

監修医師:
上田 莉子(医師)
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関西医科大学卒業。滋賀医科大学医学部付属病院研修医修了。滋賀医科大学医学部付属病院糖尿病内分泌内科専修医、 京都岡本記念病院糖尿病内分泌内科医員、関西医科大学付属病院糖尿病科病院助教などを経て現職。日本糖尿病学会専門医、 日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本専門医機構認定内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医、内科臨床研修指導医
目次 -INDEX-
多発性内分泌腺腫症の概要
多発性内分泌腫瘍症(multiple endocrine neoplasia:MEN)は、複数の内分泌臓器に良性または悪性の腫瘍が異時性に多発する遺伝性疾患です。発症する病変の組み合わせや、原因遺伝子によって、大きく1型(MEN1)と2型(MEN2)に分類されます。多発性内分泌腺腫症の原因
多発性内分泌腫瘍症の主な原因は下記のとおりです。MEN1
MEN1は、11番染色体長腕に存在する腫瘍抑制遺伝子MEN1の変異が原因で発症する常染色体優性遺伝性疾患です。腫瘍抑制遺伝子MEN1は常染色体優性遺伝で、親から子へ50%の確率で遺伝します。MEN1遺伝子変異を持つ方の生涯発症率はほぼ100%です。 家族歴のあるMEN1患者さんの約90%、家族歴のない患者さんの約50%にMEN1遺伝子の変異が認められます。変異の位置や種類と臨床像の関連は明確ではありません。MEN2
MEN2は、がん原遺伝子であるRETの変異が原因で発症する常染色体優性遺伝性疾患です。MEN1と同様に、常染色体優性遺伝形式をとります。MEN2A、MEN2B、FMTCの各病型は、RET遺伝子の異なる変異と関連しています。多発性内分泌腺腫症の前兆や初期症状について
多発性内分泌腫瘍症の前兆や初期症状を解説します。多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の前兆・初期症状
MEN1は、副甲状腺機能亢進症、下垂体腺腫、膵消化管内分泌腫瘍が多発する疾患です。特に副甲状腺機能亢進症が初発病変となることが多いとされています。副甲状腺機能亢進症に関連する症状
高カルシウム血症による尿路結石が起こることがあります。消化性潰瘍(高カルシウム血症やガストリノーマによる)もみられることがあります。下垂体腺腫に関連する症状
女性では無月経や、プロラクチノーマにより乳汁分泌が起こることがあります。成長ホルモン産生腫瘍により先端巨大症を発症することもあります。膵消化管内分泌腫瘍に関連する症状
インスリノーマによる低血糖症状がみられます。具体的には、冷や汗や動悸、震え、意識障害などです。これらの症状は、若年で発症することがあります。 ガストリノーマによる消化性潰瘍、腹痛、下痢なども膵消化管内分泌腫瘍に関連する症状です。さらにグルカゴノーマやソマトスタチノーマやVIPオーマなどの機能性腫瘍が生じることもあります。まれではありますが、遊走性壊死性紅斑、糖尿病、胆石などの症状がみられることがあります。多発性内分泌腫瘍症の発症平均年齢
発症の平均年齢は20歳代ですが、診断は40歳代と遅れることが多い傾向です。非機能性膵内分泌腫瘍は健診などで偶然発見されることがあります。多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の前兆・初期症状
MEN2は、甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、副甲状腺機能亢進症(MEN2A)を特徴とする疾患です。甲状腺髄様がん
初期には無症状のことが多いです。進行すると、頸部やリンパ節の腫れとして気付かれることがあります。褐色細胞腫
高血圧を発症することがあります。動悸、頭痛、発汗過多がみられます。不安感、神経過敏などの自律神経症状を伴うことがあります。未診断のまま進行すると、クリーゼによる突然死のリスクがあるため注意が必要です。副甲状腺機能亢進症(MEN2A)
MEN1と同様に、高カルシウム血症に関連する症状がみられることがあります。代謝内分泌科を受診しましょう。多発性内分泌腺腫症の検査・診断
多発性内分泌腫瘍症(MEN)は、臨床症状、家族歴、遺伝学的検査を組み合わせて診断されます。MEN1とMEN2では診断基準が異なるため、それぞれ適切な検査が必要です。多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の診断
MEN1は、以下のいずれかを満たす場合に診断されます。- 原発性副甲状腺機能亢進症、膵消化管内分泌腫瘍、下垂体腺腫のうち2つ以上を認める場合
- 上記のいずれか1つを有し、家族にMEN1の診断を受けた方がいる場合
- MEN1遺伝子の病原性変異が確認された場合
検査のポイント
内分泌機能検査
- 副甲状腺機能亢進症:血清カルシウム・副甲状腺ホルモン(PTH)の測定
- 下垂体腫瘍:プロラクチン、成長ホルモンなどの測定
- 膵消化管内分泌腫瘍:ガストリン、インスリン、グルカゴンなどの測定
画像検査
超音波、CT、MRIで腫瘍の有無を確認します。MEN1のガストリノーマは十二指腸に多発しやすいため、超音波内視鏡(EUS)や上部消化管内視鏡が有用です。選択的動脈内カルシウム注入試験(SACI test)
ガストリノーマやインスリノーマの診断、および腫瘍の局在診断に用いられることがあります。遺伝学的検査
MEN1が疑われる症例や家族歴がある場合は、MEN1遺伝子変異を調べます。この検査は未発症の変異保有者(キャリア)を特定し、早期の健康管理に役立ちます。多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の診断
MEN2(MEN2A・MEN2B)は、以下のいずれかを満たす場合に診断されます。- 甲状腺髄様がんと褐色細胞腫を有する場合
- 上記のいずれかを有し、家族にMEN2の診断を受けた方がいる場合
- RET遺伝子の病原性変異が確認された場合
検査のポイント
内分泌機能検査
- 甲状腺髄様がん:血清カルシトニン値の測定、頸部超音波、生検
- 褐色細胞腫:血中・尿中カテコールアミンとその代謝物の測定
- 副甲状腺機能亢進症(MEN2A):→血清カルシウム・PTHの測定
画像検査
甲状腺、副腎(褐色細胞腫)、副甲状腺の腫瘍を超音波・CT・MRIで評価します。遺伝学的検査
RET遺伝子の変異を調べ、未発症のキャリアを特定します。また、MEN2A、MEN2B、FMTCの病型と関連する特定の遺伝子変異を確認します。遺伝性疾患に合併する神経内分泌腫瘍(NEN)の検査
MEN1やフォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)などの遺伝性疾患に伴う神経内分泌腫瘍(NEN)は、散発性のものとは異なるアプローチが求められます。 【MEN1に伴う膵消化管NENが疑われる場合】- 副甲状腺過形成(高カルシウム血症、PTH高値、頸部超音波)を確認
- 下垂体腫瘍のスクリーニング(下垂体ホルモン測定、下垂体MRI)を実施
- 膵NENを超音波内視鏡(EUS)やCTで評価
多発性内分泌腺腫症の治療
多発性内分泌腫瘍症の治療は原因によって異なります。具体的には下記のとおりです。多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)の治療
MEN1の治療の基本は、発生した腫瘍に対する外科的切除ですが腫瘍が複数発生するため、長期的な管理が必要です。原発性副甲状腺機能亢進症の治療
手術適応がある場合、副甲状腺全摘+前腕筋への自家移植が標準的な術式です。術後の低カルシウム血症を防ぎ、再発時の対応を容易にするよう配慮されています。下垂体腫瘍の治療
プロラクチノーマは薬物療法(ドーパミン作動薬)が第一選択です。その他の下垂体腺腫は、腫瘍の種類や大きさに応じて手術や放射線治療を検討します。膵消化管内分泌腫瘍(GEPNET)の治療
機能性腫瘍(ガストリノーマ・インスリノーマなど)は外科的切除が基本です。- ガストリノーマ:十二指腸多発例が多いため、積極的な手術が推奨
- インスリノーマ:核出術が適応(単発で浸潤がない場合)
- 非機能性腫瘍:10mm以下は経過観察、10~20mm以上は切除を検討
切除不能な膵神経内分泌腫瘍(P-NET)の治療
オクトレオチド、エベロリムス、スニチニブなどの薬物療法が考慮されます。胸腺神経内分泌腫瘍の治療
診断時に遠隔転移を伴うことが多く、予後不良 進行例では化学療法や分子標的治療が検討されます。多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)の治療
MEN2の治療は、病型(MEN2A、MEN2B、FMTC)に応じて異なるため、適切な対応が求められます。甲状腺髄様がんの治療
甲状腺全摘が基本(リンパ節転移があれば郭清術を追加)です。RET遺伝子変異に応じた予防的甲状腺切除が推奨されます。褐色細胞腫の治療
手術が第一選択です。手術を行う場合には、術前にα遮断薬で高血圧を管理します。副甲状腺機能亢進症(MEN2A)の治療
MEN1と同様に、副甲状腺摘出が行われることがあります。多発性内分泌腺腫症になりやすい人・予防の方法
多発性内分泌腫瘍症になりやすい方の特徴や予防方法を解説します。多発性内分泌腫瘍症になりやすい人
MENは遺伝性の疾患であり、特定の遺伝子変異を持つ方が発症リスクが高くなります。多発性内分泌腫瘍症の予防法
MENは遺伝子変異を予防することはできませんが、早期発見と適切な管理が重要です。 【早期発見と適切な管理のポイント】- 早期発見とスクリーニング(定期的な検査で腫瘍の発生を早期に検出)
- 遺伝カウンセリング(疾患の理解を深め、家族への影響を考慮)
- 合併症の予防と管理(高カルシウム血症、低血糖、消化性潰瘍などの対策)
関連する病気
- 副甲状腺腫瘍
- 膵内分泌腫瘍
- 甲状腺髄様癌
参考文献
- 日本内分泌学会(編):多発性内泌腺腫瘍症,内分泌代謝科専門医研修ガイドブック 診断と治療社、東京




