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井林雄太

監修医師
井林雄太(田川市立病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

アジソン病の概要

アジソン病は、副腎皮質の機能が低下することによって引き起こされる慢性の内分泌疾患です。
この病気は1855年にイギリスの内科医トーマス・アジソンによって初めて報告されました。

副腎皮質はコルチゾールやアルドステロンといったホルモンを分泌し、代謝や水分バランスの調整をする重要な役割があります。
アジソン病の主な原因は自己免疫反応によって副腎が萎縮または破壊されることであり、これによってホルモンの分泌が慢性的に低下します。

初期には疲労感や低血圧、体重減少などの症状が現れますが、進行するとショック状態に陥ってしまう副腎クリーゼと呼ばれる重篤な状態に至ることがあります。

診断には血液検査が用いられ、血漿副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の上昇と血漿コルチゾールの低下が確認されます。
治療は、主にヒドロコルチゾンなどのホルモン補充療法が行われます。

アジソン病は10万人あたり約4人の発生率であり、年齢や性別に関係なく発症する可能性があります。
また、副腎クリーゼは急性感染や外傷、大量の発汗によるナトリウム喪失が引き金になることがあります。
ホルモン補充が不十分な場合、命に関わる危険があるため注意が必要です。

アジソン病の原因

アジソン病は、副腎皮質の機能が低下することで発症します。
その原因は多岐にわたり、主なものとして自己免疫性の反応、感染症、薬物の影響などが挙げられます。

自己免疫性副腎皮質炎

アジソン病の最も一般的な原因は、自己免疫性副腎皮質炎です。
自己免疫性副腎皮質炎では、体の免疫システムが誤って副腎を攻撃し、ホルモンを分泌する副腎皮質を破壊します。
このタイプは特発性アジソン病とも呼ばれ、多腺性自己免疫症候群(APS)との関連が見られます。
APSには1型、2型、4型、単独型があり、それぞれが異なる自己免疫疾患と結びついていることが特徴です。

感染症

感染症もアジソン病の原因として知られています。
過去には結核が主要な原因でしたが、現在では真菌感染症後天性免疫不全症候群(AIDS)に関連するケースが増えています。
これらの感染症は副腎を直接攻撃し、その機能を低下させることがあります。

薬物・その他の要因

抗真菌薬のケトコナゾールや麻酔薬のエトミデートは、副腎ホルモンの合成を阻害する作用を持っています。

副腎の腫瘍、アミロイドーシス、出血、炎症性壊死などの要因によっても発症します。
副腎自体に物理的なダメージを与え、ホルモン分泌が妨げられることが原因です。

また、先天性副腎過形成症などの遺伝性疾患やがん治療に使用される免疫チェックポイント阻害剤もリスク要因です。
これらの要因により、副腎皮質ホルモンである鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドの分泌が低下し、アジソン病が発症します。

アジソン病の前兆や初期症状について

アジソン病の初期症状では、全身の倦怠感やめまいが徐々に現れます。
なんとなく疲れやすい、元気が出ないと感じることが多くなります。

病気が進行すると、以下のような症状が現れます。

  • 青黒い色素沈着(唇・肘・膝など)
  • 食欲不振
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 無気力
  • 不安
  • 筋力低下
  • 脱毛

精神面や身体面でさまざまな症状が現れるため、早期に診断を受けることが重要です。
アジソン病の疑わしい症状がある際は、早めに内分泌内科を受診しましょう。

アジソン病の検査・診断

アジソン病の診断には、血液検査が重要です。
ここでは、代表的な検査所見について詳しく説明します。

血液検査

血液検査では、朝の時間帯に採血してホルモン値を測定します。
具体的には、コルチゾールの値が低く(5μg/dL未満)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の値が高い(50pg/mL以上)場合、アジソン病が疑われます。
また、軽度の貧血や白血球数の減少、リンパ球や好酸球の増加が見られることがあります。

迅速ACTH負荷試験

迅速ACTH負荷試験では、ACTH(テトラコサクチド)を投与して、その後の血漿コルチゾールの反応を観察します。
通常、血漿コルチゾールの値は上昇しますが、アジソン病ではこの反応がほとんど見られません。
増加反応が見られない、または低い場合は「部分的アジソン病」と診断されます。
この検査は、特に症状が明確でない場合に診断を確定するために有効です。

電解質の異常

アジソン病では、体内の電解質バランスにも異常が見られることがあります。
具体的には、血中のナトリウムが低く(135mEq/L未満)、カリウムが高い(5mEq/L以上)ことが多いです。
これらの異常は、副腎ホルモンの不足による体内の水分と電解質のバランスの乱れを反映しています。
まれに高カルシウム血症や代謝性アシドーシスが見られることもあります。

自己抗体検査

アジソン病の原因として自己免疫が関与している場合、自己抗体検査が行われます。
副腎皮質抗体(ACA)や抗21-ヒドロキシラーゼ抗体が陽性であることが確認されれば、自己免疫性アジソン病の可能性が高まります。

画像診断

副腎の物理的な状態を確認するために、CTスキャンやMRIといった画像検査も実施されます。
これらの検査により、副腎の萎縮、石灰化、腫れなどが確認されることがあります。
また、結核などが疑われる場合には、胸部X線も行われます。

これらの検査結果を総合的に評価し、アジソン病の確定診断が下されます。

アジソン病の治療

アジソン病の治療の基本は、副腎が作るホルモンの不足を補うことです。
急性の症状を防ぎ、長期的な健康を維持することが可能です。
ここでは具体的な治療方法と副作用や注意点について紹介します。

ホルモン補充療法

アジソン病の治療には、糖質コルチコイドと鉱質コルチコイドの補充が必要です。
糖質コルチコイドとしては、ヒドロコルチゾンまたはプレドニゾンが用いられます。
ヒドロコルチゾンは1日15~30mgを2~3回に分けて服用し、プレドニゾンは朝に4~5mg、必要に応じて午後に追加することが多い傾向です。
鉱質コルチコイドはフルドロコルチゾンを1日0.1~0.2mg服用し、血圧と電解質のバランスを調整します。

治療の効果と副作用

アジソン病の治療では、適切なホルモン補充により、日常生活を正常に送ることが可能です。
しかし、ホルモンが不足すると副腎クリーゼのリスクがあり、過剰な補充は骨粗鬆症や糖尿病、体重増加などの副作用を引き起こす可能性があるため、用量調整が重要です。

副腎クリーゼ(急性副腎不全)の治療

副腎クリーゼは、アジソン病のホルモン補充療法が十分でない場合や体が強いストレスを受けたときに起こる、非常に危険な状態です。

この状態では、腹痛、極度の疲労感、急な血圧低下、腎機能の低下、ショック状態が発生することがあります。
外傷を伴う事故や大手術、重症感染症などが引き金になることがあります。
治療には、迅速にヒドロコルチゾンを投与し、体液バランスを保つためブドウ糖液や生理食塩水の点滴も行います。

アジソン病になりやすい人・予防の方法

アジソン病のリスクが高いのは、自己免疫疾患の既往や家族歴がある方です。
特に1型糖尿病や橋本病を持つ方、また結核や感染症の既往がある場合もリスクが増加します。
また、がん治療に使用される免疫チェックポイント阻害剤も副腎機能低下を引き起こす可能性があり、注意が必要です。

予防のためには、副腎が必要とするホルモンをきちんと補充することが大切です。
手術や感染症、大きなストレスを受けたときには、通常より多めにホルモンを補充する必要があることもあります。
治療を受けている方は、自己判断で治療をやめずに、必ず医師の指示に従いましょう。

アジソン病は、早期の治療と管理で、症状を抑え、安定した生活を送ることができます。
緊急時に備えて、自己注射の準備や医療情報カードを持つことも大切です。


関連する病気

  • 自己免疫性多腺不全症候群(APS)
  • 自己免疫性疾患

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