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低ホスファターゼ症
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

低ホスファターゼ症の概要

低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia, HPP)は、骨や歯の石灰化に関与する組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNSALP)の酵素活性が低下することによって発症する遺伝性疾患です。この病気はALPL遺伝子の変異によって引き起こされ、無機ピロリン酸(PPi)の蓄積により骨の形成が妨げられます。本疾患は、骨の発達異常や歯の異常、筋力低下、呼吸障害などを引き起こし、発症年齢や症状の重症度に応じて異なる病型に分類されます。周産期重症型では、出生直後から骨の形成不全が顕著であり、呼吸不全を伴うことが多く、生命予後が悪いです。一方、周産期良性型では出生時に骨の変形が見られるものの、生命予後は比較的良好です。乳児型では成長障害や骨の変形、高カルシウム血症、哺乳困難を特徴とし、適切な治療がない場合には呼吸不全のリスクがあります。小児型ではくる病様の骨変化、低身長、歩行異常がみられ、骨折のリスクも高まります。成人型では疲労骨折や慢性的な骨の痛み、骨粗鬆症様の症状が主であり、日常生活に影響を及ぼすことがあります。歯性型では乳歯の早期脱落やエナメル質の異常が主な症状となり、セメント質の形成不全が関与しています。

低ホスファターゼ症の原因

この疾患は、ALPL遺伝子の変異によって発症します。ALPL遺伝子はTNSALPをコードしており、この酵素の機能低下により骨の石灰化を阻害する無機ピロリン酸(PPi)の蓄積が引き起こされます。これにより骨の形成が妨げられ、骨折しやすくなります。発症の仕方には常染色体劣性遺伝と常染色体優性遺伝の両方があり、特に重症型では劣性遺伝が関与することが多いとされています。また、ビタミンB6の代謝異常も神経症状の発現に関与していることが知られています。

低ホスファターゼ症の前兆や初期症状について

本疾患の症状は発症年齢によって異なります。周産期型では胎児期に骨の形成不全が確認され、生後すぐに呼吸不全や全身の骨変形が現れます。乳児型では成長障害や骨の変形、哺乳困難、高カルシウム血症に伴う嘔吐や腎機能障害がみられます。小児型では歩行時の異常や低身長、くる病様の骨変化が特徴です。成人型では慢性的な骨の痛みや疲労骨折、骨粗鬆症に似た症状が現れ、日常生活に影響を及ぼすことがあります。歯性型では乳歯の早期脱落や歯のエナメル質の異常が主な症状となります。

低ホスファターゼ症の検査・診断

低ホスファターゼ症の診断には、血液検査遺伝子検査、および画像検査が用いられます。 血液検査では、血清ALP活性の低下が診断の重要な指標となります。ただし、ALPの基準値は年齢・性別によって異なるため、適切な基準値と比較し、複数回測定することが必要です。また、バイオマーカーとして、ピリドキサール5'-リン酸(PLP)の血中濃度が高いことが診断の有力な補助指標となるとされています。遺伝子検査では、ALPL遺伝子の変異を特定することで確定診断が可能である。画像診断としては、X線検査で骨の低石灰化や変形を確認し、特に小児ではくる病様の骨変化がみられることがあります。重症例では、出生前診断として胎児超音波検査を実施することもあります。

低ホスファターゼ症の治療

本疾患の治療は、近年の医学の進歩により大きく変化しました。特に、酵素補充療法(ERT)の導入により、重症例の治療成績が向上しています。骨標的型組換えアルカリホスファターゼ製剤(Asfotase Alfa)が使用されることで、骨形成の改善や生存率の向上が期待されています。この治療法は特に乳児型や小児型において有効であり、骨症状の進行を抑えることができます。加えて、カルシウムやビタミンDの適切な補充が行われることがあります。 対症療法としては、骨折や骨変形に対する整形外科的管理ビタミンB6の補充によるけいれんの管理歯科的管理による歯の異常の予防が重要です。特に小児期には定期的な歯科診察を受けることで、歯の脱落や虫歯リスクを軽減することができます。成人型の患者に対しては、慢性的な痛みに対する理学療法や鎮痛薬の適切な使用が必要となる場合もあります。

低ホスファターゼ症になりやすい人・予防の方法

本疾患は遺伝性のため、特定の環境要因による予防は難しいですが、家族歴がある場合には出生前診断や遺伝カウンセリングを受けることが勧められます。また、軽症型のHPPでは適切な栄養管理や定期的な骨密度検査を行うことで、症状の進行を遅らせることができる可能性があります。歯の管理も重要であり、歯科医と連携しながら早期発見・早期治療を行うことが望まれます。

関連する病気

参考文献

  • Michigami T, et al. Clinical Practice Guidelines for Hypophosphatasia. Clin Pediatr Endocrinol. 2020;29(1):9-24.
  • Whyte MP. Hypophosphatasia: An overview for 2017. Bone. 2017;102:15-25.
  • Kishnani PS, et al. Monitoring guidance for patients with hypophosphatasia treated with asfotase alfa. Mol Genet Metab. 2017;122:4-17.
  • Whyte MP, et al. Asfotase Alfa Treatment Improves Survival for Perinatal and Infantile Hypophosphatasia. J Clin Endocrinol Metab. 2016;101:334-342.
  • Kitaoka T, et al. Safety and efficacy of treatment with asfotase alfa in patients with hypophosphatasia: Results from a Japanese clinical trial. Clin Endocrinol (Oxf). 2017;87:10-19.

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