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月経困難症
馬場 敦志

監修医師
馬場 敦志(宮の沢スマイルレディースクリニック)

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筑波大学医学群医学類卒業 。その後、北海道内の病院に勤務。 2021年、北海道札幌市に「宮の沢スマイルレディースクリニック」を開院。 日本産科婦人科学会専門医。日本内視鏡外科学会、日本産科婦人科内視鏡学会の各会員。

月経困難症の概要

月経困難症とは、月経中の諸症状により日常生活に支障をきたす状態のことを言います。主な症状としては、下腹痛、腰痛、頭痛、嘔気、嘔吐、胃痛、乳房痛、便秘、下痢、めまい、精神不穏、食欲減退など多彩な症状があり、仕事などの社会生活を送るのが難しくなる方もいます。月経中に何らかの症状がある方は60-80%近いとも言われており、無症状に経過する方がむしろ少ないと言えます。令和6年に発表された、経済産業省の「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」によると、女性就労者において月経随伴症状により欠勤者の割合は13.6%、症状があっても出勤する人のうち、パフォーマンスが低下する人の割合は90%と報告されています。そして、それらによる経済損失は年間約0.6兆円とも言われています。

月経困難症には①機能性月経困難症②器質性月経困難症があり、内診や超音波検査などの画像診断、感染症検査などを行い、それらの器質的な疾患があるものを器質性月経困難症、ないものを機能性月経困難症と呼びます。 機能性月経困難症の治療は、鎮痛薬や低用量ピルなどのホルモン剤、漢方薬などを用います。器質的月経困難症は、原因となる疾患の治療を行うか、機能性月経困難症と同様の方法で治療を行います。

月経困難症の原因

①機能性月経困難症

原因として、ホルモンバランスの異常や自律神経の関与、子宮が過度に収縮することなどが挙げられています。 近年、主な機序として子宮内膜で産生されるプロスタグランジンが原因ではないかと考えられています。月経困難症の患者さんは、月経血や全身の血中プロスタグランジン濃度が、月経困難症のない患者さんと比べて高いという報告があります。血中プロスタグランジン濃度が高くなると、全身の平滑筋を収縮させるため、嘔吐や頭痛など腹痛以外の症状も引き起こします。また、子宮内腔にカテーテルを入れ、子宮内圧を計測すると、月経困難症の患者さんではスパイク状の強い収縮が観察され、このような患者さんにプロスタグランジンを投与すると収縮と痛みが増強されます。

②器質性月経困難症

子宮筋腫や子宮腺筋症など、子宮腔を変形させる疾患や、子宮内膜症による慢性炎症、子宮頸管狭窄、子宮発育不全、骨盤内炎症などによる骨盤内のうっ血などが原因として挙げられます。

月経困難症の前兆や初期症状について

月経困難症の症状はさまざまで、よくあるのが下腹痛、腰痛ですが、腹部以外にも頭痛、嘔気、嘔吐、胃痛、乳房痛、便秘、下痢、めまいなど全身性の症状が出現したり、精神不穏、食欲減退など精神的な症状が出る方もいます。 機能性月経困難症は初経後2-3年から始まり、20-25歳がピークで30歳以降は少なくなります。ほとんどが妊娠や分娩を経験していない方であり、30歳以降の方や、分娩を経験したことがある方で月経困難症の症状がある場合は、器質的疾患が隠れている可能性があります。 また、機能性月経困難症の患者さんでは、月経時以外の卵胞期や黄体期にも痛みを感じる方がいます。 月経周期に伴って何らかの症状が出現する場合は、月経困難症の可能性があるため、産婦人科を受診しましょう。

月経困難症の検査・診断

まずはいつ頃からどのような症状が出現しているか、詳細な問診をすることから始まります。内診で子宮の動きや痛みの有無を確認したり、超音波検査やMRIなど画像診断で子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮発育不全など子宮の形に問題ないかを調べます。 ほかに採血で炎症反応が上がっていないか、腟内の細菌培養やクラミジア抗原検査で骨盤内の炎症を引き起こす原因がないかを検索します。 それらの器質的疾患があれば器質性月経困難症と診断し、除外されれば機能性月経困難症と診断します。

月経困難症の治療

非ステロイド系抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)

月経困難症の発生には子宮内膜で産生されるプロスタグランジンの関与が大きいとされており、プロスタグランジン合成阻害薬である非ステロイド系抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)が有効です。その効果は64-100%と報告がありますが、15%以下において効果が見られなかったとの報告もあります。痛みを感じてから内服するより、予定月経の数日前からの投与が奏功することがあります。

ホルモン剤

低用量ピル(Low dose Estrogen Progestin:LEP)

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬で、鎮痛薬の効果が十分でない方に有効です。排卵を抑え、月経血が減少することで痛みが軽減します。 28日周期で休薬期間をおき消退出血を起こす周期投与よりも、長期間連続投与の方が疼痛日数を減少させるという報告があり、カナダや日本のガイドラインでも連続投与が推奨されています。

プロゲスチン製剤(ジエノゲスト)

低用量ピルと同様、ホルモン剤の一種ですが、黄体ホルモン単体の治療薬です。投与12週間後の下腹痛、腰痛は、プラセボ群と比較して有意にジエノゲスト投与群で低下したことが示されています。 低用量ピルと比較し、エストロゲンを含まないため血栓症のリスクが低いという特徴があります。低用量ピルでは慎重投与や禁忌にあたる、40歳以上や喫煙をする方、片頭痛がある方でも使えるという特徴があります。

レボノルゲストレル放出子宮内システム(Levonorgestrel releasing intrauterine system:LNG-IUS)

レボノルゲストレルという黄体ホルモンが付加された子宮内に留置する器具で、継続的にホルモンを放出し、子宮内膜を薄い状態で維持することで、月経困難症を改善します。一度装着すると最長5年間留置することができます。 欧米では子宮内膜症や子宮腺筋症に伴う月経困難症や機能性月経困難症を軽減させる目的で用いられており、イギリスのガイドラインでは、子宮内膜症に伴う痛みだけでなく、子宮内膜症によらない周期性疼痛にもこのシステムの使用が考慮させるべきと述べています。

漢方薬

漢方薬により月経困難症を効果的に改善できる可能性があります。芍薬甘草湯、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、当帰建中湯などから、体質にあったものを漢方学的診断に基づいて処方します。漢方薬には即効性はありませんが、4-12週の投与で症状の改善を期待できます。また、芍薬甘草湯は月経痛が激しいときに頓服で使用することもあります。

このほか、器質的疾患がある場合はそれらの治療が優先されることもあります。一方、子宮内膜症や子宮筋腫などがあっても、低用量ピルなど上記治療で改善するようであれば、原疾患の治療を行わないこともあります。 また、若い方で子宮発育不全に伴う月経痛を考える場合には、子宮収縮を抑えるブチルスコポラミン臭化物を用いることがあります。

月経困難症になりやすい人・予防の方法

月経困難症は多くの方が多少なりとも症状を持つ疾患です。機能性月経困難症は若い方で多いですが、年齢とともに改善していく傾向があります。一方で年齢とともに症状が強くなる場合は婦人科的疾患が隠れている場合があります。予防としては、定期的な婦人科健診を受け、原因となる疾患を早期に発見し、悪化する前に対処をするのがおすすめです。

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