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ペルオキシソーム病
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

ペルオキシソーム病の概要

ペルオキシソーム病(Peroxisomal disorders)は、「ペルオキシソーム」という細胞内小器官に関する遺伝的な疾患の一群を指します。

ペルオキシソームは、細胞内でおこなわれる生化学反応で重要な役割を担っています。この病気では主に、ペルオキシソーム内で働く「酵素」の一部が正しく機能しないことによって発生し、結果的に体内に有害物質が蓄積したり、正常な細胞の機能が損なわれたりします。

ペルオキシソーム病は、異常のある遺伝子や酵素ごとにいくつかの病型に分類されており、厚生労働省の指定難病に含まれる希少疾患です。 ペルオキシソーム病では、神経系をはじめとして肝臓、腎臓などの多くの臓器にも影響が及び、最終的に重篤な障害を引き起こすこともあります。症状の重さは発症原因の遺伝子の種類などにも関係します。

これらの病気は、その多くが常染色体劣性遺伝(原因遺伝子を両親からそれぞれ受け継ぐ)によって発症することが知られています。まれに遺伝子の突然変異を原因とする例もあると考えられていますが、人から人へうつるような種類の病気ではありません。

いずれの病態でも、幼児期までに診断されることが多いものの、症状が軽度である場合は成人になってから診断がつくこともあります。

ペルオキシソーム病の治療は、症状に応じた対症療法が中心であり、現在の医学ではペルオキシソームの機能を根本的に回復させる治療法は確立されていません。ただし、遺伝子治療や酵素補充療法の研究が進められており、今後の治療の可能性として期待されています。

ペルオキシソーム病の中でも最重症とされるツェルウェガー症候群では、早期に診断できても乳幼児期のうちに亡くなってしまうことも多いのが現状です。しかし、ペルオキシソーム病に対する理解と研究は現在も進んでおり、早期発見と治療が患者の予後を改善するための鍵となります。遺伝子治療などの新たな治療法の可能性も模索されています。

ペルオキシソーム病の原因

ペルオキシソーム病は、ペルオキシソームの形成異常や、ペルオキシソーム内で働く酵素の遺伝的異常によって引き起こされることがわかっています。これらの酵素は、脂肪酸のβ酸化、過酸化水素の分解、プラスミド合成など、細胞の正常な代謝に不可欠な役割を果たします。ペルオキシソーム病は、そうした各酵素を作るための遺伝子が正常に機能しないことによって発症します。

ペルオキシソームに関連する遺伝子は通常、染色体上の特定の位置に存在し、両親から異常な遺伝子を受け継ぐことによって、病気が引き起こされます。ほとんどのペルオキシソーム病は常染色体劣性遺伝の形式をとることがわかっており、両親がともに保因者であった場合に、その子どもには高い発症リスクがあります。

ペルオキシソーム病の前兆や初期症状について

ペルオキシソーム病の症状は発症時期や病型によって異なりますが、共通して神経系や肝臓、腎臓への影響が見られます。多くの場合、症状は出生直後または乳児期に現れます。

たとえば、ツェルウェガー症候群では、顔貌の異常、発達遅滞、筋緊張の低下(筋力低下)が初期の兆候として現れます。また、視力や聴力に異常が生じることもあります。肝臓の異常や血液検査での肝機能異常も一般的な症状のひとつです。

症状の重症度は病型ごとに大きく異なるものの、多くの病型では進行性の経過をたどり、治療を受けられない場合は幼少期のうちに重篤な障害にまで進行することが多いです。そのため、ペルオキシソーム病では早期に症状を発見し、適切な対症療法につなげることが重要です。

ペルオキシソーム病の検査・診断

ペルオキシソーム病の診断は、臨床症状や家族歴をもとに、いくつかの診断法を組み合わせて行います。

もっとも一般的な診断方法は、血液検査や尿検査を通じて、ペルオキシソーム機能に異常がないかを調べることです。血液検査では、特に脂肪酸の代謝異常や肝機能異常の指標を確認します。また、尿中の有害物質の蓄積や異常物質が検出されることもあります。

さらに、遺伝子診断によって、ペルオキシソーム病を引き起こす遺伝子の変異を特定することができます。遺伝子検査では、特定の遺伝子(Pex遺伝子群など)を確認することで、病気の確定診断に繋がります。

MRIやCTを用いて脳の構造を確認し、神経白質の異常や大脳の萎縮、髄鞘形成の遅延が見られるかをチェックすることも重要です。神経障害が進行している場合、脳の萎縮などが確認されることがあります。

なお、一部のペルオキシソーム病(副腎白質ジストロフィーなど)は、生後間もない時期に実施される「新生児マススクリーニング」によって発見されることもあります。

これらの検査を総合的に行うことで、早期にペルオキシソーム病を発見し、適切な治療につなげることができます。

ペルオキシソーム病の治療

ペルオキシソーム病の原因遺伝子の特定などの研究は進んでいるものの、根本的な治療法についてはまだ確立されていません。

医療機関では、病態に応じた対症療法や支援療法がおこなわれています。治療は症状に合わせて個別に行われるため、患者ごとに異なる治療計画が立てられます。症状の進行を遅らせる、あるいは患者の生活の質を向上させるためには、専門性の高い医療機関で総合的な医療支援を受ける必要があります。

たとえば、ペルオキシソーム病のなかでも比較的軽症とされる「乳児型レフサム病」では、適切な医療介入により成人まで生存できる例が多いことが知られています。 乳児型レフサム病では食事療法のほか、肝機能障害に対する治療や、腎臓への影響を抑えるための薬物療法が有効なケースがあります。神経系への影響を軽減するために抗てんかん薬を使用することもあります。さらに、リハビリテーションや理学療法、言語療法を通じて、筋力や運動機能を維持するための支援も行われます。

ペルオキシソーム病では、現在も新しい治療法や遺伝子治療の研究が進められており、将来的にはより効果的な治療法の発見が期待されています。

ペルオキシソーム病になりやすい人・予防の方法

ペルオキシソーム病は遺伝性の疾患であるため、突然変異による発症を除くと、家族歴により発症リスクが変わります。特に両親が遺伝子の変異を1つだけ持つ「保因者」である場合には、発症するリスクが高いと言えます。ほとんどのペルオキシソーム病は常染色体劣性遺伝とされていることから、両親がともに保因者である場合は、その子どもがペルオキシソーム病を発症する確率は25%程度となります。一方、この疾患の保因者であったとしても、保因者自身には通常は何も症状が出ないものと考えられています。

現在、ペルオキシソーム病を完全に予防する方法は存在しませんが、遺伝カウンセリングを受けることでリスク評価が可能です。 家族計画に際して、事前に遺伝カウンセリングを受けることにより、ペルオキシソーム病の発症リスクについて把握し、参考とすることは可能です。また、妊娠中に遺伝子診断技術を用いて、胎児がペルオキシソーム病を持っているかどうかを確認することも可能です。こうした手段は、特に高リスクの家系において、病気の早期発見や将来の治療の選択肢といったメリットにつながる可能性はあります。

また一般的に、ペルオキシソーム病のような遺伝性疾患については、確実と言えるような予防法が存在しません。しかし、早期の診断と医療介入が、患者の生活の質を向上する助けとなりえます。

関連する病気

  • ペルオキシソーム形成異常症
  • PEX遺伝子異常症
  • ツェルウェガー症候群
  • 副腎白質ジストロフィー
  • 乳児型レフサム病
  • β酸化系酵素欠損症

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