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顎変形症
坂本 輝雄

監修歯科医師
坂本 輝雄(東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科)

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東京歯科大学 千葉歯科医療センター 矯正歯科 臨床准教授

顎変形症の概要

顎変形症(がくへんけいしょう)とは、上顎(上顎骨)と下顎(下顎骨)のバランス不良により噛み合わせが悪くなったり、顔面が左右非対称になったりなどを示す状態の総称です。

何らかの原因で顎の骨の発育不全や上下・左右・前後のズレなどが生じることで、以下のような症状があらわれます。

  • 顎の骨がズレたり変形することで上手に噛めず口から食べ物がこぼれる
  • 口の中の変形によって発音が難しくなる
  • 気道が狭くなることによって睡眠時無呼吸症候群になる

また、見た目にも左右非対称などの変化が出てきて、精神的なストレスを感じやすくなります。

一般的に幼児期には症状に気づかずに、思春期になって顎の成長と共に気づくことが多いです。

小児であれば矯正治療によって効果が期待できますが、成人してからだとなかなか効果が出にくいため、顎の骨や歯の外科的手術が適応となる可能性もあります。

顎変形症の主な種類と特徴は以下のとおりです。

上顎前突症(じょうがくぜんとつしょう)

上顎の骨が過剰に発達したために、噛んだときに上の歯が下の歯よりも異常に前に出ている状態です。いわゆる「出っ歯」と呼ばれる症状を指します。

下顎前突症(かがくぜんとつしょう)

下顎の骨が異常に発達したために、噛んだときに下の歯が上の歯よりも前に出ている状態です。いわゆる「受け口」と呼ばれる症状を指し、横から見ると三日月のように顎が突出して見えます。

上顎後退症(じょうがくこうたいしょう)

上顎の骨が十分に成長せず、凹んで見える状態です。唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)の術後やダウン症でよくみられ、特徴として下の歯が上の歯よりも前で噛み合います。

下顎後退症(かがくこうたいしょう)

下顎の骨が成長しない状態のことで、横から見たら鳥のように見えることがあります。特徴として顎の関節がケガや感染によって障害された時に起こりやすいといわれています。

開咬症(かいこうしょう)

歯を噛み合わせた時に、上下の前歯に隙間が生じる状態です。噛み合わせた時に奥歯だけが噛み合い、前歯が噛み合わないことが特徴です。

顔面非対称(がんめんひたいしょう)

顎の骨のねじれやゆがみによって、左右の顔が非対称になっている状態です。

顎変形症

顎変形症の原因

顎変形症の原因としてはっきりとわかっているものはありません。一般的には遺伝的な要因や普段の行動・癖といった生活習慣が原因ではないかと考えられています。

顎変形症患者では家族歴があることやダウン症などの染色体異常が見つかっていることから、遺伝子レベルでの影響がある可能性が指摘されていました。しかし、詳しいメカニズムや遺伝パターンはいまだ解明されていません。

また、普段の行動や癖といった生活習慣によっては、顎の骨や口に大きな刺激を与える可能性があります。

具体的には、以下のような日常生活での行動が要因が顎変形症につながるのではないかと考えられています。

  • 指しゃぶりや口呼吸によって歯並びに影響が出る
  • 頬杖や歯ぎしりによって、顎の関節へ悪い影響が出る
  • 腫瘍などの異物や骨折などの外傷によって顎が変形する

しかし、これらの要因が実際にどの程度顎変形症に影響し、どのような作用があるのかについて、はっきりとはわかっていません。

顎変形症の前兆や初期症状について

顎変形症は、いきなり噛み合わせが悪くなったり、顔の非対称が出てきたりするわけではありません。顎の骨のズレや成長の差がだんだんと大きくなることで生じます。

前兆や初期症状としては噛み合わせや顎の骨のズレといった症状が考えられます。具体的には以下のような症状が挙げられます。

  • 上下の前歯の中身がズレている
  • 前歯がひどく伸び出している
  • 大きく口を開けた時に左右にずれている
  • 食べ物が口からこぼれてしまう
  • 横顔で唇が出ていたり引っ込んでいたりする
  • 発音しにくい音がある
  • 寝ている時にいびきをかいている

しかし、これらの症状がすべて顎変形症につながるわけではありません。口元や歯並びに違和感や異常を感じた場合は、歯科医へ相談しましょう。

顎変形症の検査・診断

顎変形症は、主に以下の検査・分析により診断されます。

  • 噛み合わせの検査
  • レントゲンなどの画像撮影
  • 模型を使った分析

噛み合わせの検査

上下の歯を噛み合わせた時に、歯の噛み合い方やズレ、歯並びなどにより評価を行います。具体的には以下のようなことをチェックします。

 顔や歯の並びが左右対称か
 上の歯・下の歯が前方に飛び出ていたり、引っ込んでいないか
 上下の歯の中身が揃っているか
 歯が重なっていたり、隙間がないか
 ひどくすり減っている歯がないか

また、噛む機能の運動検査などもおこない、顎が正常に発達しているかを判断します。

レントゲンなどの画像撮影

レントゲンなどの画像撮影も診断の際に有効です。レントゲン写真を撮ることで顎の骨の状態を詳細に確認できるので、顎変形症の種類を特定するのに役立ちます。

また、手術を検討する場合にはCT・MRIが有効とされています。CTやMRIによって顎の関節や血管・神経を三次元的に確認することができるので、手術で矯正するための情報として有用です。

模型を使った分析

患者さんの歯の模型を使い、噛み合わせの確認をおこなう場合もあります。噛み合わせの確認は奥歯の基準を使うことが多く、特に手術を検討する際には重要な判断要素となります。

顎変形症の治療

顎変形症の治療は矯正治療または外科的手術が検討されます。

矯正治療

矯正歯科での歯並び矯正は顎変形症の治療に有効とされています。歯並びを矯正することで顎の骨のズレや噛み合わせの解消が期待できます。

矯正治療は、ワイヤーやマウスピースなどの矯正器具を用いて顎の骨や歯を少しずつ動かし、本来の位置に修正するという方法です。一気に動かすわけではないので長期間の治療が必要になります。

また、矯正治療は顎の骨や歯の成長に合わせておこなうことが推奨されています。

しかし、マウスピースなどの治療の場合は、自分で付け外しをする必要があるため、幼児期では難しい場合もあります。骨の成長が終わっていない小学生頃の治療がおすすめです。

最近では成人になってからの矯正治療も可能になっています。しかし、骨の成長が止まっているため、顎の骨や歯の移動が円滑におこなわれず、子どもの矯正よりもさらに時間がかかることが多いです。また、虫歯などの治療と並行する可能性もあり、矯正治療が適さないケースもあります。

外科的手術

矯正治療での治療結果が思わしくない場合や、顎の骨自体に変形が強く出ている場合には外科的手術が適応になります。手術は大きく分けて以下の2通りです。

  • 上下の顎の骨全体を上下・左右・前後に切って移動させる方法(骨切り術)
  • 歯を含む一部の骨を切り、噛み合わせや顔の形を整える方法

どちらの場合にも全身麻酔科で手術がおこなわれ、体に害のない素材でできたネジやプレートでの固定が必要です。

基本的には口の中から手術をおこないます。ただし、口の中には血管や神経が多く張り巡らされているので、自由に骨を動かせるわけではありません。そのため、手術をしても思いどおり動かすことは難しい場合もあります。

加えて、後治療といって手術の後にも矯正治療をしないといけません。これは一度手術で形を整えた後に、再び顎の骨のズレや変形を予防するために重要なことです。

顎変形症になりやすい人・予防の方法

家族に顎変形症と診断された人がいる場合は、遺伝的に顎変形症になる可能性があります。また、小児期から歯ぎしりをしたり、頬杖をつくといった習慣がある人は、顎の骨のねじれや成長の妨げになる可能性があるため、注意が必要です。

子供のころから正しい生活習慣や正しい姿勢を習慣づけることで、顎に悪い刺激が入りづらくなり、顎変形症の予防になると考えられます。


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