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薬物性歯肉増殖症
木下 裕貴

監修歯科医師
木下 裕貴(歯科医師)

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北海道大学歯学部卒業。同大学病院にて研修医修了。札幌市内の歯科医院にて副院長・院長を経験。2023年より道内の医療法人の副理事長へ就任。専門はマウスピース矯正だが、一般歯科から歯列矯正・インプラントまで幅広い診療科目に対応できることが強み。『日本床矯正研究会』会員であり小児の矯正にも積極的に取り組んでいる。

薬物性歯肉増殖症の概要

薬物性歯肉増殖症は、特定の薬剤を長期服用したときの副作用によって歯肉が肥厚する疾患です。
主な原因薬剤として、抗てんかん薬のフェニトイン、カルシウム拮抗薬のニフェジピン、免疫抑制剤のシクロスポリンなどが知られています。
これらの薬剤の投与期間が長期にわたる場合や、投与量が多い場合、口腔環境などの要因が加わることで、発症リスクが高まると考えられています。

薬物性歯肉増殖症の症状は、「歯肉」の肥厚です。歯の根元や歯と歯の間の歯肉が徐々に盛り上がり、進行すると歯を覆い隠すほどにもなります。
通常、患部に痛みや炎症などの症状はありませんが、審美的な問題が起きやすくなるほか、歯の移動が起こり、歯並びやかみ合わせに悪影響を及ぼすことがあります。
さらに、症状の影響で口腔環境の良好な維持が困難になるため、歯周病や虫歯のリスクが高まります。

薬物性歯肉増殖症の診断では、類似疾患との鑑別も考慮して、画像検査や病理検査などがおこなわれます。

治療の第一選択は、基本的な歯周治療となりますが、改善が見られない場合には、原因となる薬剤の変更や減量を検討します。
薬剤の変更が困難な場合や、十分な改善が得られない場合は、歯肉切除術などの外科的処置をおこなうこともあります。

薬物性歯肉増殖症の発症後は、口腔環境を管理して症状の進行を抑えることが重要です。
治療後も定期的な歯科検診を受け、口腔内の健康を維持することが再発防止につながります。

薬物性歯肉増殖症の原因

薬物性歯肉増殖症の主な原因は、特定の薬剤の長期服用による副作用です。
薬物の影響で歯肉の内部に存在する線維芽細胞が異常に増殖することで、引き起こされると考えられています。

代表的な原因薬剤として、てんかん治療に用いられる抗てんかん薬(フェニトイン、ヒダントインなど)、高血圧治療に使用されるカルシウム拮抗薬(ニフェジピン、マニジピンなど)、臓器移植や自己免疫疾患の治療に用いられる免疫抑制剤(シクロスポリンなど)が挙げられます。
複数を同時に使用している場合、発症リスクがさらに高まる可能性があります。

薬剤の投与量や投与期間のほかには、口腔環境の不良、患者の年齢や性別、遺伝的要因なども発症リスクに影響すると考えられています。

薬物性歯肉増殖症の前兆や初期症状について

薬物性歯肉増殖症の前兆は特に知られていません。
初期症状は歯肉の肥厚です。増殖した歯肉は炎症性ではなく、通常は痛みなどはありません。

症状が進行すると歯肉がさらに盛り上がり、歯を覆い隠すほど広がることがあります。
これにより、審美性が損なわれるだけでなく、歯の位置が変化し、歯並びやかみ合わせに悪影響を及ぼす可能性があります。

肥厚した歯肉は通常、固く引き締まった状態になります。
症状の現れ方は個人差があり、部分的に現れる場合もあれば、歯肉全体に及ぶこともあります。
特に前歯まわりの歯肉に症状が現れやすい傾向があり、口が閉じられなくなるなどの審美面での影響も出ます。

肥大した歯肉によって口腔全体の清掃が難しくなり、結果的に歯の汚れが蓄積しやすくなります。
これにより、虫歯や歯周病のリスクが高まり、口腔内の健康状態が悪化する可能性があります。

薬物性歯肉増殖症の検査・診断

薬物性歯肉増殖症の検査は、服薬内容の確認と歯肉の腫れの視診から始まります。
さらに詳細な評価のため、パノラマレントゲン検査などの画像検査もおこなわれ、歯や顎の骨、歯肉の状態が確認されます。

確定診断には病理検査が不可欠で、歯肉の一部を採取して顕微鏡で観察することで、歯肉線維腫症やほかの歯肉増殖症などとの鑑別がおこなわれます。
また、虫歯や歯周病の有無を確認するため、歯周ポケット検査などの一般的な歯科検査も実施されます。
これらの総合的な検査により、薬物性歯肉増殖症の正確な診断と適切な治療計画の立案が可能となります。

薬物性歯肉増殖症の治療

薬物性歯肉増殖症の治療では、歯のクリーニングやブラッシング指導などの基本的な歯周治療が第一選択となります。歯肉の肥厚により自己でのブラッシングが困難な場合は、軟毛の歯ブラシを使用することもあります。

歯周治療で改善が見られない場合には、原因となる薬剤の変更や減量が可能か、担当医へ確認します。
ただし、抗てんかん薬や免疫抑制剤は特に代替薬が少なく、変更や減量が難しい場合が多いのが現状です。

薬剤の変更が困難で十分な改善が得られない場合や、症状が中等度から重度の場合には、歯肉切除術などの外科的処置が検討されます。
歯肉切除術では、麻酔下で腫れた歯肉の一部を切除し、歯と歯肉の間の深い溝に汚れが溜まりにくい状態を作ります。

手術後も再発する可能性があるため、継続的な管理が必要です。

薬物性歯肉増殖症になりやすい人・予防の方法

薬物性歯肉増殖症は、てんかんや高血圧症、臓器移植、自己免疫疾患などさまざまな疾患の治療によって、特定の薬剤を使用している人に発症リスクが高まります。
そのなかでも特に口腔環境の管理が不十分な場合、発症リスクはさらに高くなると考えられています。

予防には、適切な口腔ケアが不可欠です。
毎日の正しいブラッシングや歯間ブラシ、フロスの使用により、歯垢や歯石の蓄積を防ぐことが重要です。
定期的な歯科検診を受け、歯科医師に口腔内の状態をチェックしてもらうことは、この疾患の発症予防と早期発見につながるでしょう。
さらに、服薬による体の変化を注意深く観察し、気になる症状があれば医師に相談することで、早期対応が可能になります。

関連する病気

  • 高血圧症
  • 自己免疫疾患
  • 歯肉線維腫症
  • 歯肉増殖症炎

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