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舌がん
高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

舌がんの概要

舌がんは、口腔内に発生する悪性腫瘍です。
舌は、摂食、発声、および味覚という重要な機能を担っています。特に食べ物を咀嚼して飲み込みやすい形に整えること、また発声時に舌を使って言葉を正確に発音することに大きく関与しています。舌癌は、進行すると口腔機能に大きな影響を与え、摂食や発声の障害が現れることが多いです。このため、患者さんの生活の質(QOL)が著しく低下し、社会的な活動にも制限が生じます。舌の前方2/3に発生する舌前癌と、舌根部に発生する舌根癌に分類されます。舌癌の進行は、リンパ節転移や遠隔転移を伴うことがあり、特に頭頸部のリンパ節への転移が多い傾向にあります。部位ごとに治療方法が異なり、特に転移の有無は治療方法に大きな影響を及ぼすため、早期の診断が重要です。

舌がんの原因

舌がんの発症にはいくつかのリスク因子が関与しており、その多くは生活習慣に起因しています。具体的な原因としては以下のようなものが挙げられます。予防可能なものが多く、口腔内の状態を清潔に保つことが重要と言えます。

喫煙

喫煙は口腔内における主要なリスク因子です。タバコの煙に含まれる発癌性物質が舌の粘膜に直接的に作用し、長期間にわたって細胞のDNAに損傷を与えることで癌化が促進されます。さらに、喫煙者は口腔粘膜の防御機構が低下し、炎症が慢性化するため、発癌リスクが高まります。

過度の飲酒

アルコール摂取も舌癌のリスク因子の一つです。特に、アルコールと喫煙の併用は、発癌リスクを相乗的に増加させることが知られています。アルコールは口腔粘膜の透過性を高め、発癌性物質の吸収を助長するため、舌癌の発症に寄与します。

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染

HPV感染が頭頸部癌の発生に関与していることが報告されています。特に、口腔内や咽頭部のHPV関連癌が増加傾向にあり、これらの患者さんは従来のリスク因子を持たないことが多いです。舌がんとしては舌根部に発生すると言われています。HPV感染による癌は、通常の扁平上皮癌よりも治療成績が良いとされていますが、発見が遅れることが多いです

口腔内の不適切な衛生状態

口腔内の清潔を保たないことも舌癌のリスクを高めます。歯垢や歯石の蓄積、義歯の不適合による慢性的な粘膜刺激が舌の細胞に負荷をかけ、発癌の誘因となる可能性があります。

舌がんの前兆や初期症状について

舌がんは早期に発見することで、治療の選択肢が広がり、治療成績の向上が期待されます。早期は無症状であることが多いですが、いくつかの前兆や初期症状がみられることもあります。これらの症状を見逃さず、適切な検査を受けることが重要です。
口腔内の潰瘍
2週間以上治らない潰瘍は、癌の兆候である可能性があります。
白斑や赤斑
口腔内の白色や赤色の斑点が長期間存在する場合は、癌前病変の可能性があります。
しこりや硬さ
舌の一部が硬くなったり、しこりができたりすることがあります。
痛みや違和感
食事や会話時に舌や口腔内に痛みがある場合は、舌癌の可能性が考えられます。

上記のような症状が現れた場合は、耳鼻咽喉科や歯科を受診しましょう。

舌がんの検査・診断

舌がんの診断には、治療方針を決定するために必要なさまざまな検査が行われます。以下は、その代表的な検査方法です。

視診と触診

目視および触診により口腔内の異常を確認します。口腔内全体を診察し、潰瘍や白斑、硬結などの有無や部位、範囲を確認します。ただし、視診のみでは早期の微細な癌の検出が難しい場合や病変の範囲を正確に把握するために他の検査方法を追加する必要があります。

組織生検

疑わしい病変の組織を採取し、病理検査によって癌細胞の有無を確認します。局所麻酔下で病変部から組織を切り取り、顕微鏡で評価します。病変が深部にある場合、表面の異常のみでは診断が困難な場合があります。

リンパ節の評価

舌がんはリンパ節転移が多いため、頸部リンパ節への転移の有無を確認する必要があります。視診や触診に加え、以下の超音波検査やCT、MRIなどの画像検査も用いて確認します。リンパ節転移が認められた場合、治療方針が大きく変わるため、早期の正確な評価が必要です。
舌がんの広がりや転移の有無を正確に評価するためにさまざまな画像検査が行われます。これらの検査は、治療方針を決定する上で非常に重要です。

超音波検査(エコー)

目的
頸部リンパ節の腫大や転移の有無を確認するために使用します。
方法
首に超音波を当て、内部の組織やリンパ節の状態をリアルタイムで評価します。痛みがなく、放射線を使わないため、負担が少ないことが特徴です。

CT(コンピュータ断層撮影)

目的
舌や周囲組織の詳細な評価が可能で、腫瘍の大きさや周囲臓器への浸潤を評価可能です。
方法
X線を用いて多方向から撮影し、コンピュータ処理によって断層画像を作成します。全身の病変の状態を一度の検査で把握することが可能で、骨や軟部組織の関係を明確に捉えるのに有効です。

MRI(磁気共鳴画像)

目的
舌がんの周囲の軟部組織やリンパ節への浸潤を精密に評価するために使用します。
方法
強力な磁場と電波を使って、体内の水分子の動きを捉え、詳細な画像を得ます。CTに比べて、軟部組織の描写が優れているため、舌がんの浸潤度の評価に有用です。検査時間がやや長く、狭いところで検査を行う必要があるので、閉所恐怖症の患者さんには苦痛なことがあります。

PET(陽電子放出断層撮影)

目的
特殊な薬剤を投与し、全身の転移の有無を判定することが目的です。
方法
がん細胞に取り込まれる性質を持つ放射性物質を注射し、画像を作成します。全身の評価が可能で、ほかの画像検査では見逃しやすい小さな転移も検出できますが、やや高価なことと検査に半日程度かかる場合があります。

治療方針の決定に必要なその他の検査

血液検査
全身状態や感染症の有無、肝機能・腎機能の確認。特に手術や化学療法の実施にあたって重要。
心電図・胸部X線
手術に伴うリスクを評価するために心肺機能を確認。特に高齢者や持病のある患者では重要。

これらの検査結果を基に、患者さんの全身状態や癌の進行度、転移の有無に応じて治療方針が決定されます。

舌がんの治療

舌がんの治療は癌の進行度、患者さんの全身状態、癌の広がりによって決定されます。初期は局所的な治療が主ですが、進行癌では複数の治療法を組み合わせて行います。

主な治療方法

外科的切除

目的
癌を物理的に切除し、再発を防ぎます。
方法
初期の癌では、舌の一部を切除。進行した癌では、舌の大部分や周囲組織を切除し、必要に応じて再建手術を行います。舌の切除範囲が広い場合、摂食や発声機能に影響が出る可能性があり、機能回復のためのリハビリが必要になります。

放射線治療

目的
癌細胞を破壊し、腫瘍の縮小や再発予防を図ります。
方法
外部から高エネルギーの放射線を照射し、癌組織にダメージを与えます。正常組織への放射線被曝を最小限に抑えるため、照射範囲や強度を慎重に調整する必要があります。近年では強度変調放射線治療(IMRT)と呼ばれる高精度な照射技術が広まっており、有害事象を減らすことができるとされています。

化学療法

目的
全身に広がった癌細胞を標的とし、腫瘍の縮小や進行を抑えます。
方法
シスプラチンやフルオロウラシル(5-FU)などの抗癌剤を静脈注射で投与します。副作用として免疫力低下や吐き気、脱毛が起こることがあるため、患者さんの体力や全身状態を考慮して投与計画を立てます。

舌がんになりやすい人・予防の方法

リスクが高い人は、長期にわたって喫煙や飲酒をしている人、HPV感染がある人、または口腔内の衛生状態が悪い人が挙げられます。
予防としては、禁煙や節酒、口腔内の清潔を保つことが重要です。また、定期的な歯科検診や口腔内のセルフチェックを行い、早期の異常を見逃さないことが舌癌だけでなく、その他の口腔内疾患や生活習慣病の予防にも寄与します。


関連する病気

  • 頭頸部がん
  • 口腔扁平苔癬(Oral Lichen Planus)
  • ヒトパピローマウイルス(HPV)関連がん
  • 口腔白板症(Oral Leukoplakia)
  • 喫煙・飲酒関連疾患

参考文献

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