監修医師:
副島 裕太郎(横浜市立大学医学部血液・免疫・感染症内科)
目次 -INDEX-
混合性結合組織病の概要
混合性結合組織病は、全身の結合組織に炎症が起こる、原因不明の病気です。結合組織とは、身体のさまざまな臓器や組織を結びつけ、支える役割を持つ組織で、皮膚、筋肉、関節、血管、内臓など、身体のあらゆる場所に存在します。混合性結合組織病は、「全身性エリテマトーデス」「強皮症」「多発筋炎/皮膚筋炎」という膠原病の症状のうち2つ以上がみられ、抗RNP抗体という自己抗体が陽性になるのが特徴です。
混合性結合組織病の原因
混合性結合組織病の明確な原因は、まだ解明されていません。しかし、自己免疫反応が関与していると考えられています。自己免疫反応とは、本来は身体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の身体の組織を攻撃してしまう反応のことです。
遺伝的要因も指摘されており、特定のHLA遺伝子(白血球の型を決める遺伝子)を持つ人は、混合性結合組織病を発症するリスクが高いことがわかっています。
とくに、HLA-DRB1*04:01という遺伝子型は、混合性結合組織病と関連が深く、この遺伝子を持つ人は、全身性エリテマトーデスや強皮症とは異なる、混合性結合組織病特有の症状を示す傾向があります。その他、PTPN22、STAT4、IRF5といった遺伝子の多型(遺伝子のわずかな違い)も、混合性結合組織病を含む複数の自己免疫疾患のリスク因子として知られています。
これらの遺伝子の多型は、免疫細胞の活性化や、サイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質)の産生に関与しており、混合性結合組織病の発症メカニズムに何らかの役割を果たしていると考えられています。
混合性結合組織病の前兆や初期症状について
混合性結合組織病は、初期症状が多岐にわたり、また他の膠原病とも似ているため、早期診断が難しい病気です。
一般的な初期症状としては、以下のものがあります。
レイノー現象
寒さや精神的なストレスによって、指先や足先が白くなったり、青紫に変色したりして、また赤色になったあとにもとの色に戻るという症状が起こることがあります。 しびれや痛みといった症状がいっしょに起こることもあります。
手指の腫れ
とくに朝起きた時、手全体がむくんだように腫れることがあります。混合性結合組織病の患者さんの8-9割にみられる症状です。
関節痛
手首、指関節、膝関節など、複数の関節に痛みが出ます。
筋肉痛
肩や腰、太ももなど、身体の広い範囲に筋肉痛が現れます。
全身倦怠感
身体がだるく、疲れやすいと感じるようになります。
微熱
37度前後の微熱が続くことがあります。
これらの症状は、混合性結合組織病以外にも、さまざまな病気の可能性が考えられます。自己判断は危険ですので、これらの症状が出現したらまずはリウマチ膠原病内科を受診して専門医の診察を受けることをおすすめします。
混合性結合組織病の検査・診断
混合性結合組織病の診断は、問診、診察所見、血液検査、画像検査などをもとに、総合的に判断します。
問診
いつから症状があるのか、どのような症状か、ほかに病気をしていないか、家族に膠原病の人がいるか、などを確認します。
身体診察
皮膚の状態、関節の腫れや圧痛、筋肉の力、神経の状態などを調べます。
血液検査
炎症反応の強さ、自己抗体の有無などを調べます。混合性結合組織病では、抗RNP抗体という自己抗体が、高頻度(ほぼ全例)に検出されることが特徴です。抗RNP抗体の力価が高いほど、混合性結合組織病の可能性が高いとされます。その他、抗核抗体、抗SS-A抗体、抗Sm抗体などの自己抗体が陽性となることもあります。これら自己抗体のどれが陽性になっているかということや、ほかの症状や検査所見の組み合わせによって、混合性結合組織病らしいか、ほかの膠原病と考えた方がよいかを判断します。
画像検査
X線検査、CT検査、MRI検査、超音波検査などを行い、肺、心臓、関節などの状態を調べます。 肺の検査(胸部X線・CTなど)では、間質性肺炎の有無を調べます。 心臓の検査(心電図、心臓超音波検査など)では、心膜炎、弁膜症、心筋症などの有無を調べます。 関節の検査(関節X線・超音波検査)では、関節リウマチのような関節破壊や関節の炎症が起きていないかを調べます。
これらの検査結果や症状、経過などを総合的に判断し、ほかの膠原病の可能性を除外した上で、混合性結合組織病と診断されます。
混合性結合組織病の治療
混合性結合組織病の治療法は、症状や重症度、臓器障害の有無などによって異なります。一般的には、以下の治療を行います。
薬物療法
ステロイド(グルココルチコイド)
炎症を抑える効果が高く、混合性結合組織病の治療の中心となる薬です。 症状や重症度に合わせて、適切な量を服用します。 長期服用による副作用にも注意が必要です。
免疫抑制薬
ステロイドの効果が不十分な場合やステロイドの減量を目的として、メトトレキサート、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、シクロホスファミドなどを使用します。これらの薬は、免疫の働きを抑えることで、炎症を抑えますが、感染症のリスクが高まるなどの副作用があります。
生物学的製剤
免疫に関わる特定の分子を抑える薬剤です。免疫抑制薬で効果が不十分である場合に、ほかの病気(関節リウマチや全身性エリテマトーデスなど)に準じて使用することがあります。
その他
「肺高血圧症」という状態を合併する場合はそれに対する治療薬(肺血管拡張薬など)、「間質性肺炎(肺線維症)」という状態を合併する場合は、抗線維化薬を使用することもあります。
リハビリテーション
関節の痛みや動きの制限、心臓・肺の問題で運動機能が低下している場合は、これらを改善するために理学療法・作業療法などのリハビリテーションを行うこともあります。
日常生活の指導
混合性結合組織病は、疲労やストレスで症状が悪化しやすいため、規則正しい生活習慣を心がけ、十分な休養をとるように説明します。
混合性結合組織病になりやすい人・予防の方法
混合性結合組織病になりやすい人
特定のHLA遺伝子(白血球の型を決める遺伝子)を持つ人は、混合性結合組織病を発症するリスクが高いことがわかっていますが、一般的にこれらの遺伝子型を測定することはできません。好発年齢は20-40代で、男女比は1:13と女性に多くみられます。
予防の方法
混合性結合組織病は、明確な予防法は確立されていませんが、以下のようなことに気をつけることで発症する確率を減らすことができるかもしれません。
健康的な生活習慣を心がける
バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠など、規則正しい生活習慣を心がけ、免疫力を高めることが大切です。
過労やストレスを避ける
疲労やストレスは、混合性結合組織病の症状を悪化させる可能性があるため、できるだけ避けるようにしましょう。
感染症に注意する
感染症にかかると、混合性結合組織病の症状が悪化することがあります。 手洗い・うがいを徹底し、人混みを避けるなど、感染症の予防に努めましょう。
定期的な検査
混合性結合組織病は、早期発見・早期治療が重要です。健康診断などを活用し、定期的に検査を受けるようにしましょう。
関連する病気
- 全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus)
- 強皮症(Systemic Sclerosis)
- 多発性筋炎(Polymyositis)
- 関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis
- RA)
- 乾癬(Psoriasis)
- シェーグレン症候群(Sjögren's Syndrome)
- 抗リン脂質症候群(Antiphospholipid Syndrome)