監修医師:
山下 正勝(医師)
保有免許・資格
歯科医師
日本外科学会 外科専門医
緩和ケア研修修了
JATEC(外傷初期診療ガイドライン)コース修了
NST医師・歯科医師教育セミナー修了
嚥下機能評価研修修了
智歯周囲炎の概要
智歯周囲炎(ちししゅういえん)は、口腔内の炎症性疾患であり、智歯(親知らず)の周囲に炎症が生じることで発生します。智歯が完全に生えきらず、部分的に歯肉に覆われた状態で留まることで、その周囲に食べかすや細菌が溜まりやすくなり、炎症を引き起こします。10歳代後半から萌出の終了す ると考えられる30歳代までが好発年齢とされますが、そのほかの年代においても発症することがあります。
症状としては、局所的な痛み、腫れ、発赤、開口障害などがあり、ほかにも発熱や倦怠感などの全身症状を伴うこともあります。治療法としては、抗生物質の投与や洗浄などの保存的治療が行われますが、再発を防ぐためには智歯の抜歯が必要となることが多いです。
予防法としては、日常的に口腔ケアを行い、定期的に歯科検診を受けることが重要です。また、智歯の萌出状態を早期に把握し、必要に応じて予防的な抜歯を検討することも有効な対策となります。
智歯周囲炎は適切な処置を行えば比較的速やかに改善しますが、放置すると重症化する可能性があるため、症状が現れた際には迅速に歯科医院を受診するのが望ましいです。
智歯周囲炎の原因
智歯(親知らず)は口腔の最後部に位置するため十分なスペースがなく、部分的に萌出(歯が生えること)したり、歯肉内に埋没したりします。これにより、歯と歯肉の間に小さな空間が生じ、食べ物の破片や細菌が溜まることで智歯周囲炎が発症しやすくなります。
通常の歯ブラシでは、この領域を適切に清掃することが困難なため、細菌が増殖し、炎症を引き起こします。また、上顎の智歯が下顎の歯肉を刺激したり、噛み合わせの問題で頬の内側を傷つけたりすることも、炎症の原因となります。さらに、智歯の萌出過程で歯肉が腫れ、周囲の組織を圧迫することも炎症を悪化させる要因です。
個人の口腔衛生習慣、免疫系の状態、ストレスレベルなども智歯周囲炎の発症や進行に影響を与えます。適切な口腔ケアや定期的な歯科検診を行うことで、予防または早期発見につながります。重症化すると、顔面の腫れや発熱などの全身症状を引き起こす可能性があるため、早期の対応が重要です。
智歯周囲炎の前兆や初期症状について
智歯周囲炎の前兆や初期症状は、多くの場合徐々に現れ始めます。
奥歯の周りのわずかな不快感や違和感を最初に感じることが多いです。この段階では痛みはあまりなく、多くの人が見過ごしてしまいます。
次第に、歯肉の腫れや赤みが現れ始め、特に智歯周辺が腫れて、触ると柔らかい感触です。口を大きく開けたり閉じたりする際に、軽い痛みや不快感を感じ始めることもあります。
また、口臭が強くなったり、口の中に異常な味がするという症状も現れることがあります。これは、炎症部位で細菌が増殖していることが原因です。さらに、頬の内側や顎の下に軽いしこりを感じることもあり、リンパ節の腫れによる症状も現れます。
初期段階では、軽度の発熱や全身のだるさを伴うこともあります。これらの症状は軽いため見過ごされやすいですが、智歯周囲炎の進行を示す重要なサインです。早期に歯科医院を受診し、適切な処置を受けることが重要です。
これらの症状が進行すると、激しい痛みや開口障害など、より深刻な症状へと発展する可能性があります。
智歯周囲炎の検査・診断
智歯周囲炎の検査・診断は、主に問診と視診、触診、X線検査など総合的な検査を行います。
患者の症状や経過について詳しく聞き取り、痛みの程度や持続時間、腫れの有無、開口障害の有無などの情報を収集します。そして、口腔内を直接観察する視診を行い、智歯周囲の歯肉の発赤や腫脹、膿の有無、智歯の萌出状態などを確認します。
触診では、顎下リンパ節の腫脹や圧痛の有無、また智歯周囲の腫脹や圧痛の確認が必要です。
X線検査は智歯の位置や向き、周囲の骨の状態を把握するために不可欠です。パノラマX線写真やデンタルX線写真を用いて、智歯の埋伏状態や周囲組織との関係を詳細に観察します。必要に応じてCT検査を行い、より精密な評価を行うこともあります。
これらの検査結果を総合的に判断し、智歯周囲炎の確定診断となります。同時に、智歯周囲炎の原因となっている要因(例:半埋伏智歯、食物残渣の停滞、口腔衛生状態の悪化など)も特定し、症状の程度や原因に応じて適切な治療方針を決定します。
智歯周囲炎の治療
智歯周囲炎の治療は、症状の程度や原因によって異なりますが、一般的に以下のような方法で行われます。
まず最初に、炎症を抑えるために抗生物質の投与を行うことが一般的です。細菌の増殖を抑え、症状の緩和を図ります。同時に、痛みや腫れを軽減するために消炎鎮痛剤が処方されることもあります。
口腔内の衛生状態を改善することも重要な治療です。歯科医師や歯科衛生士の指導のもと、適切な歯磨き方法や洗浄方法を学び、実践することで、炎症の原因となる細菌の繁殖を防ぎます。場合によっては、歯科医院でのクリーニングや洗浄も行われます。
症状が重度の場合や、保存的な治療では改善が見られない場合は、外科的処置が必要です。智歯の周囲の歯肉を切開して排膿を促す処置や、最終的には智歯の抜歯が含まれます。抜歯は、智歯が他の歯に悪影響を及ぼしている場合や、繰り返し炎症を起こす原因となっている場合に選択されます。
治療後は、再発防止のために定期的な歯科検診と適切な口腔ケアの継続が重要です。智歯周囲炎の治療は、単に症状を緩和するだけでなく、患者の口腔全体の健康を維持・改善することを目指して行われます。
智歯周囲炎になりやすい人・予防の方法
智歯周囲炎は、多くの人が経験する口腔内の問題で、特に10歳代後半から30歳代までの若い世代でなりやすいとされています。これは、この年齢層で智歯(親知らず)が生えてくることが多いためです。
また、口腔衛生状態が不十分な人も智歯周囲炎になりやすい傾向です。智歯は奥歯の後ろにあるため、歯ブラシが届きにくく、食べかすや細菌が蓄積しやすいです。さらに、ストレスや疲労、喫煙、栄養不足など、全身の免疫力を低下させる要因も、智歯周囲炎のリスクを高めます。
予防方法としては、まず適切な口腔ケアが重要です。奥歯まで丁寧に磨き、デンタルフロスや歯間ブラシを使用して、智歯周辺の清掃を心がけます。また、定期的に歯科検診を受け、智歯の状態をチェックすることで、必要に応じて早期の対処ができます。
さらに、バランスの取れた食事や十分な睡眠、ストレス管理など、全身の健康管理も重要です。これらは免疫力を維持し、炎症のリスクを軽減するのに役立ちます。喫煙者の場合は、禁煙することで口腔内の環境改善につながります。
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参考文献