目次 -INDEX-

歯周炎
加藤 大地

監修歯科医師
加藤 大地(歯科医師)

プロフィールをもっと見る
東京歯科大学卒業。日本歯科大学附属病院研修修了。都内歯科医院勤務。現在は医療法人かとう歯科勤務。日本口腔インプラント学会、日本臨床歯周病学会、近未来オステオインプラント学会、保田矯正塾。

歯周炎の概要

歯周炎とは歯周病の1つで、歯周病原因細菌の感染によって引き起こされる炎症性疾患です。歯肉炎が悪化して歯を支える歯ぐき(歯肉)や骨(歯槽骨)が壊されていき、最後には歯が抜け落ちてしまう病気を歯周炎といいます。

令和4年歯科疾患実態調査の概要」によると、歯肉に出血がある人の割合は、加齢とともに増加したり減少したりするような一貫した傾向は認められませんでした。 また、4mm以上の歯周ポケットを持つ者の割合は、高齢になるにつれて増加傾向でした。75歳以上の年齢階級で前回調査(平成28(2016)年)と比較して増加しています。

歯周病の症状に日々の生活習慣が関わっているため、生活習慣病の1つに数えられています。

歯周炎の原因

歯周炎の原因として、以下の4種類の要因があります。

  • 局所要因 細菌、歯や歯列、う歯、口腔清掃状態、修復物、唾液分泌量など
  • 全身的因子 内分泌の変化(妊娠、生理など)、栄養状態(ビタミンの欠乏など)、血液疾患(白血病など)、代謝障害(糖尿病など)、服用薬剤の影響(抗てんかん剤など)
  • 生活習慣因子 食習慣、アルコール、タバコなど
  • 社会心理因子 さまざまなストレス因子、ストレスに対する不適応が免疫・炎症・回復機能を損なうためです

歯周炎の直接の原因は、歯の周囲に付着した汚れ(プラーク)です。歯と歯肉の境目(歯肉溝、歯周ポケット)の不衛生な状態が続くと、そこに多くの細菌が停滞して(歯垢の蓄積)、歯肉が炎症で赤くなったり、腫れたりします。

歯肉は身体の中でもとても敏感な組織で、口の中は全身の中でも微生物や細菌などが多く存在している場所です。 近年の研究により、呼吸器系疾患、心疾患、糖尿病や妊娠など多くの全身疾患と歯周炎との相互的な関連が判明してきました。 重症化して、口の中に歯周病原因細菌が多くなると、血液や呼吸器内に菌が入り、心筋梗塞・動脈硬化症・誤嚥性肺炎・早産などを引き起こしやすくなります。

歯周炎の前兆や初期症状について

歯周炎の早期から現れる症状の一つに、歯と歯肉との間にある隙間(歯周ポケット)が、歯肉が腫れることにより深くなる場合があります。この時点では、多くの場合痛みを伴うことはないといわれています。 歯肉溝は歯周組織の破壊が進行し、歯周ポケットがふかくなると、歯を支える土台(歯槽骨)が溶けて歯が動くようになり、ひどい場合は歯が自然脱落することもあります。 歯周炎が疑われる場合は早めに歯科を受診しましょう。

歯周炎の検査・診断

歯周炎の検査には主に以下の3種類があります。

  • プロービング検査
  • エックス線検査
  • プラークの付着率の検査

その他の歯周病の検査には「歯肉からの出血の程度を調べる検査(出血指数)」、「歯の揺れを調べる検査(動揺度検査)」、「歯周病原菌についての細菌検査」などがあります。 今回は主となる3種類について解説します。

プロービング検査

プロービング検査とは、歯周炎の基本的な検査の一つです。検査内容は歯肉の入り口から隙間の底の部分までの距離を測定して重症度の判定に用います。歯周ポケットは一般には深くなるほど歯周炎の程度が進んでいるといわれています。

歯と歯肉の隙間(歯周ポケット)は、歯周炎のない健康な歯肉では1~3mm程度です。しかし、歯周炎に罹った歯肉では4mmを超える深さで、重症の患者さんでは6mmを超えてプローブが入ることもあります。

測定には目盛りのあるプローブ(探針:針状の金属製の器材)を歯と歯肉の隙間にそっと差し込みますが、25g程度の軽い圧しか加えないため、痛みが少ないといわれています。ただし、炎症の強い部位は痛みや出血を伴います。

エックス線検査

エックス線検査は、歯槽骨の溶けてなくなった範囲や程度を評価するために最も効果的な検査です。また、近年ではCTを用いた3次元的な画像診断を行います。 歯周病が進むと、歯を支えている歯槽骨が溶けてくるので、歯肉の下に隠れている歯槽骨の高さを調べることも必要です。 エックス線検査は放射線被曝が気になる人もいるでしょう。しかし歯のエックス線撮影の被曝量は、日常生活で自然界から浴びる1年分の自然放射線の数十から数百分の1程度とされています。

プラーク付着率の検査

プラークの付着率は、治療に対する歯肉の炎症の改善しやすさや治療が終了した後の歯周病の再発などの指標として用いることが可能です。 プラークの付着量は、染色液を使って染め出してから軽くうがいをしてもらい、付着している部位がわかるようにします。そして、肉眼で確認してプラーク付着率を記録します。

歯周炎の治療

歯周炎の治療には主に「歯周基本治療」、「歯周外科治療」の2種類があります。それぞれ解説します。

歯周基本治療

初めに行われるべき治療が歯周基本治療です。原因である歯垢(プラーク)の除去および歯石の除去、歯根の表面の滑択化(滑らかにすること)、ぐらぐらする歯のかみ合わせの調整などを行います。また、歯周治療を行う上で障害となる不良補綴物(不適合な銀歯など)を除去したり、今後の予後が悪いと予想される歯はこの時点で抜歯をする場合もあります。かみ合わせの調整はぐらぐらする歯だけではなく不適切な咬合干渉を起こしている歯が対象となります。 歯周基本治療の内容は以下の3種類です。

  • プラークコントロール 歯磨きが主となり、歯垢の除去を行います。除去が不十分な場合、歯科医院で器械的に除去することもあります。
  • スケーリング 歯や歯根の表面に付着した歯垢や歯石を、スケーラーと呼ばれる器具で取り除くことです。
  • ルートプレーニング 歯根の表面のざらつきや、歯石、毒素や微生物で汚染された表層を滑沢にして除去する方法です。多くの場合スケーリングと同時に行われます。

以上の基本治療により、歯周組織が改善され、歯周ポケットの深さが基準値(2~3mm)を維持できれば、メンテナンス(定期検診)に移行します。

歯周外科治療

歯周外科治療を行うのは、歯周基本治療を行ったにもかかわらず改善しなかった場合です。 具体的に、外科治療の対象には以下のような例があります。

  • 一部歯周ポケットの深さが改善されない
  • 歯周ポケット内の細菌や汚れをブラッシングで除去できない状態
  • 歯周炎の改善が見込めない

改善しなかった場合の外科的治療にはフラップ手術があります。歯肉を切開剥離することで、深い位置に付着した歯石や炎症性の肉芽組織を肉眼で確認できます。 それら感染組織を徹底的に掻爬し歯肉を縫い合わせて歯周ポケットの深さを減少させる手術です。

また特殊な材料を使用して、部分的に失われた骨を再生させる手術(再生療法)を行う場合もあります。 歯科医がそれぞれの病態にあった歯周外科治療を行い、歯周ポケットの深さが改善されれば、メンテナンスに移行します。

歯周炎になりやすい人・予防の方法

歯周炎の主な原因は歯垢である為、歯垢がたまっている人、歯垢が増えている人は歯周炎になりやすいです。 歯周炎の予防は、正しい方法で毎日歯を磨きましょう。歯と表面、特に歯と歯ぐき(歯肉)の境界を、歯垢のない清潔な状態に保つことが最も大切です。炎症を引き起こす細菌を徹底的に除去する必要があります。 歯石ができて歯肉溝の中にまである場合、歯石を完全に取り除いて、歯根の表面を滑らかにしましょう。しかし、これは自分で行うことはできないので、定期的に歯科を受診し、歯科衛生士による専門的なクリーニングを受ける必要があります。

関連する病気

  • 糖尿病(Diabetes Mellitus)
  • 心血管疾患(Cardiovascular Disease)
  • 妊娠中の合併症(Pregnancy Complications)
  • 呼吸器疾患(Respiratory Diseases)

この記事の監修歯科医師