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渡邊 雄介

監修医師
渡邊 雄介(医師)

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1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

所属
国際医療福祉大学 教授
山王メディカルセンター副院長
東京ボイスセンターセンター長

舌苔の概要

舌苔とは、舌の表面部分に付着する白〜黄白色の苔状(こけじょう)のものです。
舌苔は皮膚でいうところの垢のようなものです。

舌の表面にはたくさんの凹凸が存在します。
この凹凸は粘膜の隆起や小さな突起があるために発生します。
これらの凹凸は舌乳頭とよばれ、糸状茸状乳頭(じじょうにゅうとう)、葉状乳頭(ようじょうにゅうとう)、有郭乳頭(ゆうかくにゅうとう)の4種類が存在します。

なお茸状乳頭、葉状乳頭、有郭乳頭には味細胞をもつ味蕾(みらい)があります。この味蕾で味を感じることができると言われています。

舌苔はこの糸状乳頭という凹凸に、食べかすや口の中の細菌、口腔粘膜の表面が大小の角質片となって剥がれ落ちたものなどが付着することで形成されたもので、白い苔のように見えます。

薄い舌苔があるのは生理的なことで異常ではありません。
しかし、舌苔が厚くなると、そこは細菌の温床となり、口臭がきつくなったり、味覚障害誤嚥性肺炎の原因となる可能性が高まります。

舌苔の原因

舌苔は、様々な要因によって引き起こされる可能性があります。

細菌

口の中にはとても多くの細菌が存在します。
細菌が舌の表面にある凹凸の隙間に入り込み増えていくことで舌苔として白く見えます
色素を作り出す細菌もいるため、そういった細菌が原因の場合は、舌苔の色が黄色や黄白色や灰色、茶色、場合によっては黒色などに変化する可能性があります。

食べかすなど

食べかすや口の中に粘膜が剥がれ落ちたものが舌の表面に残り、それが原因で舌苔になることがあります。
本来、舌の位置は上顎に軽く接触している状態です。
しかし、何かしらの原因で舌の位置が低い位置にあったり、舌の動きが正常でなかったりすると、舌が口の中で周りと擦れないため食べかすや粘膜片が残ってしまいます。
食べかすや粘膜片はたんぱく質であり、口の中の細菌にとってはエサとなります。口腔内に細菌のエサが多い状態では、当然細菌が繁殖しやすいため、舌苔の原因になります。

口呼吸

口で呼吸をする習慣のある人は、舌苔が出やすいと言われています。
本来、口の中は唾液で常に濡れている状態が生理的な状態と言えます。
しかし、口呼吸することで口の中の汚れが乾燥します。
唾液で濡れていれば自然と落ちる汚れが、乾燥することで舌にこびりつき取れにくくなります。

唾液の量が少ない

ストレスや薬(血圧を下げる薬や精神疾患の薬など)、脱水や病気によって唾液の量が少なくなることは舌苔ができる要因となります。
唾液には多くの働きがあります。
まず、唾液には口の中や食べ物などと絡み合って滑らかさを与える働きがあります。
唾液があることで口の動きがスムーズになります。
また、唾液がないと食べ物をうまく噛み砕くことができません。
さらに噛み砕かれた食べものをまとめ、飲み込みやすくする働きも担っています。

つぎに、唾液には味覚を助ける働きもあります。
唾液は食べ物の味物質を溶かして、味蕾で味を感じやすくします。
たとえば乾ききった舌の上に食塩をのせても塩味は感じません。
味を感じるためには唾液が必要です。
そして、唾液には口の中をきれいに保つ働きや殺菌作用があります。
唾液によって食べ物のかすが洗い流されたり、殺菌作用により虫歯を予防してくれます。

さいごに、唾液にはデンプンを消化する働きがあります。
唾液に含まれるプチアリンというデンプン消化酵素によって、デンプンをマルトース(麦芽糖)にまで分解します。
唾液の量が少なくなることでこれらの働きは十分に機能しません。

舌の動きの低下

舌の動きが低下することは舌苔ができることの要因となります。
例えば、口臭は朝が一番臭います。
それは寝ている間は舌の動きが悪く、唾液の量も少なくなるため、舌に汚れが溜まりやすいことが原因です。
舌の機能や動きの低下は、高齢者や病気などによって起こります。
これによって、舌の汚れが落ちにくくなるため、舌苔が多くなりやすくなります。

抗生物質やステロイド剤の影響

抗生物質やステロイド剤を長期間飲み続けることは、舌苔の要因となります。
抗生物質やステロイド剤を飲み続けることで、口の中の細菌の種類が変化する可能性があります。
細菌の種類が変わることで黒い舌苔が形成されることがあります。
これは、薬の影響でカンジダ菌という真菌(カビ)の一種が増えることで硫黄化合物がつくられることが原因です。硫黄化合物が血液中の成分と結びつくことで黒くなると言われています。

先天的な異常や慢性的な炎症

先天的な異常や慢性的な炎症が舌苔の要因になることがあります。
先天的な異常や慢性的な炎症によって、溝状舌(こうじょうぜつ)と言われる舌の表面に深く切り込んだ溝がたくさんできた状態になることがあります。
溝が深いと食べ物や口の中で剥がれ落ちた粘膜片が入り込みやすく溜まりやすいため、舌苔を形成しやすくなります。

舌苔の前兆や初期症状について

薄い舌苔があるのは生理的なことで異常ではありません。しかし、舌苔が厚くなることで様々な症状が出現する可能性があります。

口臭がキツくなる

舌苔を放置すると臭いのもととなるガスを発生させます。

味覚障害

人間は舌にある味蕾で味を感じるため、舌苔で覆われることで、味を感じにくくなると言われています。

むし歯の原因

舌苔は食べ物のかすや口の中の細菌などによって形成されます。
それが口の中という同じ環境にあることは、むし歯の原因になる可能性があります。

舌の傷や感染

舌苔が放置されると舌の動きが低下し、口の中の環境が悪化します。
舌自体が傷つきやすく、また感染を起こす可能性があります。

誤嚥性肺炎

舌苔で繁殖した細菌が唾液などと一緒に肺に繋がる気管へ入りこみ、肺炎を起こす可能性があります。
脳卒中の後遺症のある患者さんや寝たきりの患者さんなどは、誤嚥した際の反射機能が低下していることがあるため注意が必要です。
症状が気になる場合は、口腔外科や耳鼻いんこう科を受診して診断を受けましょう。

舌苔の検査・診断

舌苔は病気ではないため、舌苔の検査や診断はありません。
ただし、口腔カンジダ症や白板症など、ほかの病気が疑われた場合には検査が発生します。
白板症は口腔潜在的悪性疾患と言われており、ガン化する可能性があります。

舌苔の治療

舌苔は病気ではないため、投薬などはありません。
舌ブラシを用いて、舌苔を取り除くことが効果的です。
舌ブラシは歯ブラシより柔らかく舌の清掃に向いています。

舌の清掃は、舌苔のついている箇所を確認し、水で濡らした舌ブラシを奥から手前に引くようにして行います。
力を入れすぎると舌が傷ついてしまうため、力を入れずに舌ブラシの先に汚れがついて来なくなるまで繰り返し行うことが効果的と言われています。
舌の清掃の頻度は1日に1回程度が推奨されています。
歯磨きや舌の清掃を行い、口の中の環境を常に清潔にしておくことが重要だと言われています。

舌苔になりやすい人・予防の方法

舌苔は病気ではないため、健康な人であっても舌苔がつく可能性があります。
まず、舌苔のつきやすい習慣などについて、紹介・解説します。

食後や寝る前の歯磨き習慣がない、間食が多い

口の中が不潔な状態であり最近が繁殖しやすい可能性があります。

口呼吸または口が開く癖(鼻詰まりがある、いびきをかく、歯並びが悪いなど)、喫煙習慣がある

口腔内が乾燥する可能性が高い状態です。

会話が少ない

舌の動きが低下するため、舌の自浄作用が働きにくい状態です。

口から食事ができない

病気や寝たきりで口から食事ができないと唾液の分泌量が減少します。

次に、舌苔を予防する方法についてご紹介します。

  • 歯磨きや舌ブラシを使って口の中を清潔に保つようにすることが重要だと言われています。
  • 口呼吸や喫煙習慣は口の中を乾燥させる原因となるため、見直す必要があります。
  • 会話の機会を増やすことは、舌の運動が増え自浄作用を促進させる可能性があります。
  • 食事をよく噛んで食べることは、唾液の分泌量が増えるため重要です。
    寝たきりのかたのケアについては、口の中を乾燥させないように保湿剤などを用いて湿潤環境を維持することが重要です。
    また口から食事をしていない場合でも、歯磨き・舌磨きを行うことが重要だと言われています。

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