性分化異常症
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

性分化異常症の概要

性分化異常症(性分化疾患)とは、精巣や卵巣などの内性器や、外陰部などの外性器が典型的な外観とは異なる状態を示す疾患です。一つの疾患名ではなく、原因や病態によって異なるさまざまな疾患の総称です。

性の分化は、胎児期に性染色体の情報や、性ホルモンの作用により行われます。しかし、性ホルモンの分泌に異常があったり、性ホルモンへの反応が低下したりすることで性器が正常に作られず、非定型的な形態を示すことがあります。また、性ホルモンを分泌する精巣や卵巣などの性腺が正常に作られず、思春期に二次性徴が見られないこともあります。

性分化異常症は、生後すぐに外性器の形態異常が見られることで診断されることが多いですが、思春期になっても二次性徴が現れないことから発見される場合もあります。

治療法には大きく内科治療と外科治療があり、患者の病態や重症度によって選択されます。

性分化異常症の原因

性分化異常症は、胎児期に性器が作られる過程で何らかの異常が生じることが原因と考えられています。

性器は、性を決定する性染色体の情報に基づき、自身から分泌される男性ホルモンの作用によって作られます。胎児期に内性器や外性器典が作られる過程を「性分化」といい、男性では精巣、女性では卵巣など、性別に応じた性器が作られます。

しかし、男性ホルモンが正常に分泌されず、男性ホルモンに対する反応が低下していたり、性腺の機能が不十分だったりすることで性分化のいずれかの過程に異常が生じ、性器が通常と異なる外観を呈することがあります。

また、少量の男性ホルモンを分泌する副腎という臓器の機能異常(先天性副腎過形成)がある場合にも、外陰部の異常を来すことがあります。

性分化異常症の前兆や初期症状について

性分化異常症では、生後すぐに外性器の形が通常とは異なる外観を呈することがあります。外性器の形態は、男性に近いタイプから女性に近いタイプまでさまざまです。

生後すぐに発見されない場合でも、思春期になって二次性徴が見られないことで気づかれるケースもあります。

このような場合には、女性の場合には13歳以降にも乳房の発育がなかったり、15歳になっても月経が始まらなかったりすることがあります。一方、男性の場合には、16歳になっても声変わりしない、14歳になっても精巣の発育がみられないことがあります。

出典:一般社団法人日本小児内分泌学会 「性分化疾患」

性分化異常症の検査・診断

性分化異常症の検査では、外陰部の視診や性腺の触診のほか、原因となる疾患を調べるための全身検査がおこなわれます。

全身検査では、血液検査や尿検査、MRIや超音波検査などの画像検査、ホルモン負荷試験などの内分泌検査、遺伝子や染色体の異常を調べる検査などがおこなわれます。このうち必要な検査を選択し、内分泌検査で性ホルモンを作る機能を評価したり、画像検査で内性器の状態を確認したりすることで診断します。

また、先天性副腎過形成は、生後すぐにおこなわれる「新生児マススクリーニング検査」で診断することが可能です。

性分化異常症の治療

性分化異常症は複数の診療科目の専門治療が必要になるため、小児泌尿器科、小児内分泌科、精神科、遺伝科などで連携し、チームでの治療がおこなわれます。

国内では、戸籍法によって生後14日以内に子どもの氏名と男女の別を届け出ることが義務付けられています。しかし、性分化異常症などで生後すぐに性を決定できない場合には、主治医の診断書を提出することで生後14日以降でも届け出ることが可能です。

性分化異常症では、主治医と相談しながら子どもの性を決定し、その性に応じた治療がおこなわれます。治療法は大きく内科治療と外科治療に分けられ、患者の状態に応じて選択されます。

出典:一般社団法人日本小児内分泌学会 「性分化疾患」

内科治療

選択した性に基づき、必要な性ホルモンを補充するための薬物療法がおこなわれます。思春期以降になっても二次性徴が見られない場合には、男性ホルモンや女性ホルモンを補充する必要があります。

性ホルモン補充療法には、不足するホルモンの種類によって「女性ホルモン補充療法」「男性ホルモン補充療法」「hCG/FSH補充療法」「カウフマン療法」「黄体ホルモン補充療法」などがあり、病態や重症度に応じて選択します。

外科治療

選択した性に応じて内性器や外性器の形状を整える手術がおこなわれます。手術の時期については一般的に、1〜2歳までにおこなう考え方と、思春期以降に患者本人と相談しながらおこなう考え方があります。

術式には、「外性器・内性器形成術」や「尿道形成術」「女児外陰形成術」「精巣固定術」「膣口形成術」「造膣術」「陰嚢形成術」などがあり、選択した性や重症度などに応じて選択されます。

性器の形態異常に加え性腺の発生異常を伴う場合には、性腺腫瘍などの合併症のリスクがあるため、予防的に性腺を摘出する手術(性腺摘除術)が考慮されるケースもあります。

性分化異常症になりやすい人・予防の方法

性分化異常症になりやすい人は分かっていません。また、性分化異常症は、胎児期の性分化の過程で生じるため、予防することは困難といえます。

生後すぐ外性器の異常に気づいたり、思春期になっても二次性徴が見られなかったりする場合には、小児内分泌科、小児泌尿器科などの専門医を受診して適切な診断や治療を受けましょう。

この他、出産した子どもに性分化異常症を認めた場合、遺伝カウンセリングによって次に出産する子どもやその子どもなど次世代への再発率を調べられることがあります。遺伝カウンセリングを希望する場合には、遺伝科などの専門医に相談しましょう。


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