

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
目次 -INDEX-
副腎クリーゼの概要
副腎クリーゼとは、副腎という臓器がつくるホルモン (特にコルチゾール) が急激に不足することで起こる、命に関わる状態です。副腎はストレスに対抗するホルモンを分泌しますが、慢性的な病気や副腎機能の低下、あるいはステロイド薬を急にやめることでホルモンが不足することがあります。発症は感染、外傷などが引き金になることが多いです。主な症状には、低血糖、強い倦怠感、意識混濁、さらにはショック状態などがあります。治療としては、速やかに点滴や注射でホルモンを補充し、ショック状態を改善します。早期発見と適切な治療が生死を分けるため、症状が疑われた場合は速やかに治療を始める必要があります。 (参考文献1)副腎クリーゼの原因
副腎は腎臓の上にある臓器で、副腎皮質ホルモンという、体内の糖をコントロールしたりストレスへの対応を助けたりする働きをもったホルモンなどを分泌します。 副腎クリーゼは、副腎皮質ホルモン (特にコルチゾール) の急激な不足によって引き起こされる身体の危機的状態のことを指します。その原因は大きく 3つ あります。 1つ目は、もともと副腎が十分な副腎皮質ホルモンを作れないような病状にある人に起こります。アジソン病や先天性副腎過形成症をもつ人は副腎が十分なホルモンを作ることができないため、ホルモン剤を服用する必要があります。しかし、病気になったり、事故に遭ったり、手術を受けたりすると、普段飲んでいる薬の量では副腎皮質ホルモンが不足してしまうことがあるのです。これが副腎クリーゼの原因となります。 2つ目はステロイド薬の影響です。長期間ステロイド薬を服用していると、体が自分でホルモンをつくる能力が低下します。この状態で薬を急に中止すると、コルチゾールが不足してクリーゼが発生することがあります。 3つ目は副腎出血です。感染症や重度の外傷を負った場合、もしくは血液をさらさらにする薬を使用している場合に、副腎で出血が起こると副腎クリーゼが生じる場合があります。 (参考文献1)副腎クリーゼの前兆や初期症状について
副腎クリーゼは通常、突然始まります。主な症状として、まず急激な倦怠感や脱力感があります。体が極度に疲れやすくなり、日常の動作が困難になることもあります。また、食欲不振や吐き気、嘔吐、腹痛など消化器系の症状が現れることも一般的です。次に、低血圧やショック症状が挙げられます。特に血圧が極端に下がるため、めまいや立ちくらみ、さらには意識障害を引き起こすことがあります。重症化すると意識を失い、命の危険が高まります。また、発熱や脱水症状がみられることもあります。さらに、血糖値が急激に下がることによる低血糖症状により、手の震えや動悸、冷や汗などが起こることもあります。 (参考文献1,2)副腎クリーゼの検査・診断
副腎クリーゼを疑った場合、検査としては血液検査が中心になります。具体的には、以下の項目を調べます。- 血中コルチゾール値:このホルモンが極端に低い場合、副腎機能が低下している可能性があります。ただし、ストレスや外傷がある場合は正常値でも不足していることがあります。
- 電解質異常:ナトリウムの低下 (低ナトリウム血症) やカリウムの上昇 (高カリウム血症) がよく見られます。
- 血糖値:脳に異常があり副腎皮質ホルモンが不足している場合は低血糖になります。一方で、副腎自体に異常がある場合は乳幼児と小児では低血糖を起こすことがありますが大人では感染や発熱、アルコールの摂取がなければあまり見られません。また、低血糖は長期間の絶食後にも起こることがあります。
副腎クリーゼの治療
副腎クリーゼは命に関わる緊急の状態であるため、速やかな治療が必要となります。手遅れになることを防ぐために、診断が確定しない場合でも治療を開始することもあります。治療の基本は、不足しているホルモン (コルチゾール) を補充することです。 まず、発症が疑われた場合には、ステロイドホルモン (ヒドロコルチゾン) の静脈注射が行われます。この治療によって、急激なホルモン不足を補い、生命の危機を回避します。その後も数時間おきに追加の投与を行い、状態が安定するまで続けます。 次に、体内の水分と電解質のバランスを整えるために点滴による補液が必要です。特に、低ナトリウム血症や低血糖がある場合は、生理食塩水や糖分を含む補液を使い、血液循環を改善します。治療中は、血圧や血糖値、電解質 (ナトリウムやカリウム) の状態を細かくモニタリングし、必要に応じて調整します。 また、治療と並行して副腎クリーゼの原因を特定することも重要となります。感染症が原因の場合には抗菌薬を使用することもあります。 (参考文献3)副腎クリーゼになりやすい人・予防の方法
副腎クリーゼになりやすい人
副腎クリーゼは特に副腎機能が低下している患者に多く見られます。例えば、アジソン病の患者や、長期間ステロイド薬を使用している人はリスクが高いとされています。また、発症は感染症、外傷、手術、ストレスなどが引き金になることがあります。予防の方法
副腎クリーゼを予防するために、副腎機能の低下している人はホルモン剤の服薬量を適切に調整することが大切です。 まず、ステロイド薬を服用している場合、医師の指示なしに急に中止しないことが重要です。また、発熱などの体調不良の際には、服用量を一時的に増やすことが必要な場合があります。 また、骨折や大量出血など大きなけがをした場合や高熱などで非常に具合が悪い場合、嘔吐により普段飲んでいる薬が飲み切れない場合などは緊急用のヒドロコルチゾンの注射薬を使用する必要があるかもしれません。緊急用の注射薬を常備しておく必要があるか、医師と相談しておきましょう。万が一使用した場合は、使用後に救急車を呼んで病院を受診しましょう。 (参考文献1) そして、「副腎不全カード」を携帯しておくことも大切です。カードには緊急時の対応方法が具体的に記載されており、特に意識を失っている場合や自分で状況を説明できない時に命を守る手段となります。 (参考文献4)参考文献
- 参考文献1:UpToDate. “Patient education: Adrenal crisis (The Basics)”. (Last updated: Dec 25, 2024. Last watched Dec 25, 2024.)
- 参考文献2:UpToDate. “Clinical manifestations of adrenal insufficiency in adults”. (Last updated: Jul 16, 2024. Last watched: Dec 25, 2024)
- 参考文献3:UpToDate. “Treatment of adrenal insufficiency in adults”. (Last updated: Oct 10, 2024. Last watched: Dec 25, 2024.)
- 参考文献4:副腎機能低下症ウェルネス「副腎不全カード」 (副腎機能低下症ウェルネス、最終閲覧日2024年12月25日)




