

監修医師:
大坂 貴史(医師)
プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
目次 -INDEX-
1型糖尿病の概要
1型糖尿病は、膵臓でインスリンを分泌するβ細胞が自己免疫の異常によって破壊されることで、インスリンがほとんど、または全く分泌されなくなる病気です。インスリンは血糖値を調節するホルモンであり、その不足によって血糖値が高くなり、糖尿病の症状が現れます。 1型糖尿病は一般的に若い年齢、特に子どもや青年期に発症することが多いですが、大人でも発症することがあります。生活習慣や肥満とはあまり関係がなく、根本的な原因としては免疫系の異常などが指摘されています。 現在、1型糖尿病の完治は難しく、患者は日常的にインスリン注射などの治療を行いながら、血糖値を管理する必要があります。適切な血糖値を維持することで、長期間にわたって健康な生活を維持することが可能となっています。1型糖尿病の原因
1型糖尿病の原因は、主に自己免疫疾患としての性質を持っています。体の免疫システムが誤って膵臓のβ細胞を攻撃し、破壊してしまうことで、インスリンの分泌が停止します。正確なメカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの要因が関与していると考えられています。遺伝的要因
1型糖尿病には遺伝的な要素が関係していることが知られています。特に海外では家族に1型糖尿病を持つ人がいる場合、そのリスクが高まります。しかし、1型糖尿病は遺伝のみで発症するものではなく、環境要因や他の要素も影響を与えます。自己免疫反応
1型糖尿病は自己免疫疾患の一つです。自己免疫反応とは、体の免疫システムが自己の細胞を攻撃してしまう現象であり、この場合はインスリンを分泌する膵臓のβ細胞が標的となります。この免疫反応の引き金は不明ですが、ウイルス感染や特定の環境要因が関与している可能性があります。環境要因
ウイルス感染が1型糖尿病の発症に関与している可能性が示唆されています。特定のウイルス感染が免疫系を刺激し、自己免疫反応を引き起こすことで、膵臓のβ細胞が破壊されることがあります。また、海外の報告では特定の食事や栄養不足、環境の変化も発症に影響するとされています。1型糖尿病の前兆や初期症状について
1型糖尿病の初期症状は、インスリンが不足し、体内の血糖値が異常に高くなることで現れます。初期症状は突然現れることが多く、特に子どもや若者に発症する場合は急速に悪化することがあります。以下に、主な症状を紹介します。- 多尿 血糖値が高くなると、体は余分な糖を尿と一緒に排出しようとします。そのため、頻繁にトイレに行くようになり、多尿の症状が現れます。
- 喉の渇き 多尿によって体内の水分が不足するため、喉の渇きを感じるようになります。水をたくさん飲んでも、トイレに行く回数が増え、脱水状態になることもあります。
- 疲労感 インスリンが不足すると、体は糖をエネルギーとして利用できなくなり、代わりに脂肪を燃焼し始めます。この結果、エネルギー不足が起こり、強い疲労感や無気力感が現れます。
- 体重減少 インスリンが不足することで、体がエネルギー源として脂肪を使い始めるため、急激に体重が減少することがあります。特に、食欲があるにもかかわらず体重が減る場合は注意が必要です。
1型糖尿病の検査・診断
1型糖尿病の診断は、主に血液検査を通じて行われます。初期の症状が現れた場合、早期に医療機関で診断を受けることが重要です。 以下に、主な検査方法を紹介します。血糖値測定
血糖値の測定は、1型糖尿病の診断において最も基本的な検査です。早朝空腹時の血糖値が126mg/dL以上の場合や、早朝空腹時でないタイミングで200mg/dL以上の場合、糖尿病が疑われます。HbA1c検査
HbA1cは過去数カ月間の血糖値の平均を示す指標で、糖尿病の診断や管理に使われます。通常、HbA1c値が6.5%以上の場合、糖尿病の可能性が高いとされます。血中インスリンとCペプチドの測定
1型糖尿病の患者は、インスリンの分泌が低下しているため、血中のインスリンやCペプチド(インスリン分泌の指標)の値が低くなります。これらの検査を行うことで、インスリン分泌の異常が確認されます。自己抗体検査
自己免疫反応が1型糖尿病の原因の一部であるため、膵臓のβ細胞に対する自己抗体が存在するかどうかを確認するための検査が行われることがあります。特定の自己抗体が確認された場合、1型糖尿病の診断が確定されます。1型糖尿病の治療
1型糖尿病は、インスリンの分泌が完全に停止するため、治療には外部からのインスリン補充が不可欠です。 インスリン治療とともに、食事や運動、血糖値の自己管理などが重要です。以下に、主な治療方法を紹介します。インスリン療法
1型糖尿病の患者は、インスリンを毎日補充する必要があります。原則として1日中必要な基礎分泌、食事に応じて必要な追加分泌を補う事が重要です。インスリンは注射またはインスリンポンプを用いて体内に投与されます。インスリンの種類には、効果がすぐに現れる「速効型/超速効型」や、長時間にわたって効果を持続させる「持効溶解型」などがあり、患者の生活リズムや血糖値の状態に応じて使い分けます。インスリンポンプでは「超速効型」インスリンのみを用いて細かい調整が可能です。また、後述するCGMと組み合わせて自動インスリン注入療法(AID)も使用する事ができ、ペンやインスリンポンプ単体と比べて良い血糖値を心理的負担を軽減した上で使用できるとされている。血糖自己管理
1型糖尿病の治療では、日常的に血糖値を自己管理することが重要です。以前は指先から採血して血糖値を測定する方法が主流でしたが、皮下に差し込んだセンサーで血糖値を評価する持続血糖測定装置(CGM)も用いれば24時間の血糖値を把握する事ができ、近年こちらが中心となってきている。一部のCGMは先述のインスリンポンプと連動し、AIDが使用可能となっている。食事療法
食事療法だけで1型糖尿病が良くなる事はありませんが、食事に対する知識は重要です。インスリンの投与量は糖質の摂取量で調整するカーボカウントという方法が広く知られています。糖質量を把握し、それに合わせたインスリンを注射する事が血糖値の管理には重要です。運動療法
運動は血糖値をコントロールし、健康を維持するために効果的です。ただし、運動によって低血糖になるリスクがあるため、運動前後の血糖値を確認し、必要に応じて食事やインスリンの投与量を調整することが求められます。1型糖尿病になりやすい人・予防の方法
1型糖尿病になりやすい人
1型糖尿病の発症リスクは、以下のような要因によって高まることがあります。- 家族歴 海外の研究では親や兄弟に1型糖尿病の患者がいる場合、そのリスクが高まると報告されています。
- 遺伝的要因 特定の遺伝子を持つ人は、1型糖尿病になる可能性が高いとされています。
- 自己免疫疾患 糖尿病関係の自己抗体が陽性の方は1型糖尿病に発症しやすいと言われています。
予防の方法
現時点では、1型糖尿病を完全に予防する方法は確立されていません。海外の報告では糖尿病関係の自己抗体が陽性の方が身体活動の上昇や低GI食、糖質摂取量の制限が発症を抑制する可能性について報告されています。また、海外では1型糖尿病のリスクの高い方を対象として、テプリズマブという薬剤の投与が考慮されるべきであるとされています。関連する病気
- 高血糖
- 糖尿病性ケトアシドーシス
- 低血糖
- 糖尿病網膜症
- 糖尿病腎症
- 心疾患
参考文献
- 日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024
- アメリカ糖尿病学会 Standards of Care 2. Diagnosis and Classification of Diabetes: Standards of Care in Diabetes—2024
- アメリカ糖尿病学会 Standards of Care 7. Diabetes Technology: Standards of Care in Diabetes—2024
- アメリカ糖尿病学会 Standards of Care 9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2024
- Roos T, Effect of automated insulin delivery systems on person-reported outcomes in people with diabetes: a systematic review and meta-analysis. EClinicalMedicine. 2024 Sep 21;76:102852.




