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甲状腺機能亢進症
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

甲状腺機能亢進症の概要

血中の甲状腺ホルモンが増加している状態を甲状腺中毒症と言い、その中でも甲状腺での甲状腺ホルモン合成・分泌が増加したために血中の甲状腺ホルモンが増加している状態のことを甲状腺機能亢進症と言います。原因としてはバセドウ病が最も多く、15〜50歳の若年の女性に多く発症します。症状は様々で、動悸、多汗、体重減少、疲労感、手の震え、頻脈などがあります。甲状腺機能亢進症の治療は原因により異なります。甲状腺機能亢進症の原因として最も多いバセドウ病に対する治療としては、抗甲状腺薬、放射性ヨード内用療法、手術があります。(参考文献1)

甲状腺機能亢進症の原因

甲状腺ホルモンの合成・分泌が亢進する疾患は、甲状腺に原因がある場合と甲状腺以外に原因がある場合に大きく分けられます。(参考文献1)

甲状腺に原因がある疾患の代表例としては、バセドウ病 (グレーブス病)甲状腺機能性結節 (プランマー病) などがあります。バセドウ病は甲状腺機能亢進症の原因として最も多い疾患で、自己免疫疾患の一種です。甲状腺刺激ホルモン (TSH) 受容体抗体 (甲状腺刺激免疫グロブリンとも呼ばれます) が産生されてしまうことにより TSH 受容体が刺激され、甲状腺の成長と甲状腺ホルモンの合成・分泌が促進されることで発症します。(参考文献2) 甲状腺機能性結節 (プランマー病) は、甲状腺ホルモンを産生する甲状腺濾胞という部分にできた腫瘍が制御されることなく甲状腺ホルモンを産生することで甲状腺機能亢進をきたす疾患です。(参考文献1)

一方、甲状腺以外に原因がある疾患としては、TSH 産生下垂体腫瘍、高ヒト絨毛性ゴナドトロピン血症による妊娠や胞状奇胎などがあります。TSH 産生下垂体腫瘍は、下垂体の TSH 産生細胞が腫瘍化したことによる疾患です。TSH は甲状腺ホルモンの分泌を促すため、TSH 産生細胞が増加すると甲状腺機能亢進症をきたします。胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG) というホルモンは妊娠の際に重要な働きをもつホルモンですが、構造が TSH と類似しているために、高濃度において甲状腺刺激作用を示します。そのため、血中 hCG 濃度が著しく上昇する胞状奇胎や絨毛腫瘍、及び妊娠早期の一部で甲状腺機能亢進症をきたすことがあります。 (参考文献1)

他にも甲状腺中毒症を呈する疾患には甲状腺が破壊されることによるものや甲状腺ホルモンの過剰摂取によるものもあります。甲状腺の破壊による甲状腺中毒症の代表例としては無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎があります。どちらも甲状腺ホルモンを産生する甲状腺濾胞細胞が傷害されることにより甲状腺ホルモンが放出されるため、一過性に甲状腺機能亢進症を起こします。その後、甲状腺機能は低下し、次第に回復するという経過をたどります。無痛性甲状腺炎は痛みと圧痛を伴わず、自己免疫性に発症する場合や免疫系に影響を及ぼす薬剤を投与された後にも起こる場合があります。亜急性甲状腺炎では痛みと圧痛があり、感染や外傷に起因して発症することがあります。(参考文献3) 甲状腺ホルモンの過剰摂取については、ヨウ素は正常な甲状腺機能を保つために不可欠な栄養素で、1日 あたりの推奨最低摂取量は妊娠していない成人で150 μgです。通常、食事からのヨウ素摂取量が大きく変動しても、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることはないようにコントロールされています。しかし、常在性甲状腺腫や結節性甲状腺腫の患者さんの中には、造影剤としてヨードを投与した際に甲状腺機能亢進症を発症する場合があります。(参考文献4)

甲状腺機能亢進症の前兆や初期症状について

甲状腺機能亢進症の初期症状としては

  • 食欲は正常か亢進しているにもかかわらず体重が減少する
  • 脱力感、振戦、動悸、発汗増加
  • 不安、情緒不安定
  • 落ち着かない、早口になる
  • 暑さに弱くなる

などの症状がみられることがあります。眼球突出や複視、眼球偏位といった眼症状や、前脛骨部の粘液水腫はバセドウ病に特徴的です。バセドウ病では甲状腺の腫大は小さいものから大きいものまであり、高齢患者さんにおいては触知できないものもよくみられます。触知可能な結節が 1つ あれば、プランマー病の可能性を疑います。無痛性甲状腺炎においても、甲状腺腫大はないか、わずか〜中等度というようにバラつきがあります。 (参考文献1,5)

甲状腺機能亢進症の検査・診断

甲状腺機能亢進症を疑う場合には血清 TSH と甲状腺ホルモン (FT3、FT4) を測定します。血清 TSH が低値で甲状腺ホルモン (FT4とFT3) が高値であれば、甲状腺機能亢進症と診断されます。(参考文献5)

次に、甲状腺機能亢進症の原因探索のためには以下のような検査が行われます。(参考文献1)
 

血液検査

血中甲状腺ホルモン、TSH、TRAb、サイログロブリン、抗サイログロブリン抗体などを調べます。

  • TRAb は、抗 TSH 受容体抗体を測定する検査です。
  • サイログロブリンは甲状腺ホルモンの前駆体で、バセドウ病の患者さんには抗サイログロブリン抗体が陽性になる場合があります。

 

画像検査

  • 甲状腺シンチグラフィ:放射性ヨード摂取率を調べます。
  • エコー検査:甲状腺腫や血流増大の有無を調べます。

これらの検査の結果から、以下のフローチャートに則り甲状腺機能亢進症の原因となる疾患を探ります。(参考文献1)
矢崎, 義雄/赤司, 浩一/渥美, 達也(編)「内科學 第11版」(朝倉書店、2017年)
引用:矢崎, 義雄/赤司, 浩一/渥美, 達也(編)「内科學 第11版」(朝倉書店、2017年)(1578ページ)

甲状腺機能亢進症の治療

甲状腺機能亢進症の治療は原因により異なります。(参考文献6) バセドウ病の治療には主にβ遮断薬、抗甲状腺薬、放射性ヨード内用療法、手術療法があります。

 

β遮断薬 (参考文献6)

β遮断薬は動悸、頻脈、震え、不安、暑さに弱いといった甲状腺機能亢進症の症状を改善します。

 

抗甲状腺薬 (参考文献1)

抗甲状腺薬は甲状腺ホルモンの合成を阻害する薬です。日本では約9割の患者さんが最初に抗甲状腺薬による治療を受けています。抗甲状腺薬にはチアマゾールとプロピオチオウラシルがありますが、通常はより使用量が少なく済み、副作用の頻度も少ないチアマゾールの投与が推奨されます。しかし、妊娠前期の患者さんにおいては、チアマゾールが新生児頭皮欠損症などを引き起こす可能性があるためプロピルチオウラシルが推奨されています。抗甲状腺薬による治療で症状が落ち着くまでには 1〜2年 の長期にわたる治療が必要と言われています。

 

放射性ヨード内用療法 (参考文献7)

放射性ヨード内用療法とは、甲状腺癌がヨードを取り込む性質を有することがあるのを利用し、I-131と呼ばれる放射線を放出するヨードのカプセルを内服することで施行する放射線治療です。中高年の患者さんで、抗甲状腺薬による治療では副作用が出たり効果が十分でなかったりした場合や、手術後に再発してしまった場合に選択されることの多い治療法です。

 

手術 (参考文献1)

甲状腺を外科的に切除することで甲状腺ホルモンの分泌量を減少させる治療法です。若年の患者さんで、抗甲状腺薬による治療では副作用が出たり効果が十分でなかったりした場合に選択されることの多い治療法です。 また、腫瘍を合併していたり甲状腺腫が非常に大きかったりする場合や短期間での治療が希望である場合にも選択されます。

甲状腺機能亢進症になりやすい人・予防の方法

甲状腺機能亢進症の原因としてはバセドウ病が最も多く、比較的若年の女性に多くみられます。15〜50歳 の女性の発症が多く、男女比は 1:7〜10 で、有病率は女性の 約0.3% と言われています。 (参考文献1) ストレスの多さやヨード摂取量の多さがバセドウ病のリスクファクターである可能性があると言われていますが、これらを避けることでバセドウ病を予防できるかどうかはまだわかっていません。(参考文献8)


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