有機酸代謝異常症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

有機酸代謝異常症の概要

有機酸代謝異常症は、アミノ酸の代謝に必要な酵素が正常に機能しない病気です。生まれつき代謝機能に問題が生じる「先天性代謝異常」の1つに分類され、出生直後あるいは乳幼児期のうちに発症し診断されます。

有機酸代謝異常症では、遺伝子変異を主な原因として、アミノ酸の代謝が正常におこなわれないことにより、体内に「有機酸」と呼ばれる物質が過剰に蓄積し、さまざまな健康問題を引き起こします。

蓄積されやすい有機酸の種類や病態の違いにより、有機酸代謝異常症はさらに10種類以上に分類されますが、アミノ酸の代謝異常が原因となる点は共通しています。

有機酸代謝異常症の症状は、重症度によって異なります。
比較的軽症の例としては、乳幼児期以降にみられる嘔吐、哺乳不良、発達や成長の遅れ、傾眠などがあげられます。
重症例では、出生直後から哺乳困難が見られ、けいれんや昏睡状態におちいることもあり、適切な治療が遅れると、生命に関わる危険な状態に至る可能性があります。

診断は主に血液検査や尿検査によっておこなわれます。
タンデムマス法を用いた新生児マススクリーニングも、この疾患の早期発見に大きく貢献しています。

現在のところ、有機酸代謝異常症に対する根本的な治療法は確立されていません。
主な治療法としては、急性期の対症療法のほか、低タンパク質・高エネルギー食を基本とする食事療法がおこなわれます。
また、特殊なミルクの使用や肝臓移植なども考慮されます。

有機酸代謝異常症に対しては、早期発見がもっとも重要です。適切な治療法を組み合わせて継続することにより、症状のコントロールと生活の質の向上が図られています。

有機酸代謝異常症の原因

有機酸代謝異常症は、アミノ酸代謝に必要な酵素に関わる「遺伝子の変異」によって引き起こされます。

有機酸代謝異常症に限らず、現在知られている先天性代謝異常の多くは、遺伝子の変異が原因となって発症すると考えられています。有機酸代謝異常症の発症に関わる遺伝子は複数見つかっており、詳細な発症メカニズムなどが病態ごとに研究されています。

人間の生命活動維持に必要となる栄養素の中で、主にタンパク質から得られるアミノ酸は、脂質や糖質と並んで重要な役割を果たします。有機酸代謝異常症では、このアミノ酸からエネルギーを得る過程などの一部がうまく働かなくなる異常が、共通してみられます。

その結果体内では、代謝の過程で生じた有機酸などがうまく分解されないまま過剰に蓄積し、さまざまな障害を引き起こす原因となります。

有機酸代謝異常症の前兆や初期症状について

有機酸代謝異常症は主に乳幼児期から症状が現れることが多く、重症度によって症状が異なります。
軽症例では、嘔吐や哺乳不良、傾眠、活気不良、下痢、発熱などが見られます。

重症例では出生後の哺乳開始とともに、これらの症状に加えてけいれんや昏睡状態におちいることがあります。
この状態では、早期に適切な治療をおこなわなければ生命の危険が伴うため注意が必要です。

有機酸代謝異常症の検査・診断

有機酸代謝異常症の診断は、血液検査、尿検査など複数の方法を組み合わせておこなわれます。

血液検査では血液ガス分析も利用し、高アンモニア血症や代謝性アシドーシスの有無について確認します。
尿検査では、ケトン体陽性や特異的な有機酸の上昇が認められることが診断の手がかりになります。

これらのほか、遺伝子検査によって、アミノ酸代謝を担う酵素に関わる遺伝子の変異について調べることもあります。

検査結果を総合的に評価し、有機酸代謝異常症の診断をおこないます。

また、気づかれにくい先天性疾患の早期発見のためにおこなわれる「新生児マス・スクリーニング検査」は、この疾患の早期発見にも役立てられています。新生児マス・スクリーニング検査では、日齢4日から6日の新生児から少量の血液が採取され、先天性代謝異常症を中心とした複数の疾患の可能性について簡易的なチェックがおこなわれています。

有機酸代謝異常症の治療

有機酸代謝異常症に対する根本的な治療法は現在のところなく、急性の症状に対しては対症療法がおこなわれています。
また日常的に、急性症状の予防や軽減を目的として、低タンパク質・高エネルギー食を中心とする食事療法がおこなわれます。
タンパク質やエネルギーの摂取量は患者の成長過程を考慮して決定されます。

食事療法では、特殊ミルクを使用してタンパク質摂取を抑えつつ必要な栄養素を補うこともあります。

急性症状による嘔吐などで経口摂取が困難な場合は、ブドウ糖の点滴が実施されます。
重症例では、鼻や胃からチューブを通して経管栄養をおこなうこともあります。

薬物療法も重要で、有機酸の産生を抑制したり排泄を促進したりする薬剤が投与されます。発症初期や症状が重篤な場合は、入院による集中治療が必要となるケースもあります。

生活の質が著しく低下している場合や神経症状が悪化している場合には、肝移植も検討されます。

しかし、手術自体の負担や移植後の拒絶反応、免疫抑制剤の副作用などのリスクも考慮される必要があります。

有機酸代謝異常症になりやすい人・予防の方法

有機酸代謝異常症は、両親が変異遺伝子を保有している場合に子どもが発症する可能性があります。
有機酸代謝異常症に対する直接的な予防法は現在のところ存在しません。

胎児期の遺伝子カウンセリングや新生児期の新生児マス・スクリーニングを通じて早期発見につながる可能性があります。
早期発見は適切な治療の準備を可能にし、重篤化を防ぐための重要な対策となります。

また、発症後は定期的な検査と適切な食事療法を継続することが大切です。


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