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糖原病
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

糖原病の概要

糖原病(とうげんびょう)とは、体の中でエネルギー源として使われる「糖(グルコース)」を蓄えたり、必要に応じて取り出したりする仕組みに異常が起こる遺伝性の病気です。糖は、肝臓や筋肉の中で「グリコーゲン」という形で貯蔵されます。このグリコーゲンを分解してエネルギーに変えるためには、いくつかの酵素が必要ですが、糖原病の人はその酵素が生まれつき欠けていたり、うまく働かなかったりします。

その結果、エネルギーが必要なときにうまく糖が作り出せず、低血糖を起こしたり、筋肉がうまく働かなくなったりすることがあります。また、グリコーゲンが異常に体の中にたまりすぎてしまい、肝臓や筋肉にダメージを与えることもあります。

糖原病は「代謝性疾患」と呼ばれる病気の一つで、非常にまれですが、早期発見と適切な管理がその後の生活の質に大きな影響を与えるため、正しい理解がとても重要です。

糖原病の原因

糖原病の原因は、遺伝子の異常です。私たちの体の細胞には、エネルギーを効率よく使うための様々な酵素を作る設計図(遺伝子)が組み込まれていますが、糖原病ではこの設計図の一部に先天的な変化(突然変異)があることで、必要な酵素が作られなかったり、機能しなかったりします。

糖原病は何種類かのタイプに分けられており、それぞれに関係する酵素が異なります。たとえば、肝臓でグリコーゲンを分解して血糖を作る酵素が足りないタイプもあれば、筋肉の中でグリコーゲンを使って力を出すための酵素が不足するタイプもあります。

これらの酵素の異常は、生まれたときから持っているもので、親から子へ遺伝することが知られています。多くは常染色体劣性遺伝と呼ばれる形式で、両親からそれぞれ異常な遺伝子を受け継いだ場合に発症します。そのため、両親に病気の自覚がない場合でも、子どもに発症することがあります。

糖原病の前兆や初期症状について

糖原病の症状は、そのタイプや年齢によってさまざまです。たとえば、肝臓にグリコーゲンがたまりやすいタイプでは、生後間もなくから低血糖が頻繁に起こることがあります。低血糖になると、ぐったりしたり、けいれんを起こしたりすることがあり、放っておくと脳に影響が出ることもあるため注意が必要です。

また、肝臓が腫れてお腹がふくらんだように見えることもあります。肝機能の異常が進むと、成長が遅れたり、顔がむくんだように見えたりすることもあります。

一方、筋肉に関係するタイプでは、幼児期から筋力の低下やすぐに疲れてしまうといった症状が現れることがあります。運動中やその直後に筋肉痛を感じたり、ひどい場合には筋肉が壊れて赤い尿が出る(ミオグロビン尿)といったこともあります。

また、思春期以降に初めて症状が出るタイプもあり、疲労感や運動不耐性などが徐々に現れてくることもあります。いずれにしても、早期に異常に気づき、専門医の診察を受けることが重要です。

糖原病の検査・診断

糖原病が疑われる場合、まずは症状や家族歴(遺伝的背景)を詳しく確認したうえで、血液検査や画像検査が行われます。血液検査では、低血糖の有無や、肝臓や筋肉のダメージの程度を調べるための酵素の値(AST、ALT、CKなど)を確認します。また、乳酸や尿酸、中性脂肪の値も参考になります。

肝臓や筋肉の状態を調べるためには、腹部エコー検査やMRI検査が行われることもあります。さらに詳しく調べる必要がある場合は、肝生検や筋生検といって、組織の一部を採取して酵素活性を直接測定する方法もとられます。

最近では、遺伝子解析によって糖原病のタイプを診断する方法も普及しており、採血だけで原因となる遺伝子の異常を調べられるようになってきています。正確な診断はその後の治療や生活指導に直結するため、専門医による的確な評価が欠かせません。

糖原病の治療

糖原病の治療は、そのタイプや症状の重さによって異なりますが、基本的にはエネルギー代謝のバランスを保ち、低血糖を防ぐことが中心となります。とくに肝臓型の糖原病では、血糖を安定させるために、食事の回数を増やしたり、夜間にもエネルギー補給を行うといった対応が必要になります。

たとえば、トウモロコシのでんぷんから作られた「未加水分解コーンスターチ」を使用することで、ゆっくりとした糖の供給を可能にし、夜間の低血糖を防ぐ方法がよく使われます。また、高タンパク・低脂肪・適度な炭水化物を意識した食事管理が重要です。

筋肉型の糖原病では、無理な運動を避けることが原則です。運動前に糖質を補給することで、エネルギー不足による筋肉の損傷を予防することができます。重症例では、点滴や特殊な栄養療法が必要になることもあります。

近年では、酵素補充療法や遺伝子治療の研究も進んでおり、将来的にはより根本的な治療が可能になることが期待されていますが、現時点では多くの場合、食事管理と生活指導によって症状の安定化を図ることが中心となります。

糖原病になりやすい人・予防の方法

糖原病は先天的な遺伝子の異常によって起こる病気であるため、生活習慣によって発症を予防することはできません。誰にでも起こる可能性がある病気ではなく、両親の遺伝子の組み合わせによって子どもに発症するかどうかが決まる「遺伝病」の一つです。

そのため、家族に糖原病の患者がいる場合や、過去に原因不明の低血糖や肝腫大があった家系では、出生前や出産後の早い段階で専門医に相談することが大切です。近年では、遺伝カウンセリングといって、将来のリスクを事前に知るための相談を受ける体制も整ってきています。

すでに糖原病と診断された方にとっては、再発や悪化を防ぐための「生活の工夫」がとても大切です。規則正しい食事、低血糖時の早めの対応、運動の内容や強度の調整、そして感染症の予防など、日常生活の中で注意すべきことは多岐にわたります。

また、主治医との連携を保ちながら、定期的な検査を受けて体調の変化を早期にとらえることも、合併症を防ぐうえでとても重要です。糖原病はまれではありますが、きちんと管理すれば日常生活を安定して送ることができる病気でもあります。早期発見と適切なサポートが、本人や家族の安心につながります。

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