

監修医師:
大坂 貴史(医師)
糖尿病足病変の概要
糖尿病足病変(とうにょうびょうあしびょうへん)は、糖尿病を長年患っている方に起こりやすい足のトラブルを指します。皮膚の乾燥や小さな傷から始まり、進行すると足の組織が壊死してしまうこともあり、最悪の場合は足を切断しなければならなくなることもあります。日常生活に直結する深刻な合併症の一つとして、注意が必要です。
糖尿病になると、血糖値が高い状態が続くことで体のさまざまな場所に負担がかかります。特に足は、体の末端にあるうえに体重が常にかかる場所であり、血流が悪くなりやすく、神経の働きも鈍くなりやすいのです。その結果、ちょっとしたケガや靴ずれがきっかけとなって、炎症が起こったり、傷が治りにくくなったりして、重症化することがあります。
糖尿病足病変は、初期にはあまり目立った症状がないために見過ごされがちですが、進行すると生活の質に大きく影響を与えます。だからこそ、日々の足の観察や予防の取り組みが何よりも重要なのです。
糖尿病足病変の原因
糖尿病足病変が起こる背景には、いくつかの要因が重なり合っています。まず大きいのは「神経障害」です。糖尿病によって足の感覚を司る神経が傷つくと、痛みや温度を感じにくくなってしまいます。これにより、ケガをしても気づかず放置してしまうことが多くなるのです。
次に「血流障害」も大きな原因です。糖尿病が進行すると血管の内側に動脈硬化が起こりやすくなり、特に足先などの末梢部分への血液の流れが悪くなります。血液は栄養や酸素を運ぶ役割をしているため、血流が悪いと傷の治りが遅くなったり、感染が広がったりしやすくなります。
さらに、免疫力の低下も見逃せません。高血糖状態では体の防御力が落ち、細菌に感染しやすくなります。通常であれば自然に治るような軽い傷でも、糖尿病のある人では思わぬ大事につながるのです。
このように、「神経障害」「血流障害」「感染しやすさ」という3つの要素がそろうことで、糖尿病足病変は発症しやすく、かつ治りにくい性質を持ってしまうのです。
糖尿病足病変の前兆や初期症状について
糖尿病足病変のはじまりはとてもささいな変化です。たとえば、足の皮膚が乾燥してひび割れてきたり、爪が巻き込んで皮膚に食い込んだり、小さな靴ずれができたりすることから始まります。こうした些細な傷が、神経障害の影響で痛みを伴わず、気づかれないまま放置されてしまうことがよくあります。
あるいは、「最近足の裏がジンジンする」「ピリピリするような痛みがある」「足が冷たいような感じが続く」といった感覚の異常が初期のサインになることもあります。これらは糖尿病性神経障害の表れであり、足病変のリスクが高まっていることを意味します。
進行すると、足に潰瘍(かいよう)と呼ばれる皮膚の深い傷ができたり、傷口から膿が出たり、皮膚の色が黒く変化してくることがあります。これは組織が壊死している状態で、ここまで進むと入院や手術が必要になることもあります。感染が骨まで広がると、骨髄炎や壊疽(えそ)を引き起こし、足を失う可能性も否定できません。
したがって、足に現れる小さな変化も見逃さず、早い段階で対処することが非常に重要なのです。
糖尿病足病変の検査・診断
糖尿病足病変の診断は、まず医師による視診や触診から始まります。皮膚の状態、爪の様子、傷や腫れの有無、足の色や温かさなどを確認します。神経障害の有無を調べるためには、足の感覚を確認する検査が行われます。たとえば、柔らかい糸のようなもので足の裏に軽く触れて、感覚があるかどうかを調べたり、振動を感じる検査器具(音叉)を使って調べたりします。
血流の状態を調べるためには、足首と腕の血圧を比較する「ABI検査」が行われることがあります。この検査によって、足への血液の流れがどの程度保たれているかを数値で評価することができます。また、必要に応じて超音波検査や血管造影検査を行い、動脈の詰まりの程度を詳しく調べることもあります。
傷がある場合には、細菌感染の有無を調べるために分泌物の検査を行うことがあります。さらに、骨にまで感染が及んでいるかどうかを判断するために、レントゲンやMRIなどの画像検査が行われることもあります。
このように、足病変の状態や原因を多角的に評価し、治療の方針を立てていきます。
糖尿病足病変の治療
糖尿病足病変の治療は、状態に応じて段階的に進められます。軽度であれば、まず傷をきれいに洗い、感染を防ぐための消毒や外用薬を使用します。同時に、体重が傷口にかからないようにする「免荷(めんか)」と呼ばれる工夫が必要になります。たとえば、専用の靴や中敷きを使って、圧力を分散させるといった方法がとられます。
感染が強い場合には、抗菌薬を使って治療を行います。傷が深くなっていたり、膿がたまっていたりする場合には、外科的に切開して膿を出す処置が必要になることもあります。壊死が進んでいる部分があれば、それを取り除く「デブリードマン」という処置を行い、周囲の健康な組織を保護します。
血流障害が原因の場合には、血管の狭くなった部分を広げるカテーテル治療や、バイパス手術といった血行再建術が行われることもあります。こうした処置によって、足への血流を回復させ、自然治癒力を高めることが可能になります。
重症の場合、感染や壊死が足全体に及んでいると、最終的には足の一部を切断する決断を迫られることもあります。しかし、早期発見・早期治療によって多くのケースでは回避可能であり、そのためにも日頃からの足のケアと早めの受診が何より重要です。
糖尿病足病変になりやすい人・予防の方法
糖尿病足病変になりやすいのは、長年にわたって糖尿病を患っている方や、血糖コントロールが不十分な方です。すでに神経障害や血流障害のある方、喫煙習慣がある方もリスクが高まります。過去に足潰瘍を経験したことがある方は、再発の可能性が高いため特に注意が必要です。
予防の第一歩は、血糖値を良好に保つことです。食事・運動・薬物療法のバランスを整え、血糖管理を続けることが神経や血管を守る土台となります。
また、毎日の足の観察も大切です。足の裏、指の間、かかと、爪の周囲などをよく観察し、赤みや腫れ、水ぶくれ、小さな傷がないかをチェックしましょう。足を洗ったあとには、やさしく拭いて水分を残さないようにし、乾燥していれば保湿クリームを使うのも効果的です。
靴選びにも注意が必要です。サイズが合っていない靴や、硬い素材の靴は傷を作る原因になります。新しい靴を履くときには、初めは短時間にして徐々に慣らすようにしましょう。爪は深爪にならないようにまっすぐ切り、巻き爪や変形がある場合は早めに皮膚科などに相談してください。
何よりも、「足に異変を感じたらすぐ受診する」という習慣を持つことが、自分の足を守る最大の予防策です。




