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内分泌異常症
前田 広太郎

監修医師
前田 広太郎(医師)

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2017年大阪医科大学医学部を卒業後、神戸市立医療センター中央市民病院で初期研修を行い、兵庫県立尼崎総合医療センターに内科専攻医として勤務し、その後複数の市中急性期病院で内科医として従事。日本内科学会内科専門医、日本腎臓学会腎臓専門医、日本透析医学会透析専門医、日本医師会認定産業医。

内分泌異常症の概要

内分泌異常症とは、ホルモン分泌・作用の異常(過剰または不足、またはホルモンに対する身体の反応不良)によって生じる多様な疾患の総称です。甲状腺、副腎、膵臓、性腺、副甲状腺、下垂体、視床下部などが主な病変となります。異常をきたすホルモンの種類によって多彩な症状があらわれます。治療はホルモンの補充やホルモンの抑制、手術や放射線によるものなど疾患によって様々な治療法があります。

内分泌異常症の原因

内分泌とは、分泌物を排出する管を通さず、内分泌細胞という細胞から「血液中に直接」物質を放出することを言います。内分泌される物質のことをホルモンと言います。ホルモンは血流にのって遠く離れた細胞に物質を作用させることができます。内分泌異常症とはホルモンの分泌や作用に異常が起こる病気の総称です。内分泌を行う臓器は主なものとして、脳(視床下部、下垂体)、甲状腺、副甲状腺、膵臓(膵頭細胞)、副腎、精巣・卵巣といった臓器がホルモンを分泌します。ホルモンを分泌することにより、体の様々な機能を調節したり制御を行います。一般的に内分泌異常症といえばこのような臓器によるホルモンの異常を示すことが多いですが、他の臓器(腎臓におけるエリスロポエチンなど)も様々なホルモンを産生したり、異常をきたしたりします。

ホルモンには様々な種類がありますが、構造としては主にペプチド、ステロイド、アミノ酸誘導体の3つに分けられます。ホルモンが標的となる細胞の表面に位置する受容体に結合することによって、細胞に様々なシグナルを送り細胞の機能を調節します。

内分泌の多くが下垂体ホルモンによって調整され、下垂体ホルモンは視床下部という脳の一部分でさらに調節されています。視床下部は神経系から情報を受け取り、下垂体へと情報を送り、下垂体は特定の内分泌腺を刺激するホルモンを分泌します。ホルモンの血中濃度が変化すると、視床下部がその変化を感じ取り、下垂体を調節することで人体の機能が一定保たれています。

下垂体から出る主なホルモンとして、下垂体前葉から分泌する副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、成長ホルモン、プロラクチンなどがあります。下垂体後葉からはバソプレシン、オキシトシンといったホルモンが分泌されます。

内分泌異常症の原因は様々です。内分泌腺に腫瘍ができたり、細胞が過剰にできることによるホルモン過剰(例:甲状腺機能亢進症、クッシング症候群)、 自己免疫によって内分泌腺が破壊される(例:橋本病、アジソン病)、 遺伝によって特定の酵素欠損している(例:先天性副腎過形成)、 下垂体・視床下部の腫瘍や外傷による続発性障害 、 環境化学物質(内分泌攪乱化学物質)による影響、ホルモンに対する抵抗性(受容体異常など)、薬剤による腺障害などが挙げられます 。

内分泌攪乱物質にはエストロゲン様作用、抗エストロゲン作用、アンドロゲン様作用、抗アンドロゲン作用などさまざまなホルモン様作用を持ち、特に生殖や発達をはじめ、健康に幅広い影響を及ぼすことが知られています。

内分泌異常症の前兆や初期症状について

内分泌異常症は異常なホルモンの種類によって症状は異なります。症状の出方にはホルモンの量により個人差があります。

甲状腺ホルモンが過剰になると体重減少、頻脈、発汗、振戦、眼球突出などの症状がみられます。甲状腺ホルモンが不足すると、疲労感、皮膚乾燥、むくみ、寒がり、便秘、無気力、脱毛、体重増加、傾眠、月経異常などの症状が現れます。

副腎のホルモンであるコルチゾールが過剰だと、満月様顔貌といって顔がむくんだような状態になり、多毛、にきび、腹部や臀部に赤い筋ができたり、皮下出血しやすくなる、お腹が出ている割に手足が細くなったり、皮膚が薄くなって血管が透けて見える、血圧が高い、といった症状が現れます。コルチゾールが不足すると、全身倦怠感、食思不振、体重減少、血圧が低い、抑うつなどの症状が現れます。

膵臓から分泌されるインスリンという血糖値を下げるホルモンが欠乏すると、口渇、多飲、多尿、体重減少といった症状が現れることがあります。

性ホルモン異常として、男性ホルモンであるテストステロンが不足すると疲労、性欲低下、勃起障害、筋力低下といった症状が現れます。女性ホルモンであるエストロゲンや黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモンなどの異常が起こると月経異常、肥満、不妊、ニキビなどの様々な症状が現れます。

成長ホルモンが過剰になると、舌が大きくなる、いびきが大きい、いつも手が汗ばむ、指先が痺れる、額や目の上が飛び出ている、鼻や唇・下あごが大きくなった、手足が大きくなった、など多彩な症状がみられることがあります。また、腫瘍の部位によっては視神経に影響を及ぼすため、頭が痛い、視力が下がった、視野が狭くなったと感じる人もいます。

褐色細胞腫というカテコラミン類のホルモンが上昇する病気では、頭痛、動機、発汗、体重減少といった症状がみられます。

内分泌異常症の検査・診断

血液検査でホルモンの血中濃度を測定します。甲状腺ホルモン(FT4、FT3)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、コルチゾール、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、インスリン、テストステロン、エストロゲン、黄体ホルモン、卵胞刺激ホルモン、成長ホルモン、プロラクチン、アルドステロン、レニンなどといったホルモンを測定します。尿中のホルモンを測定する場合もあります。病気によっては特定の検査項目(電解質や脂質異常症)で異常をきたす場合があり、病状に応じて検査を行います。

ホルモンを測定する前に、特定の薬剤やホルモンを投与してから検査を行う負荷試験という検査もあります。主なものとして、副腎不全に対するACTH刺激試験や、クッシング症候群に対するデキサメタゾン抑制試験、糖尿病に対するブドウ糖負荷試験などがあります。

内分泌異常症によっては腫瘍などが見つかる場合もあり、必要に応じてCT、MRI、シンチグラフィといった画像検査を行います。必要に応じて遺伝子検査も追加します。

内分泌異常症の治療

内分泌異常症の治療は疾患によって異なります。

ホルモンが欠乏している場合はホルモンの補充療法(例:甲状腺機能低下に対するチラーヂン投与)、ホルモンが過剰であればホルモン抑制する薬剤(例:甲状腺機能亢進症に対するチアマゾール)を投与し治療を行う場合が多いです。過形成や腫瘍が原因の場合は、外科的に病変や腫瘍を取り除いたり、放射線を用いた治療を行うこともあります。2型糖尿病の様に、食事や運動といった生活習慣を改善することで治療できる場合もあります。

内分泌異常症になりやすい人・予防の方法

内分泌異常症として最も有病率が高いのは糖尿病で、成人での有病率11.2%と推定されていますが、糖尿病は一般的な内分泌異常症というよりも糖尿病という分類で議論されることがほとんどです。有病率が高い内分泌異常症としては、橋本病をはじめとした甲状腺機能低下症で、潜在的な甲状腺機能低下症も含めると国内で300万人から600万人程度と推定され、女性に多いとされます。バセドウ病をはじめとした甲状腺機能亢進症は有病率0.2~1.0%と推定されており女性に多いとされます。原発性アルドステロン症は全高血圧症患者の5~10%程度の有病率とも推定されています。成長ホルモン過剰による先端巨大症は10万人あたりの有病率9.2人との報告があり、男女差はほとんどありません。原発性副腎皮質機能低下症は10万人あたり0.5人程度の有病率で男女差はあまりないとされます。

2型糖尿病は食事内容の改善や運動など生活習慣の改善による予防が可能ですが、他の内分泌異常症に対しては確立されている予防方法はありません。

参考文献

  • 1)Natsuko Watanabe, et al. Prevalence, Incidence, and Clinical Characteristics of Thyroid Eye Disease in Japan. J Endocr Soc . 2023 Nov 27;8(1):bvad148.
  • 2)Keisuke Matsubayashi, et al. Prevalence, incidence, comorbidities, and treatment patterns among Japanese patients with acromegaly: a descriptive study using a nationwide claims database. Endocr J . 2020 Oct 28;67(10):997-1006.
  • 3)R Takayanagi, et al. Epidemiologic study of adrenal gland disorders in Japan. Biomed Pharmacother . 2000 Jun:54 Suppl 1:164s-168s.
  • 4)Keisuke Matsubayashi, et al. Prevalence, incidence, comorbidities, and treatment patterns among Japanese patients with acromegaly: a descriptive study using a nationwide claims database. Endocr J. 2020 Volume 67 Issue 10 Pages 997-1006
  • 5)Up to date:Endocrine-disrupting chemicals

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