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脂質代謝異常
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

脂質代謝異常の概要

脂質代謝異常とは、体内の脂質の代謝が正常に行われず、血液中の脂質のバランスが崩れてしまう状態を指します。脂質には、コレステロールや中性脂肪などが含まれており、これらはエネルギー源として重要な役割を果たしていますが、過剰に蓄積されると動脈硬化などの病気を引き起こすリスクが高まります。 脂質代謝異常には、特に「高コレステロール血症」や「高トリグリセライド血症」が含まれ、これは血液中のコレステロールや中性脂肪の量が過剰になる状態を指します。この状態が続くと、心臓や脳の血管に負担がかかり、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まります。 健康診断や血液検査で「コレステロール値が高い」「中性脂肪が多い」と言われたことがある場合、脂質代謝異常が疑われます。早期の予防と管理が重要です。

脂質代謝異常の原因

脂質代謝異常の原因は、生活習慣遺伝的要因が関与しています。脂質代謝は、食事から摂取した脂肪分や体内で作られる脂質を処理するための複雑なシステムで、このシステムに障害が生じると、脂質のバランスが崩れることになります。主な原因には以下のようなものがあります。

1. 食生活の乱れ

脂肪分の多い食事や、カロリーの高い食事を摂り続けると、血中のコレステロールや中性脂肪が増加しやすくなります。特に、動物性脂肪やトランス脂肪酸を多く含む食品(揚げ物、加工食品など)の摂取が続くと、脂質代謝に異常が生じやすくなります。

2. 運動不足

運動不足は、脂質代謝異常を引き起こす大きな要因の一つです。運動をしないとエネルギー消費が少なくなり、体内に脂肪が蓄積されやすくなります。また、運動は善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やし、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を減らす効果があるため、運動不足は脂質代謝異常のリスクを高めます。

3. 遺伝的要因

家族に脂質代謝異常の方がいる場合、遺伝的に脂質代謝異常を引き起こすリスクが高まります。特に、家族性高脂血症と呼ばれる遺伝性の疾患では、コレステロール値が異常に高くなることがあります。

4. 肥満

体重が増加すると、体内の脂肪組織が増え、脂質代謝が正常に機能しなくなります。特に、内臓脂肪が増加すると、血中の中性脂肪やLDLコレステロールの量が増え、脂質代謝異常を引き起こしやすくなります。

5. 飲酒や喫煙

飲酒や喫煙も脂質代謝異常の原因となります。飲酒が続くと中性脂肪が増加します。また、喫煙は血管を傷つけ、中性脂肪の増加に繋がるため、脂質代謝異常のリスクを高めます。

6. 糖尿病などの他疾患

糖尿病があると、脂質代謝にも影響を及ぼします。糖尿病患者は、インスリンの作用が十分に発揮されず、脂質代謝に悪影響を与え、コレステロールや中性脂肪の値が異常に上昇することがあります。他にも、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、慢性腎不全、原発性胆汁性胆管炎、閉塞性黄疸、褐色細胞腫、一部の薬剤なども脂質異常症のリスクとなります。

脂質代謝異常の前兆や初期症状について

脂質代謝異常は、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。多くの人が、健康診断や血液検査で初めて脂質異常を指摘されることが多いです。しかし、放置しておくと動脈硬化が進行し、さまざまな心血管系の病気を引き起こす可能性があります。以下に、注意すべき前兆や症状を紹介します。

1. 血液検査でコレステロールや中性脂肪が高い

健康診断や病院での血液検査の結果、総コレステロール値やLDLコレステロール、中性脂肪が基準値を超えている場合、脂質代謝異常の可能性があります。基準値を超えると、動脈硬化のリスクが高まります。

2. 体重の増加

肥満は脂質代謝異常の大きな原因となります。特に、短期間で急激に体重が増えたり、内臓脂肪が増加している場合は、脂質異常の可能性があります。

3. 動脈硬化の兆候

脂質代謝異常が進行すると、動脈硬化が発生しやすくなります。動脈硬化が進行すると、胸痛や手足の突然の麻痺などのような症状が現れることがあります。

脂質代謝異常の検査・診断

脂質代謝異常は、主に血液検査で診断されます。脂質の異常を早期に発見するため、定期的な健康診断が重要です。診断に使われる主な検査項目と基準値は以下の通りです。

1. 血液検査

血液検査では、脂質代謝の状態を評価するために、以下の項目がチェックされます。

  • 総コレステロール:血中に含まれるコレステロールの総量を測定します。一般的に200mg/dL未満が正常範囲です。
  • LDLコレステロール:悪玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化を促進します。正常範囲は120mg/dL未満です。
  • HDLコレステロール:善玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化を防ぎます。正常範囲は40mg/dL以上です。
  • 中性脂肪(トリグリセリド):エネルギー源として使われる脂肪ですが、過剰に蓄積されると動脈硬化を引き起こします。正常範囲は150mg/dL未満です。

2. 動脈硬化の検査

脂質代謝異常が進行すると動脈硬化が進むため、動脈硬化の状態を確認するための検査も行われることがあります。

  • 頸動脈エコー検査首の血管の動脈硬化の状態を確認します。
  • ABI(足関節上腕血圧比)検査:手足の血流の状態を確認し、動脈硬化の程度を測定します。

脂質代謝異常の治療

脂質代謝異常の治療は、生活習慣の改善と薬物療法が中心です。以下に、具体的な治療方法を紹介します。

1. 食事療法

食事療法は、脂質代謝異常の治療において最も基本的な対策です。脂質の過剰摂取を避け、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。

  • 動物性脂肪やトランス脂肪酸を減らす:揚げ物や加工食品、脂肪の多い肉類を減らすことが大切です。
  • 食物繊維を多く摂る:野菜や果物、全粒穀物などの食物繊維は、コレステロールの吸収を抑える働きがあります。
  • 魚や植物性脂質を摂取:魚に含まれるオメガ3脂肪酸や、植物性脂質は、脂質代謝を改善する効果があります。

2. 運動療法

運動は、脂質代謝を改善し、LDLコレステロールを減らすと同時に、HDLコレステロールを増やす効果があります。週に150以上の有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)を行うことが推奨されます。

3. 薬物療法

生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合、医師によって脂質代謝を改善する薬が処方されることがあります。

  • スタチン系薬剤:LDLコレステロールを減少させる効果があります。
  • フィブラート系薬剤:中性脂肪を減少させる薬です。
  • エゼチミブ:コレステロールの吸収を抑える薬で、スタチンと併用されることが多いです。

脂質代謝異常になりやすい人・予防の方法

脂質代謝異常になりやすい人

  • 肥満の人:特に内臓脂肪が多い人は、脂質代謝異常になりやすいです。
  • 家族に脂質異常症の人がいる場合:遺伝的な要因があると、脂質代謝異常のリスクが高まります。
  • 糖尿病や慢性腎不全などがある人:これらの病気を持つ人は、脂質代謝に異常をきたしやすいです。
  • 喫煙者、多量飲酒者:喫煙や多量飲酒は中性脂肪を増やすため、脂質異常を引き起こします。

予防の方法

  • バランスの取れた食事 過剰な脂肪摂取を避け、野菜や果物、魚を中心としたバランスの取れた食事を心がけましょう。特に、揚げ物や加工食品を控えることが重要です。
  • 十分な運動 定期的に運動を行うことで、脂質代謝が改善されます。ウォーキング水泳などの有酸素運動が特に効果的です。
  • 禁煙と減酒 喫煙は脂質代謝に悪影響を及ぼすため、禁煙が推奨されます。喫煙を続けると、動脈硬化や心血管疾患のリスクが高まります。またお酒の飲み過ぎにも注意が必要です。
  • 定期的な健康診断 定期的に血液検査を受けて、コレステロールや中性脂肪の値をチェックし、早期発見と予防に努めましょう。
脂質代謝異常は、放置すると動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの重大な疾患につながるリスクがあります。日常生活での予防策を実践し、定期的な検査と早期の対策を心がけることが、健康維持に繋がります。

関連する病気

  • 動脈硬化症
  • 膵炎(高脂血症性膵炎)

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