほどがん細胞が活発に増殖する傾向にあるため、未分化がんは最も悪性度の高い状態であるといえます。

甲状腺未分化がんでは、長期間存在していた甲状腺がんの細胞の性質が何らかの理由により変化(未分化転化)して発症するケースが多く見られます。

甲状腺未分化がんの前兆や初期症状について

甲状腺未分化がんでは、腫瘍が位置する首の腫れや痛みなどの症状が見られます。

非常に進行が早く数日から数週間で腫瘍が大きくなるため、腫瘍が周囲の組織を圧迫し、呼吸困難や飲み込みにくさ、血痰、声枯れ(嗄声)などの症状が見られるようになります。また、体重の減少や全身倦怠感、発熱などの全身症状が出現することもあります。

甲状腺未分化がんは、診断された時点で肺や気管、神経など周囲の組織だけでなく、離れた臓器にまで転移しているケースもあります。そのため、転移している組織によってさらにさまざまな症状が現れる可能性もあります。

甲状腺未分化がんの検査・診断

甲状腺未分化がんを発症する患者さんの多くは、もともと甲状腺がんを発症していると考えられています。したがって、甲状腺未分化がんの診断では、甲状腺がんと同様に、触診などの身体診察や、血液検査、超音波検査、造影剤を用いたCT検査やMRI検査のほか、腫瘍から細胞を一部採取して顕微鏡で調べる「細胞診」などがおこなわれます。

さらに、がん細胞の分化度を評価するためには病理組織学的検査が必要です。病理組織学的検査では、局所麻酔や全身麻酔をかけ、腫瘍組織を採取してがん細胞の状態を詳しく調べます。

甲状腺未分化がんの治療

甲状腺未分化がんでは、外科的手術や化学療法、放射線療法のほか、症状に応じた対症療法がおこなわれます。ただし、甲状腺未分化がんは病状の進行が早いことでも知られるため、患者さんの全身状態などにより、積極的治療の選択肢が限られることもあります。

外科的手術による甲状腺の全摘出は、甲状腺未分化がんを早期発見できて、転移や浸潤が少ない状況であれば選択されます。

化学療法では、「分子標的薬」による治療が試みられることがあります。

放射線療法には、体の外側から腫瘍や転移組織に向けて放射線を照射する「体照射」や、放射性物質を含む薬剤を点滴などで投与する「内照射」があり、発症者の状態によって選択されます。

このほか、甲状腺未分化がんでは、腫瘍の急激な増大や転移などにより短期間でさまざまな症状が出現することがあります。そのため、呼吸困難に対する気管切開や酸素療法など、緊急での対処が行われることもあります。

また、上記の場合も含めて、根本的な治療が選択できないような場合は、、精神的な苦痛や痛みなどを和らげることを中心におこなう「緩和ケア」も考慮されます。

甲状腺未分化がんになりやすい人・予防の方法

甲状腺未分化がんは誰でも発症する可能性がありますが、発症例は高齢の男性に多い傾向があります。 甲状腺がんを発症している人は、甲状腺未分化がんの発症リスクについて考慮する必要があると言えるでしょう。

甲状腺未分化がんの多くは他の甲状腺がんのがん細胞が未分化へと変性することで発症すると考えられています。したがって、甲状腺未分化がんを予防するには、甲状腺がんの予防に努めるほか、既に甲状腺がんを発症している場合は、適切な診断と治療を受けることが重要です。

関連する病気

  • 甲状腺低分化がん
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