歯肉膿瘍
松浦 京之介

監修歯科医師
松浦 京之介(歯科医師)

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歯科医師。2019年福岡歯科大学卒業。2020年広島大学病院研修修了。その後、静岡県や神奈川県、佐賀県の歯科医院で勤務。2023年医療法人高輪会にて勤務
。2024年合同会社House Call Agencyを起業。

歯肉膿瘍の概要

歯肉膿瘍は歯周病という病気に分類されます。代表的な病名は歯肉炎や歯周炎がありますが、その中でも歯周組織の膿瘍という分類にあたります。この分類の中には歯肉膿瘍と歯周膿瘍があり、今回説明するのは歯肉膿瘍です。歯肉膿瘍を学ぶにあたり、より理解を深めるために同じ分類である歯周膿瘍、似ている病名である歯槽膿瘍と比較しながら確認していきたいと思います。ちなみに歯周病は次のように分類されます。

  • 歯肉病変
    ⑴ プラーク性歯肉炎
    ⑵ 非プラーク性歯肉病変
    ⑶ 歯肉増殖
    a.薬物性歯肉増殖症 b.遺伝性歯肉線維腫症
    ⑷ HIV 感染に関連してみられる歯肉病変
  • 歯周炎(いずれも限局型,広汎型に分けられる)
    ⑴ 慢性歯周炎
    ⑵ 侵襲性歯周炎
    ⑶ 遺伝疾患に伴う歯周炎
  • 壊死性歯周疾患
    ⑴ 壊死性潰瘍性歯肉炎
    ⑵ 壊死性潰瘍性歯周炎
  • 歯周組織の膿瘍
    ⑴ 歯肉膿瘍
    ⑵ 歯周膿瘍
  • 歯周—歯内病変
  • >歯肉退縮
  • 咬合性外傷

膿瘍とは細菌感染を起こして膿がたまる炎症です。歯肉膿瘍は原因となる部位の付近の歯肉が狭い範囲で赤くなったり、腫れたり、痛みを伴うことが多い傾向にあります。また歯と歯肉の溝である歯周ポケットの有無にかかわらず生じます。

似ている病名として前述した歯周膿瘍歯槽膿瘍という病名があります。見た目も似ており判別することは難しい傾向にありますが、原因や治療法は大きく異なるため適切に検査を行う必要があります。
また気になるからといって自身の判断で潰したりしないようにしましょう。適切な処置を行わなければそこから再び細菌感染を起こしてしまうリスクがあります。

歯肉膿瘍の原因

歯肉膿瘍の原因は隣接する歯周ポケットからの細菌感染や歯肉に対する外部からの刺激歯肉への外傷や感染によるものです。主に食事の際に魚の骨や甲殻類の皮、ポップコーンの破片などが歯肉に刺さり、放置されることによって細菌感染を起こし歯肉膿瘍を形成することが多い傾向にあります。異物が入り込むことで生体反応を起こし、異物に対して炎症反応が引き起こされます。歯肉組織内に膿がたまることで歯肉膿瘍となります。

歯肉膿瘍の前兆や初期症状について

歯肉膿瘍では下記のような症状を認めます。

  • 発赤:原因の部位の付近がニキビ状に赤くなる
  • 腫脹:部分的に歯茎が腫れる
  • 疼痛:急性期に歯の付近に痛みを感じる

まず最初に歯肉の赤みがみられ、徐々に膿が形成されます。ここから狭い範囲で部分的に歯肉が腫れて、痛みも強くなっていきます。これらの症状は歯肉膿瘍では多く認められる症状ですが、口の中にできものが生じる病気はいくつかあり、単に見た目や症状だけで判断するのは困難です。ここで歯肉膿瘍と似ている疾患について説明します。

歯周膿瘍

前述した同じ分類の疾患です。歯周膿瘍は中等度から重度の歯周炎により生じます。原因となる歯の周りの組織破壊が歯肉膿瘍と比較して大きく、抜歯が必要になってしまうケースもあります。また歯肉膿瘍は浅い歯周ポケットに細菌が増殖して歯肉に潰瘍を作ることに対して、歯周膿瘍は深い歯周ポケットに細菌が増殖して、その周囲の組織に潰瘍を作ります。見た目は歯肉膿瘍とかなり似ているため視診だけでは判断がつきにくい傾向にあります。

歯槽膿瘍

歯周病の分類には明記されていない疾患です。実態としてはそもそも歯周病が原因ではなくむし歯が原因となります。むし歯治療を行わずに放置した結果根の先まで細菌感染し、できた膿瘍のことを歯槽膿瘍と言います。歯根膜と呼ばれる、歯と骨を支えるクッションの役割をしているコラーゲン線維の中に膿の通り道を作ることで、歯周膿瘍と同じような深い歯周ポケットを作ります。この状態が歯周膿瘍と類似した状態となり判断がつきにくい状態となります。

歯肉膿瘍の検査・診断

歯肉膿瘍の検査は主に問診、視診、歯周検査、エックス線画像検査などを行います。症状が似ている病気と鑑別して診断を出します。歯肉膿瘍で行われる検査は以下の通りです。

問診

歯肉膿瘍は魚の小骨や甲殻類の皮、ポップコーンの破片が歯肉に刺さり放置され炎症を起こすこともあるので、該当するものを食べたかどうかの確認などを行います。

視診

歯肉膿瘍は口内炎などの別の病気とは異なる所見をしているため肉眼での確認を行い、別の病気との鑑別を行います。

歯周精密検査

歯と歯茎の溝である歯周ポケットの深さをプローブと呼ばれる器具で計測します。歯根膜と呼ばれる組織の破壊の程度と炎症の程度に関して1つの歯ごとの診断を行います。歯肉膿瘍は浅い歯周ポケットでも起こるため、別の病気との鑑別を行うことができます。
前述の歯周膿瘍と歯槽膿瘍に関しては深い歯周ポケットを必ず形成するので、浅い歯周ポケットで似たような所見だと歯肉膿瘍の可能性が高くなる傾向にあります。

エックス線画像検査

歯にエックス線を照射して撮影します。部分的に撮影するデンタルエックス線画像と必要に応じて3次元的に撮影するコーンビームCTを用いて骨欠損形態や根尖病巣との関わりを診断します。歯周膿瘍と歯槽膿瘍は骨吸収を伴うことが多い傾向にありますが、歯肉膿瘍は歯肉結合組織に形成されるため骨欠損を伴わないことが多く、エックス線画像検査も必須の検査となります。

歯肉膿瘍の治療

歯肉膿瘍は細菌感染や外傷が歯肉の周囲や歯と歯の間の歯肉に限局していることから、魚の骨や異物が原因の場合は取り除きますが、口腔清掃に注意し経過観察をすることで通常は治癒します。また歯肉膿瘍に対しては、抗菌薬の歯周ポケット内投与の有効性を示す根拠が認められていないことから、抗菌薬のポケット内投与を行うことは推奨されていません。

歯周膿瘍は麻酔をして膿瘍の切開を行い、切開部からドレナージによる排膿を図り、病変部の軟組織を掻爬することが治療の第一選択となるので鑑別が重要となります。そして歯槽膿瘍はむし歯を放置して細菌が根の先にまで感染を波及させていることが原因なので、まず歯の神経や血管の通り道である根管の治療が第一選択となります。見た目が似ている3つの病気であっても治療方法が異なるので自分自身で判断せずに歯科医院を受診することが重要です。

歯肉膿瘍になりやすい人・予防の方法

歯周膿瘍や歯槽膿瘍がさまざまな条件下で発生することに対して、歯肉膿瘍の発生原因はシンプルな理由なので予防しやすい傾向にあります。食事の際に異物が刺さったり、挟まったりした後に放置されて細菌感染を起こすことのないよう、食後の清掃を心掛けることが歯肉膿瘍の予防に繋がるといえます。また自身で清掃をしていても歯ブラシでは上手く取れずに細菌感染を起こし歯肉膿瘍ができてしまうこともあるので、違和感があれば歯科医院を受診することをおすすめします。


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