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クッシング病
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

クッシング病の概要

コルチゾールというホルモンが血中に過剰に存在する状態 (高コルチゾール血症) が続いた結果、顔が丸くなる「満月様顔貌」や体幹部の肥満、皮膚に赤紫色の線が現れるなどといった症状を呈する病態をクッシング症候群と言います。その中でも、脳の下垂体にできた腫瘍が原因で、過剰な副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) が分泌される病気をクッシング病と言います。治療は腫瘍を手術で取り除く方法が一般的ですが、手術の効果が十分でなかった場合には薬物療法や放射線治療が行われることもあります (参考文献 1) 。

クッシング病の原因

クッシング病の原因は、脳の下垂体にできた腫瘍 (下垂体腺腫) が、副腎皮質刺激ホルモン (ACTH) を過剰に分泌することです。 ACTH は副腎という臓器に働きかけ、コルチゾールというホルモンを分泌させます。コルチゾールは、血圧低下や低血糖、精神ストレスなどに対応する重要なホルモンですが、これが過剰に分泌されると、クッシング症候群という一連の症状を引き起こします (参考文献 1) 。

クッシング病の前兆や初期症状について

クッシング病の前兆や初期症状は、体の変化として徐々に現れます。特徴的なのは、顔が丸くなり、むくんだような「満月様顔貌」と呼ばれる特徴的な顔つきです。また、急に体重が増えることが多く、特にお腹や背中、顔に脂肪がつきやすくなります。一方で、手足は細くなることが多いです。皮膚にも変化が見られ、皮膚が薄くなってあざができやすくなったり、傷が治りにくくなったりします。さらに、お腹や太もも、腕には赤紫色の妊娠線のような「皮膚線条」が現れることもあります。その他にも、筋力が低下して階段を上るのが難しくなる、疲れやすくなる、気分が落ち込みやすくなるといった症状も見られます。高血圧や血糖値の上昇が起こることもあります。また、子どもが発症すると、肥満と共に成長の遅れが見られることもあります (参考文献 1) 。

クッシング病の検査・診断

クッシング病の検査や診断は、「クッシング病の前兆や初期症状について」の項で説明したような症状や体の変化が見られた場合に行われます。
まず行われるのは、血液検査と尿検査です。早朝に血中の ACTH とコルチゾールの濃度を測定すると、クッシング病 では本来低値のはずの ACTH が抑制されていません。また尿検査では、尿中のコルチゾールが高値になります。

血液検査と尿検査で クッシング病 が疑われた場合には、「少量デキサメタゾン抑制試験」と深夜睡眠時の血中コルチゾール値の検査が行われます。「少量デキサメタゾン抑制試験」は、デキサメタゾンという薬を前日夜に服用して、翌朝に血中のコルチゾールの値が抑えられるかを確認します。正常な場合はコルチゾールが減少しますが、 クッシング病 では減少しません。また、深夜睡眠時の血中コルチゾールの値が高い場合もクッシング病をさらに疑います。

最終的な確定診断のためには、 CRH負荷試験 と「一晩大量デキサメタゾン抑制試験」、MRI検査、選択的下垂体静脈洞血サンプリングが行われます。 CRH とは、 ACTH の分泌を促進するホルモンで、コルチコトロピン放出ホルモンと言います。 CRH負荷試験は CRH を注射した後、血中の ACTH の濃度が高くなっていることを確認する試験です。次に「大量デキサメタゾン抑制試験」は先ほど説明した「少量デキサメタゾン抑制試験」と同様に前日夜にデキサメタゾンという薬を内服して翌朝に血中のコルチゾール値を確認する試験ですが、少量の場合と異なり大量に内服した場合、クッシング病の患者さんでは血中のコルチゾール値が半分以下に抑制されます。そして MRI検査 では、下垂体腫瘍が観察されます。また、選択的下垂体静脈洞血サンプリングという検査では血中の ACTH濃度 を中枢部分と末梢部分で比較します。クッシング病の患者さんでは中枢部分での ACTH濃度 が高く検出されます。

以上のような検査を通してクッシング病の診断が行われます (参考文献 2) 。

クッシング病の治療

クッシング病の治療は、主に原因となる下垂体腫瘍を取り除くことです。最も一般的な治療法は、腫瘍を手術で摘出することです。この手術は通常、鼻の中から器具を挿入して下垂体腫瘍を取り除きます。手術が成功すれば、多くの場合、体内のコルチゾールの濃度が正常に戻ります。術後数年間は毎年コルチゾールの濃度を測定し、経過観察する必要があります。
手術で腫瘍が完全に取り除けなかった場合には、再手術を行う場合があります。また、放射線治療が行われることもあります。放射線照射によってコルチゾールの分泌量が正常値まで低下するのには数ヶ月以上かかります。
また、コルチゾールの過剰分泌を抑えるための薬物療法も選択肢の一つです。副腎酵素の働きを抑えてコルチゾールの分泌を抑える副腎酵素阻害薬などが用いられます。放射線療法と並行して薬物療法が行われることもあります。
場合によっては、副腎そのものを手術で取り除くこともありますが、この場合、コルチゾールを補充するために生涯にわたってホルモン療法が必要になります (参考文献 3) 。

クッシング病になりやすい人・予防の方法

クッシング病は中年の女性に比較的多くみられる病気で、女性は男性の 約4倍 かかりやすいとされています。そして、クッシング病の予防方法は明確に確立されていません。長期にわたり診断がつかないままになっていたり、治療が効果的でなかった場合には心血管系の障害や感染症により亡くなる可能性もあります。しかし、早期発見でき、適切な治療が行われれば予後は悪くありません (参考文献 1) 。


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