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バセドウ病(甲状腺機能亢進症)

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
久高 将太

監修医師
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)

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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の概要

甲状腺は、首の前部に位置する蝶々のような形をした軽量の臓器です。食べ物に含まれるヨウ素を利用して甲状腺ホルモンを生産し、主に体の代謝や温度調整に関与します。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)は、甲状腺が過剰に活動し、甲状腺ホルモンを多量に分泌する自己免疫疾患です。自己免疫疾患とは、本来細菌やウィルスなどから体を守る免疫システムが、自身の臓器・細胞を標的にしてしまうことで起きる病気の総称です。バセドウ病の場合、免疫システムが甲状腺刺激ホルモン受容体(TSH受容体)を誤って刺激し、結果、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることになります。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、動悸や息切れ、手足の震え、多汗、全身倦怠感、体重減少、眼球突出など全身にさまざまな影響を及ぼします。

バセドウ病の原因には、遺伝的要素や環境的要因が考えられていますが、TSH受容体に対する抗体がなぜ生成されるのかは解明されていません。遺伝因子や環境因子(ストレスや過労、出産など)が病気の引き金になるのではと考えられています。
バセドウ病は、20〜30代頃の女性に多く見られる傾向にあります。

バセドウ病の病名は、この病気を研究・発表したドイツの医師バセドウにちなんで名づけられました。欧米では、同病を研究したアイルランドの医師にちなんで、グレーブス病と呼ばれています。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の原因

バセドウ病の主な原因は、甲状腺刺激ホルモン受容体(TSH受容体)に対する誤った自己抗体の生成です。
バセドウ病は自己免疫疾患の一種で、体を守るべき免疫システムが誤って自身の甲状腺細胞を攻撃してしまう状態です。バセドウ病の患者さんでは、TSH受容体に自己抗体が結合してしまい、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の代わりに甲状腺ホルモンの分泌を刺激するため、甲状腺ホルモンが過剰に産生されます。
甲状腺ホルモンの分泌は本来、脳下垂体が分泌するTSHによって調節されます。

なぜ自己抗体が生成されるのか、原因はまだ解明されていませんが、遺伝的要因と環境要因が関与するとされています。
バセドウ病の原因となる遺伝子は特定されてはいませんが、家族歴がある場合の発症リスクは高い傾向にあります。
また、環境要因としては、強いストレス、過労、喫煙、出産などが挙げられ、これらが発症の引き金となると考えられています。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の前兆や初期症状について

症状は心身両面にわたり、動悸、頻脈、体重の変動(増減)、そして過剰な汗を伴う熱感が典型的です。
また、神経系への影響も大きく、手の震えや周期性四肢麻痺などの筋肉の問題が見られることがあります。
精神的には不安、イライラ感、集中力の低下、不眠などの症状が現れやすいです。
消化系では、食欲の異常(増加または減少)、軟便や頻繁な排便などの変化が起こりうるとされます。
皮膚の症状は、異常な発汗、脱毛、あるいは皮膚の色調変化があるとされています。
特に目立つのが眼症状で、眼球突出や複視などが典型的です。眼周囲の組織の腫れや炎症によるもので、視覚に影響を与えることがあります。
さらに、女性では月経不順や無月経が生じることがあり、不妊の原因となることもあります。
循環器には心房細動や心不全のリスクも関連しており、全体的な心血管系の負担が増加します。
症状が表れた場合は、一般内科または内分泌内科を受診しましょう。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の検査・診断

バセドウ病の診断は、患者さんの症状と詳細な検査に基づき行われます。
診断は、頻脈、体重減少、手指の振戦、発汗の増加などの症状の確認から始まります。また、甲状腺の腫大や眼球突出など視認できる変化も重要な診断指標です。

血液検査で、血液中の甲状腺ホルモン(FT3とFT4)やTSH受容体抗体(TRAb)や甲状腺刺激抗体(TSAb)の上昇と、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の低下が見られると、甲状腺機能亢進症(甲状腺中毒症)と診断されます。

TRAb・TSAbが陰性の場合、血液検査のみでは診断が確定できないため、アイソトープ検査(放射性ヨウ素検査)を行います。放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲み、シンチグラム写真を撮ります。この画像によって、甲状腺の働き具合を評価します。
放射性物質を使用するため、妊娠中の方は検査できません。また授乳中の方は、検査日を含めて3日間程授乳を中止する必要があります。

超音波検査では甲状腺の大きさや腫瘍の有無を調べます。
また、心臓への影響を評価するため心電図や胸部レントゲンが行われることもあります。この検査も妊娠中や授乳中の女性、また高齢者や小児の場合は診断に注意が必要です。

これらの検査結果と症状の総合的な評価によりバセドウ病の診断が確定し、治療が開始されます。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の治療

薬物療法

バセドウ病の主な治療法は薬物療法です。この療法の主な目的は、甲状腺ホルモンの過剰な合成と分泌を抑制することにあります。

治療には主に「抗甲状腺薬」と呼ばれる薬剤が用いられ、甲状腺ホルモンの生成を直接抑制します。服用開始から約2〜3週間で効果が表れ始め、約2〜3ヶ月で甲状腺ホルモンのレベルが正常範囲に落ち着くとされています。しかし、効果が現れるまでには時間がかかり、治療初期は副作用のリスクも高い傾向にあります。
治療開始後は定期的に医師の診察を受け、甲状腺機能の変動を注意深く観察する必要があります。

薬物療法の副作用として、皮疹やかゆみ、肝機能障害、そして稀に無顆粒球症(白血球の一種が極端に減少する状態)などが挙げられます。なかでも無顆粒球症は、感染症に対する抵抗力が低下し、発熱や咽頭痛などの症状を引き起こすことがあります。
これらの副作用が現れた場合、医師は薬の種類を変更するか、あるいは投薬を一時的に中止します。

薬物療法は長期間にわたるうえ、寛解に至るには困難な場合があります。治療効果には個人差があり、一度症状が改善しても再発するリスクがあるため、薬物療法による治療を2年以上続けても症状が改善しない場合や、薬剤の中止が見込めない状況にある場合には、治療法の見直しや代替療法への切り替えが検討されます。

放射性ヨウ素内用療法

放射性ヨウ素内用療法はバセドウ病の治療法の一つで、甲状腺機能亢進症の症状を管理するために使用されます。
甲状腺に直接放射性ヨウ素を投与すると、過剰に活動している甲状腺細胞を縮小させ、機能を抑制します。これにより、甲状腺の腫れを減少させる効果が期待できます。
即効性のある治療ではなく、放射性ヨウ素の服用から約1〜2ヶ月で甲状腺が縮小し始め、約2〜6ヶ月経つと、甲状腺ホルモンの分泌も次第に減少します。

放射性ヨウ素療法にはいくつかの欠点も存在します。
一つは、この治療を提供できる医療施設が限られているため、すべての患者さんが治療を受けられるわけではありません。また、治療後に甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があり、その場合、患者さんは甲状腺ホルモンの補充治療を必要とする場合があります。
さらに、バセドウ病に関連する眼の症状が悪化するリスクがあることも懸念点です。そのため、目の問題を抱える患者さんには慎重な検討が必要とされます。
また、放射性ヨウ素を使用するため、妊婦や授乳婦、小児には適用できないという制限もあります。

甲状腺摘除術

甲状腺摘出術はバセドウ病治療のなかでも迅速な選択肢です。手術により甲状腺を取り除くことで、症状の再発を防ぎます。
手術には甲状腺を少し残す亜全摘と、全摘があります。
全摘では甲状腺が存在しなくなるため、患者さんは生涯にわたって甲状腺ホルモン補充療法を必要とします。しかし、亜全摘は再発の可能性があります。

手術にはいくつかのリスクも伴います。
まず、手術には入院が必須であり、手術後には顕著な傷跡が残ることがあります。さらに、手術中に周囲の組織や神経に影響を与える可能性があり、反回神経が損傷すると声の変化が起こることがあります。
また、副甲状腺が影響を受けるとカルシウム代謝に関連する問題が発生する可能性も考慮に入れる必要があります。

バセドウ病(甲状腺機能亢進症)になりやすい人・予防の方法

バセドウ病は20〜50代、なかでも20〜30代の女性に多く見られる自己免疫疾患で、女性は男性に比べて約3〜5倍の確率で発症するとされています。
妊娠や出産などの大きな身体的変化は、バセドウ病の発症リスクを高めることがあります。

遺伝的要素もバセドウ病の発症に関与していると考えられており、家族に同疾患の患者さんがいる場合、そうでない方に比べて発症リスクは高まるとされています。遺伝的要素以外にも、環境要因が影響していると考えられます。

環境要因として、まずストレスが挙げられます。慢性的なストレス状態は自己免疫反応を引き起こしやすくします。そのため、ストレスによる体内環境の変化でバセドウ病が引き起こされる可能性があり、ストレス管理が重要です。
適切な食事、定期的な運動、十分な睡眠などがよいストレス対策となります。

喫煙はバセドウ病のリスクを高めるだけでなく、既に病気になっている方も症状の悪化や治療効果の低下を招くため、禁煙が強く推奨されます。

さらに、EBウイルスなどのウイルス感染がバセドウ病のトリガーとなることもあります。主に伝染性単核球症を引き起こすウイルスで、感染後に甲状腺疾患を発症するケースもあるとされています。
これらの環境因子に注意し、定期的な健康診断を受けることが推奨されます。

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