

監修歯科医師:
加藤 大地(歯科医師)
目次 -INDEX-
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の概要
急性壊死性潰瘍性歯肉炎は、通常は急性で痛みを伴い、急速に進行する歯肉の炎症です。適切な治療が行われなければ、短時間で限局性潰瘍性歯周炎へ進行します。急性壊死性潰瘍性歯肉炎は一般の歯肉炎とは進行や重症度が異なります。具体的には歯肉が壊死や潰瘍が生じます。前歯部で重症に進行するケースがあるものの、大臼歯や小臼歯にはほぼ症状がみられない、もしくは軽度であることも少なくありません。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎においては、アタッチメントロスと呼ばれる歯と歯肉の結合が失われた状態となり、症状が進むと歯周組織が壊死するため、プロービングデプス(歯周ポケット)が浅い状態になります。さらに症状が進むと歯肉の壊死が進行し、合併症が生じるリスクが高まります。したがって、急性壊死性潰瘍性歯肉炎は早期の診断と適切な治療が大変重要です。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の原因
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の原因は以下の2種類に大別できます。
局所的因子
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の主な局所的原因は下記の3点です。
- 口腔清掃不良
- 喫煙(タール生成物質による局所的な刺激)
- プラーク中にスピロヘータ、紡錘筋、P.intermediaが優勢である
局所的な急性壊死性潰瘍性歯肉炎の原因は口腔清掃不良や喫煙、ストレスにあるといわれています。口腔内の衛生状態が悪化すると、細菌が増殖しやすくなり感染症が発現するリスクが高くなります。また喫煙は口腔内に常在する細菌のバランスを乱し、免疫機能を低下させることがわかっています。ストレスも口腔内の免疫機能低下の一因です。
全身的因子
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の全身的因子は下記の通りです。
- 全身の健康状態不良、精神的ストレス、アルコール摂取
- 喫煙(交感神経刺激用物質としてのニコチン、走化性阻害毒として一酸化炭素CO)
- 年齢(主に15~30歳)
- 季節(9~10月、12~1月が好発とされている)
急性壊死性潰瘍性歯肉炎は細菌感染によるものが多いとされています。全身状態の不調による自己免疫の低下やホルモンバランスの乱れにより、感染が促進されます。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の前兆や初期症状について
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の前兆と初期症状、起こり得る合併症は下記の通りです。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の前兆や初期症状
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の代表的な初期症状は歯肉の痛みです。稀に発熱を伴う症状が起きるケースもあります。また、特有の甘い口臭も初期症状のひとつです。
口腔内の所見としては、2、3日以内に歯間乳頭が潰瘍のため失われる可能性があります。宿主抵抗性が改善したり、適切な治療を施すことで急性期が慢性の期間へと移行する可能性があります。
仮に治療しなかった場合、潰瘍性歯肉炎は高い再発率を示し、急速に潰瘍性歯周炎(浅いポケットでのアタッチメントロス)へ移行する可能性があります。また、歯肉の症状としては歯間部から壊死性の破壊が始まり、乳頭部の破壊に移行し、歯間乳頭全体そして歯肉辺縁まで進行してしまいます。
さらに進行したケースでは歯周支持組織である歯槽骨にまで病変が進行します。歯肉の炎症から歯周組織の炎症まで波及した場合には患歯の保存が困難となり、最悪抜歯に至るケースもあります。稀に窪んだ潰瘍が頬部、口唇、舌にも認められることがあります。
これらの症状がみられるときは速やかに歯科や口腔外科を受診しましょう。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の合併症
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の重篤な合併症の一つが骨の損傷です。急性壊死性潰瘍性歯肉炎の症状が悪化すると、細菌の感染が骨に広がり、骨組織の壊死につながるおそれがあります。骨組織が壊死すると、歯を支持する組織が弱くなり、最終的には歯を失うおそれがあります。
また、歯肉の損傷も注意すべき合併症です。急性壊死性潰瘍性歯肉炎による損傷や潰瘍は、歯肉の健康状態を悪化させます。そうすると、歯肉が退縮し歯の根元が露出することがあります。さらに、歯肉の損傷が進行すると歯の安定性に問題が生じます。
これらの合併症を予防するためには、早期発見と適切な治療が重要です。治療法のひとつとして、感染の拡大を防ぐために適切な抗生物質や抗炎症薬の投与を検討します。また、歯肉の損傷を最小限に抑えるために良好な口腔衛生状態を維持することも求められます。急性壊死性潰瘍性歯肉炎と診断されたら、歯ブラシやフロスによる口腔内の良好な衛生状態の維持、定期的な歯科検診などを欠かさないようにしましょう。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の検査・診断
急性壊死性潰瘍性歯肉炎が疑われる場合は、口腔内診査を実施します。口腔内診査においては、歯肉の状態を評価するために、歯科医師は口腔内の視察や触診を行います。さらに、CTスキャンやX線などの画像検査も行うケースも少なくありません。こういった診断方法により、急性壊死性潰瘍性歯肉炎の確定診断を行います。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の治療
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の具体的な治療方法は下記の通りです。
- 良好な口の衛生状態を保つ
- 専門的な口腔清掃
- 洗口液
- 抗菌薬
- 外科的手術
急性壊死性潰瘍性歯肉炎の治療法には、いくつかのアプローチがあります。まずは、歯科医師又は歯科衛生士による徹底的な口腔内清掃と含嗽剤を用いた洗口を行います。同時に自宅でのブラッシング、生活指導も実施します。
また、過酸化水素水溶液やクロルヘキシジンといった消毒液を用いて洗口を行うことで症状の改善をはかります。初期症状では接触痛が酷く、ブラッシングが困難になる場合が多いため、ブラッシングよりも洗口が推奨されています。痛みが落ち着いてくれば徐々に毛先の柔らかい歯ブラシを使用したり、清潔なガーゼで歯をぬぐったりします。
また、抗生物質(ペニシリン系、テトラサイクリン系など)の処方が行われることがあります。症状によっては歯肉の除去や洗浄を実施します。重症化しているケースでは、手術が必要となることもあります。
急性壊死性潰瘍性歯肉炎になりやすい人・予防の方法
急性壊死性潰瘍性歯肉炎になりやすい人は下記の通りです。
- 口腔衛生状態が悪化している人
- 喫煙者
- 全身の健康状態が悪い人
- アルコールを摂取する人
- 多大なストレスを感じている人
- 15歳から30歳の人
定期的な歯科検診と適切な口腔ケアを行うことで、この疾患を予防することができます。毎日の歯ブラシとデンタルフロスによる口腔内の清掃が効果的な予防法です。また定期的に歯科を受診し、歯石や歯垢の除去や歯肉の状態の確認することで急性壊死性潰瘍性歯肉炎を予防することができます。
関連する病気
- 壊死性潰瘍性歯周炎
- 口腔カンジダ症
- 全身感染症
- ビンセント狭窄咽頭炎
参考文献
- 急性壊死性潰瘍性歯肉炎(ANUG)の臨床.病理所見と治療法およびその経過について
- ザ・ペリオドントロジー 第4版 永木書店
- 歯周病の検査・診断・治療計画の指針
- 第3版 臨床歯周病学 医歯薬出版株式会社