

監修歯科医師:
石岡由理佳(歯科医師)
プロフィールをもっと見る
明海大学歯学部歯学科を卒業後、臨床研修医を経て埼玉県内の歯科医院に勤務。その後、東京医科歯科大学大学院生体補綴歯科学分野に入学し、博士号(歯学博士)取得。現在、東京と埼玉県内の歯科医院、病院に勤務。
目次 -INDEX-
エプーリスの概要
エプーリス(epulis)は歯肉に発生する良性の腫瘤性病変であり、一般的には「歯肉腫」とも呼ばれます。 この名称は、ギリシャ語の「ep」(上)と「ulis」(歯肉)に由来し、歯肉の上に形成されることを示しています。主に、慢性的な刺激や炎症に反応して発生するものです。肉芽腫性エプーリスや線維性エプーリス、末梢血管拡張性エプーリス、巨細胞性エプーリス、先天性や義歯による線維腫(裂状エプーリス)などのいくつかのタイプに分類されます。 主な原因は、機械的刺激や慢性的な炎症、ホルモンの影響などが考えられています。 通常、上顎前歯部や歯間乳頭部歯肉に好発し、20歳代から40歳代の女性にやや多く見られます。外観は、健康な歯肉から明瞭に区別される隆起した腫瘤として認識されます。大きさは一般的に大豆から鶏卵大まで様々で、表面は平滑または結節状であります。色調や硬さもさまざまで、肉芽腫性や血管腫性の場合は軟らかく赤みを帯びることが特徴です。 診断には病理検査が用いられ、ほかの腫瘍との鑑別が重要です。 治療法は外科的切除が基本であり、再発を防ぐためには発生基部(成長の元となる部分)を完全に除去する必要があります。また、妊娠性エプーリスについては出産後に自然消失することもあるため、その場合は経過観察が推奨されます。エプーリスの原因
主に歯肉に生じる良性の腫瘤であり、その原因は複数の要因が関与しています。1)機械的刺激
最も一般的な原因です。不適合な金属冠、ブリッジなどの補綴物(ほてつぶつ)などが歯肉に持続的な圧力や摩擦を与えることで、慢性的な炎症が引き起こされます。このような刺激は、歯肉の組織反応を誘発し、腫瘍性の増殖を促すことがあります。2)慢性炎症
慢性的な炎症も重要な要因です。残根(ざんこん:歯の頭部分(歯冠)がなくなり、根っこ(歯根)だけが残っている状態の歯)や歯石、歯肉縁(歯と歯肉の境目)炎などによって引き起こされる持続的な炎症は、エプーリスの形成を助長します。これらの状態は、歯肉組織に対する持続的な刺激となり、結果として腫瘤が形成されることがあります。3)ホルモンの影響
特に妊娠中の女性においては、女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)の変動がエプーリスの発生に寄与することが知られています。妊娠性エプーリスは、妊娠初期に見られることが多く、出産後には自然に縮小または消失することがあります。ホルモンバランスの変化が血管新生を促進し、腫瘤形成を助けると考えられています。4)先天的要因
新生児や幼児に見られる先天性エプーリスは、生まれつき存在する突起物として認めることがあります。この場合、特定の遺伝的または発育的要因が関与していると考えられています。エプーリスの前兆や初期症状について
成長が緩慢であるため、初期段階では気づかれにくいことがあります。通常、痛みを伴わないことが多く、初期段階では自覚症状がほとんどない場合が一般的です。しかし、大きくなるにつれて周囲の歯肉や歯に影響を及ぼす可能性があります。具体的には、歯肉の腫れ(エプーリスは歯肉に隆起した腫瘤)として現れることがあります。 最初は小さな突起物として認識されることが多く、大きさは小豆大から鶏卵大までさまざまです。また、色の変化もあります。 腫瘤の表面は通常、健康な歯肉とほぼ同じ色をしていますが、肉芽腫性や血管腫性のエプーリスの場合、赤みを帯びることがあります。特に血管性エプーリスでは、柔らかく出血しやすい特徴があります。また、表面の質感は、平滑であることが多いようですが、結節状や分葉状になることもあります。これにより見た目が気になる場合があります。腫瘤が大きくなることで、歯と接触し出血や潰瘍を形成することもあります。また、成長に伴い周囲の骨に圧迫を与え、歯の動揺を引き起こすこともあります。エプーリスの病院探し
歯科口腔外科の診療科がある病院やクリニックを受診して頂きます。肉芽腫「にくげしゅ」とは
炎症反応による病変で、異物や感染に対する防御機構として形成される特徴的な細胞集合体です。エプーリスの検査・診断
- 視診と触診 専門医が患者さんの口腔内を観察し、腫瘤の大きさ、形状、色、質感を確認します。エプーリスは通常、健康な歯肉から隆起しており、表面は平滑または結節状であることが多いようです。また、触診によって腫瘤の硬さや柔らかさも評価されます。これにより、悪性腫瘍や他の良性腫瘍との鑑別が行われます。
- 病理検査 視診と触診だけでは確定的な診断は難しいため、病理検査が行われることがあります。腫瘤の一部を切除し、顕微鏡で組織を観察します。病理検査によって、エプーリスの種類(肉芽腫性、線維性など)や悪性の可能性を評価します。特に、悪性腫瘍との鑑別が必要な場合には、この検査が重要です。
- 画像診断 必要に応じて、画像診断(X線撮影など)が行われることもあります。これにより、腫瘤の周囲の骨構造や歯根との関係を評価し、エプーリスがどの程度周囲組織に影響を与えているかを確認します。特に骨形成性エプーリスの場合には、この情報が重要です。
鑑別診断
- 口腔癌 悪性であり迅速な治療が必要です。
- 脂肪腫と線維腫 良性ですが異なる治療方針のため、鑑別が必要です。 【脂肪腫】 治療は基本的に手術による切除が行われますが、比較的小さな場合は局所麻酔での日帰り手術が可能です。再発のリスクは低く、完全に摘出すればほぼ治癒します。 【線維腫】 その硬さや発生部位によって切除方法が異なる場合があります。特に浸潤性のある線維腫の場合、周囲の正常組織も含めて切除する必要があり、手術が複雑になることがあります。また、再発する可能性も考慮しなければなりません。
- 歯肉炎や歯周病 慢性的な炎症による変化です。
エプーリスの治療
病変部位を切除することが基本です。単に腫瘤を切除するだけでは再発のリスクが高まるため、発生母地を含めた切除が重要です。腫瘤を含む周囲の歯肉や、必要に応じて歯槽骨の一部も切除します。これにより、腫瘤の再発を防ぐことができます。また、エプーリスが再発した場合、特に根本的な原因が解消されていない場合には、抜歯が必要になることがあります。これは、エプーリスが歯根膜や歯槽骨膜から発生することがあるため、完全な摘出を行うことで再発リスクを低下させます。 妊娠中に発生する妊娠性エプーリスは、出産後に自然に縮小または消失することが多いため、経過観察が推奨されます。この場合、無理に手術を行わず、定期的なチェックを行うことが重要です。エプーリスになりやすい人・予防の方法
妊娠中はホルモンバランスが変化し、特にエストロゲンやプロゲステロンが増加します。これにより、歯肉の血流が増加し、腫瘤が形成されやすくなります。また、20代から30代の女性もエプーリスにかかりやすい傾向があります。これは、女性ホルモンの影響を受けやすいためです。さらに、不適合な補綴物や歯石が慢性的に存在する場合、歯肉が刺激を受けてエプーリスが発生することがあります。このため、口腔内の衛生状態が悪化している人もリスクが高まります。 予防には、定期的な歯磨きとデンタルフロスの使用を心掛け、口腔内を清潔に保つことが重要です。また、歯科医院で定期的に歯のクリーニングやチェックを受けることが推奨されます。これにより、歯石やプラークを取り除き、炎症を未然に防ぐことができます。さらに、不適合な詰め物や冠は刺激となるため、自分に合った補綴物を使用し、不具合があれば早めに歯科受診することが重要です。 妊娠を計画している場合は、事前に口腔内の健康状態を整えておくことが望ましいです。特に歯周病治療を行うことで、妊娠中のリスクを減らすことができます。関連する病気
- 歯肉線維腫(Fibroma)
- 歯周病
- 口腔扁平苔癬(Oral Lichen Planus)
- 妊娠性歯肉腫(Pregnancy Tumor)
- 口腔良性腫瘍(Benign Oral Tumors)




