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埋伏歯
加藤 大地

監修歯科医師
加藤 大地(歯科医師)

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東京歯科大学卒業。日本歯科大学附属病院研修修了。都内歯科医院勤務。現在は医療法人かとう歯科勤務。日本口腔インプラント学会、日本臨床歯周病学会、近未来オステオインプラント学会、保田矯正塾。

埋伏歯の概要

埋伏歯(まいふくし)とは、歯茎の下や顎の骨の中に埋まった状態の歯のことです。生えるべき時期を過ぎても出てこない歯である場合や、本来ないはずの歯が作られて埋まっている場合があります。 また、1本だけ埋伏していることも、同時に数本以上埋伏していることもあります。歯の頭の部分(歯冠:しかん)が完全に隠れていれば完全埋伏歯、一部が出ていれば不完全埋伏歯または半埋伏歯と呼びます。

埋伏歯によって起きるかもしれない問題は、以下のようなものです。

  • 歯列不正
  • 歯周病、むし歯(不完全埋伏歯の場合)
  • 隣り合う歯の歯根の吸収、動揺、歯髄炎など
  • 神経の圧迫による痛み

まれに埋伏歯から嚢胞や腫瘍ができることもあり、大きくなると顎の骨を溶かしたり、神経を圧迫したりする可能性があります。

埋伏歯になりやすい歯とは

歯の埋伏は、乳歯よりも永久歯で起きやすいトラブルです。生えてくるのが遅い歯ほど、スペース不足により異常を起こす可能性が高くなります。

埋伏歯になりやすい歯は以下のとおりです。

  • 智歯(親知らず)
  • 上の犬歯(糸切り歯)
  • 正中過剰歯(上顎の中央にできることのある余分な歯)

6歳頃から12歳前後にかけての永久歯に生え変わる時期と、20歳前後の親知らずが生える時期にトラブルが起きやすいです。

埋伏歯の原因

さまざまな原因がありますが、一番の原因は歯が生えるスペースの不足です。ほかに歯そのものの異常や、生えるのを妨げる要因がある場合もあります。

歯が生えるスペースの不足

乳歯の時期には前歯同士に隙間があるのが正常ですが、隙間が詰まっている場合は顎が小さいかもしれません。すると永久歯が生えるスペースが足りず、後続永久歯が埋伏歯となる可能性があります。大人になってからも、歯の生える隙間がなく、出てこなかったり斜めに生えたりするケースがあります。

ほかには、けがやむし歯といった事情で乳歯が早く抜けてしまった場合にも、隣の歯が寄ってきてスペースが狭くなりがちです。

歯そのものの異常

歯の種である歯胚位置や向きがずれていると、正しい向きに生えられないことがあります。 歯が作られる過程で何らかの異常が起き、埋伏の原因となることもあります。

歯が生えるのを妨げる要因

歯が生える方向に以下の要因があると、歯が生えるのが障害される場合があります。

  • 粘膜が厚くなっている
  • 部分的に骨が硬くなっている
  • 嚢胞や腫瘍がある

顎の骨に関連する原因も考えられます。

  • 顎の骨が硬くなる病気(硬化性顎炎、骨大理石病など)
  • 歯が顎の骨と癒着している
  • 顎の骨に外傷を負った

埋伏歯の前兆や初期症状について

埋伏歯に気付く症状について説明します。

完全埋伏歯の症状

完全埋伏歯の場合は、一般的に不快な症状はあまり出ません。歯科検診時にレントゲンで偶発的に判明する場合が一番多いです。しかし周囲の歯や神経との位置関係によっては、痛み歯のぐらつきが起きることもあります。

状況によっては周囲の歯が生えるのを邪魔してしまい、歯並びが悪くなります。例えば上の前歯が生え替わった後、しばらくしても真ん中の隙間が開いたままの場合、正中過剰歯が埋まっていることが原因かもしれません。

不完全埋伏歯の症状

不完全埋伏歯は歯茎から頭が出ているため、舌で触ったり鏡で見たりして気がつくこともあるでしょう。また、歯磨きが難しい場合も多いことから、歯茎の腫脹を自覚する場合が多いです。

特に親知らずが半端に頭を出していると手入れしづらく、歯肉に炎症が起きて、腫れや痛みが生じるケースも少なくありません。放っておくと周囲の組織へ炎症が広がり、顔が腫れたり、口を開けにくくなったりすることもあります。このような親知らず周囲の症状を智歯周囲炎といい、20歳前後の若い人に好発します。

埋伏歯の受診先

埋伏歯かもしれないと思ったら歯科医院を受診しましょう。お子さんなら小児歯科専門医を探すのもおすすめです。 診察の結果、必要に応じて歯列矯正に対応できる歯科医院口腔外科を紹介されることがあります。

埋伏歯の検査・診断

埋伏歯の診断には、口の中の診察パノラマX線検査を行います。状況によりCT検査血液検査も併用します。

口の中の診察

視診や触診により、歯の状態を確認します。不完全埋伏歯であれば、歯茎から頭が出ていることを確認可能です。完全埋伏歯も、歯茎や歯並びの様子から推定できることがあります。

パノラマX線検査

歯並び全体を撮影できるパノラマX線というレントゲン検査を行います。この検査で確認できるのは、歯の数と位置、向き、歯同士の位置関係などです。 先天的に歯が欠如しているケースもあるため、生えてこないというだけで埋伏歯とは判断できません。また、正しい数の歯が生えてきていても、そばに過剰な歯が埋まっていることで歯並びに影響するケースもあります。 また、症状がなくても、埋伏歯が隣の歯に接触して悪影響を及ぼしているかもしれません。いずれの場合も、パノラマX線を撮ることで状況がわかります。

CT検査

CT検査では、歯同士や神経との位置関係を、3次元で詳細に確認できます。一般的なCTは横たわって撮影しますが、歯科に特化したCTは座った姿勢で撮影可能です。

血液検査

感染が起きている場合は、血液検査で炎症の程度を確認することもあります。歯から始まった感染症が全身に広がるケースもあり、このような場合は特に血液検査が大切です。

埋伏歯の治療

埋伏歯を有効利用できる場合は、外科処置と歯列矯正によって、歯列内へ出てくるよう誘導します。 埋伏歯が周囲の歯や骨に悪影響を与えている場合や、与える恐れがある場合は抜歯を検討します。すでに炎症が起きている場合は、通常は炎症を治めることを優先します。 特に悪さをしておらず、今後も起こす可能性が低いと思われる完全埋伏歯は、そのまま経過観察することも可能です。

歯列内への誘導

歯列内へ誘導する場合は、まず誘導先のスペースの確保が必要です。周囲の歯が寄ってきている場合は歯列矯正、維持が難しい歯によって場所が塞がれていれば抜歯など、状況に合わせた方法でスペースを作ります。 スペースが確保できれば外科的処置を行い、埋伏歯を覆う歯肉を切開します。そして、埋伏歯に矯正器具を取り付けて力を加え、歯列内に誘導していきます。 歯列矯正は一般的には自費診療ですが、前歯および小臼歯の永久歯が3本以上生えてこない場合に、外科的切開を伴って実施した場合は保険適用となります。

抜歯

埋伏歯の向きや位置によっては、周囲の歯や骨に悪影響を及ぼします。 横向きに埋まっていて、歯冠が隣の歯の歯根を押している場合は、押された歯根が徐々に溶けてしまいます。歯並びを悪くする原因となっているケースもあります。 このように悪影響がある埋伏歯は、抜歯を検討します。

埋伏している親知らずを抜く場合も、なるべく早めがおすすめです。若い人の方が、歯の根が完成していない、骨がやわらかいといった理由で抜きやすく、抜いた後のきずの治りも早い傾向があります。 特に半端に頭を出している親知らずは、清掃しづらく、歯肉炎やむし歯の原因となりやすいです。むし歯になってから抜くよりも、なる前の方が抜きやすい傾向があります。

投薬治療

埋伏歯によって炎症が起きている場合は、抜歯や外科処置の前に、抗生剤や消炎鎮痛剤で炎症をしずめます。炎症の広がり具合によっては、抗生剤の点滴を行う場合もあります。

経過観察

悪影響の出ていない完全埋伏歯は、経過観察が可能です。定期的に歯科を受診し、状態を確認してもらいましょう。

歯牙移植

埋伏歯の治療ではありませんが、虫歯などの理由から抜歯となってしまった箇所に、親知らずや埋伏歯を移植する歯牙移植というものもあります。移植した歯は、再度機能させることができます。

埋伏歯になりやすい人・予防の方法

埋伏歯になりやすい傾向があるのは、顎が小さい人です。子どもの頃からよく噛んで食べる習慣をつけることで、顎の発達が促され、埋伏歯の予防につながります。

一方で、顎の大きさ以外の要因でも埋伏歯は起き、その予防は困難です。可能であれば永久歯への生え替わりが始まる7〜9歳を目安に、パノラマX線検査を受けて歯の状態を確認しましょう。

20歳前後以降には、親知らずによるトラブルが起きる場合があります。生え方によっては歯ブラシでの手入れが難しいかもしれません。腫れや痛みに気付いたら、早めに歯科を受診してください。

関連する病気

  • 歯根嚢胞(Radicular Cyst)
  • 顎の嚢胞(Jaw Cysts)
  • 歯肉炎(Gingivitis)
  • 感染(Pericoronitis)

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