唾液腺炎
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

唾液腺炎の概要

唾液腺炎とは、さまざまな原因によって唾液腺に炎症を起こす疾患です。原因により「アレルギー性」「ウイルス性」「細菌性」「自己免疫性」に分けられます。

唾液腺は唾液を作る組織で、「大唾液腺」と「小唾液腺」があります。大唾液腺にはさらに「舌下腺(ぜっかせん)」「顎下腺(がっかせん)」「耳下腺(じかせん)」があり、それぞれの組織で作られた唾液が管を通って口の中に送られます。一方の小唾液腺はのどや口の中の粘膜に存在し、口の中に直接唾液を分泌しています。

唾液腺炎を発症すると、唾液の分泌量が低下し、患部が腫れたり口の中に膿が出たりすることもあります。

唾液には、食べ物の消化を助ける働きのほか、口腔内の粘膜を常に湿らせて保護する、虫歯を防ぐなど、重要な役割がたくさんあります。そのため、唾液の分泌量が減少すると消化機能が低下するだけでなく、口腔内が乾燥し、免疫機能が低下したり、虫歯になりやすくなったりします。さらに乾燥で発声に支障が出るなど、生活上の悪影響が生じることもあります。

唾液腺炎の治療では、それぞれ発症原因に応じた治療がおこなわれます。

唾液腺炎の原因

唾液腺炎の原因の主なものとして、細菌やウイルスによる感染、唾石症(だせきしょう)、アレルギー性疾患、自己免疫疾患などが挙げられます。

細菌性の唾液腺炎では、唾液の分泌量が低下し、口の中の常在菌が唾液腺に侵入することで発症します。
唾液腺炎は、唾液の分泌量が低下する中高年期以降の人や、何らかの疾患によって慢性的に口の中が乾燥している人などが発症しやすいとされています。唾石症と呼ばれる唾液腺に結石ができる疾患によって発症することもあります。

ウイルス性の代表的なものはムンプスウイルス感染による「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」です。ムンプスウイルスは感染者の唾液に含まれ、空気感染や飛沫感染によって広がることがあります。

「アレルギー性鼻炎」や「アレルギー性皮膚炎」などのアレルギー性疾患の既往がある人では、唾液腺内に線維性の塊ができる「線維素性唾液管炎」を認めることもあります。

また、自己免疫疾患の「シェーグレン症候群」では、自己抗体によって唾液腺炎を発症します。

このほか、小児においては、明らかな原因がないにも関わらず唾液腺炎を繰り返す「若年性反復性耳下腺炎」を発症する可能性もあります。

唾液腺炎の前兆や初期症状について

唾液腺を発症すると、唾液腺の腫れ、痛みを自覚することが多いです。唾液腺を覆う皮膚がむくみ、赤くなることもあります。また、炎症を起こしている唾液腺を圧迫すると、口の中に膿が出ることもあります。

細菌感染によるものの場合、悪寒や発熱などの全身症状を伴うケースが見られます。

流行性耳下腺炎では、ムンプスウイルスに感染後2〜3週間の潜伏期間を経て発熱や頭痛、耳下腺の腫れなどの症状を認めます。ムンプスウイルスは唾液腺以外の組織を障害することもあり、症状が悪化すると、髄膜炎や卵巣炎、睾丸炎を併発するリスクも生じます。

シェーグレン症候群の患者さんでは、唾液腺が腫れるほか、口の中が極度に乾燥し、飲食や会話に支障をきたす例が知られています。

唾液腺炎の検査・診断

唾液腺炎の検査は、唾液腺炎の発症原因を特定することを目的としておこなわれます。症状に応じて画像検査や培養検査などが活用されます。超音波検査やCT、MRI検査などの画像検査は、唾液腺炎の腫れや唾液腺内の詰まりの有無などを調べたり、他の疾患と区別したりするためにおこなわれます。

唾液腺から膿が排出されている場合には、膿を培養して顕微鏡で観察し、原因となる病原体を特定するのに役立てます。

このほか、唾液腺の組織を一部採取し、顕微鏡で詳しく調べる「生検」がおこなわれることもあります。

唾液腺炎の治療

症状や原因に応じた治療がおこなわれます。

細菌性唾液腺炎で発症から間もない場合には、うがい薬などを使用して口腔内を清潔に保ち、抗菌薬を用いた薬物療法をおこないます。口の中の乾燥が強い場合や慢性化している場合には、人工唾液を用いることもあります。また、唾液腺に膿瘍ができている場合には、患部を切開して膿を排出する処置をおこなうケースもあります。

唾石症が原因で、唾石が大きく自然排出を期待できないような場合は、唾石の摘出手術も検討されます。

ウイルス性唾液腺炎では、全身を安静に保ち、解熱剤やうがい薬などを使用します。また、局所治療として患部に冷湿布などを使用することもあります。

アレルギー性唾液腺炎では、抗アレルギー薬のほか副腎皮質ステロイド薬などで、アレルギー反応を抑える治療がおこなわれます。

シェーグレン症候群などの自己免疫疾患には、根本治療が確立されていないものがあります。

唾液腺炎になりやすい人・予防の方法

唾液腺炎にはさまざまな原因が考えられ、唾液腺炎になりやすい人や予防方法は原因ごとに異なります。

もっともよく見られる細菌感染を原因とする唾液腺炎の場合は、口腔内の乾燥を防ぐことが発症予防につながると考えられています。水分をこまめに補給して口の中を潤すことや、よく噛んで食べるなど、唾液の分泌を促すような工夫が発症予防に有効です。

ムンプスウイルス感染の予防には、ワクチンが存在します。したがって、予防接種を受けることで感染リスクを下げることができるでしょう。

唾液腺炎の症状は患者自身では気がつきくいものもあります。とくに小児や高齢者などは定期的な診察を受けることは、予防や早期発見に有効と言えます。気になる症状があれば医療機関に早めに相談することで、早期発見と原因の鑑別に役立ちます。


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