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慢性剥離性歯肉炎
加藤 大地

監修歯科医師
加藤 大地(歯科医師)

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東京歯科大学卒業。日本歯科大学附属病院研修修了。都内歯科医院勤務。現在は医療法人かとう歯科勤務。日本口腔インプラント学会、日本臨床歯周病学会、近未来オステオインプラント学会、保田矯正塾。

慢性剥離性歯肉炎の概要

慢性剥離性歯肉炎は、原因不明の歯肉の病変です。かつては「歯肉症」と呼ばれていました。慢性剥離性歯肉炎は、歯肉の表面の上皮が剥がれ落ちて、びらんを形成し、疼痛をはじめとするさまざまな症状が起きます。具体的には歯肉の剥離や出血などです。歯肉の病変としては治療の困難な疾患の一つといわれており、対症療法を中心とした治療が行われます。

慢性剥離性歯肉炎は生理不順もしくは閉経後の女性に多く見られ、2~3歯程度に限定して発症するケースが多い傾向です。無歯顎歯槽提粘膜部にも病変が現れるという報告もあり歯周組織に原発する疾患というよりは、むしろ口腔粘膜の疾患とみなすべきと考えられています。

慢性剥離性歯肉炎の原因

慢性剥離性歯肉炎は原因不明ですが、女性ホルモン量との関連が指摘されています。また精神的なストレスや自己免疫疾患から発症する可能性があるといわれています。

全身的な原因としてはホルモン異常や栄養障害が挙げられていますが、病変との直接の関係性については明らかな結論は得られていません。 局所的な原因としては口腔衛生の不良も挙げられます。歯ブラシやフロスの不適切な使用、定期的な検診やクリーニングを受けていないことなどが口腔衛生の悪化につながります。

また、喫煙も慢性剥離性歯肉炎のリスクを高める要因の一つです。喫煙は歯肉の血行が悪くなり、免疫機能を低下させることで炎症を悪化させる可能性があります。 さらに、特定の遺伝子変異が、慢性剥離性歯肉炎の発症に影響を与えることがわかっています。

慢性剥離性歯肉炎の前兆や初期症状について

慢性剥離性歯肉炎の前兆や初期症状、合併症は下記の通りです。

慢性剥離性歯肉炎の前兆、初期症状

慢性剥離性歯肉炎の、特徴的な症状は歯肉の炎症歯肉の剥離です。歯肉が歯から離れてしまい、歯肉の下にたまった歯垢や細菌が歯肉の炎症を引き起こします。炎症が進行すると歯を支える組織にも影響を及ぼすおそれがあります。

軽症なものは、10~20代の女性に起こりやすく、痛みもほとんど認められません。好発部位は歯間部の歯肉や歯頚部歯肉であり、その症状は軽い赤みがみられる程度です。

中等度のものは、30~40代に多くみられ、紅斑や灰白色様の病変が現れます。歯肉の所見としてはつるつるとした感じになり、灼熱感や水疱が発現することもあります。

重症なものは、更年期あるいは閉経後の女性に多くみられます。日常のブラッシング圧や磨き残しのこすれよって簡単に歯肉上皮が剥がれ、鮮やかな赤色のびらん面が露出します。病変部は出血しやすく食べ物による温度刺激や化学的刺激に対して過敏になり、食事も困難になります。また接触痛も強いため、ブラッシングが困難になるケースが少なくありません。

歯肉と歯の間に隙間があいている、通常よりも赤みが強いといった症状がある場合は、歯科口腔外科を受診しましょう。

慢性剥離性歯肉炎と一般的な歯周病との違い

慢性剥離性歯肉炎と歯周病はどちらも歯肉の炎症が生じますが、原因や進行には差があります。

慢性剥離性歯肉炎の主な症状は出血や歯肉の剥離です。歯周病と比べると進行が遅いケースが多く、歯根膜や歯槽骨の破壊はめったに生じません。

一方、歯周病は、歯肉の炎症だけでなく、歯槽骨や歯根膜の破壊も伴います。慢性剥離性歯肉炎と比較すると進行が速い傾向です。 歯周病は歯垢や歯石の蓄積によって引き起こされ、歯肉の炎症が進むと歯周ポケットが形成されます。さらに歯周ポケット内の細菌感染が進行し、歯槽骨や歯根膜が破壊されます。この破壊が進むと、歯がぐらついたり、歯が抜けたりするリスクが高まります。

慢性剥離性歯肉炎の合併症

慢性剥離性歯肉炎を治療せずに放置すると、さまざまな合併症が生じるリスクがあります。具体的な合併症は、歯肉の痛み、歯周病、腫脹、歯の脱落などです。歯肉が剥がれることによって歯の支持組織が弱まり、歯がぐらついたり抜け落ちたりするおそれがあります。

慢性剥離性歯肉炎の検査・診断

慢性剥離性歯肉炎の診断は、口腔内検査歯肉の状態の評価によって行われます。また、歯肉の剥離や炎症の程度を確認するために、歯周ポケットの数値の測定や、X線検査も実施します。 さらに、剥離した歯肉の組織片を採取して病理検査を行い、上皮の菲薄化や潰瘍の形成、炎症の慢性化を示す所見などがみられると慢性剥離性歯肉炎と診断されます。

慢性剥離性歯肉炎の治療

慢性剥離性歯肉炎の主な治療法は歯科医師、歯科衛生士による徹底的なプラークコントロールです。また、ステロイド(副腎皮質ホルモン剤)や抗生剤の軟膏を局所塗布する対症療法を行います。重症の場合は、内科主治医と相談の上ステロイド(副腎皮質ホルモン)の全身投与が行われることもあります。また、対症療法で病変部がよくならない場合はその部分を切除し、上顎の歯肉を移植することもあります。

慢性剥離性歯肉炎と診断された患者さんが、慢性剥離性の合併症を防ぐためには、正しい治療と予防法が重要です。定期的な歯科検診や口腔衛生の維持、歯磨きやフロスの適切な使用などを心がけましょう。また、早い段階で歯周病や歯槽膿漏の治療を実施することも大切です。定期的に歯科や口腔外科を受診し、ケアを行うことで、合併症のリスクを最小限に抑えることができます

慢性剥離性歯肉炎になりやすい人・予防の方法

慢性剥離性歯肉炎は原因が明らかになっていないものの、下記に該当する人がかかりやすいといわれています。

  • 閉経前後の女性
  • 生理不順の女性
  • 金属やレジンなどの歯科材料によるアレルギーを発症している人
慢性剥離性歯肉炎を予防する方法として第一に挙げられるのが、正しい日々のブラッシングです。またフロスや、ワンタフトブラシといった歯の清掃補助器具を用いて口腔内を清潔な状態に保つことが重要です。

さらに、クロルヘキシジン等の洗口剤も慢性剥離性歯肉炎の予防に有効です。バランスのとれた食生活質の高い睡眠習慣を心がけることも慢性剥離性歯肉炎を予防します。特にビタミンCやビタミンD、カルシウムなどの栄養素を十分に摂取することで、歯肉の健康を保つことができます。過度のアルコール摂取や喫煙習慣は口腔内の状態に悪影響を及ぼすため、できるかぎり避けましょう。

更年期の女性は、定期的に口腔内の検査を受けることを推奨します。定期的な歯科医による口腔内の検査やクリーニングは慢性剥離性歯肉炎の早期発見に役立つとともに、症状の悪化を予防できます。

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参考文献

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