

監修歯科医師:
箕浦 千佳(歯科医師)
プロフィールをもっと見る
朝日大学歯学部卒業 。現在は長谷川亨歯科クリニック非常勤勤務。専門は一般歯科、矯正歯科。
粘液嚢胞の概要
粘液嚢胞(ねんえきのうほう)は、口腔内の粘膜下に形成される小さな袋状の塊で、主に小唾液腺から唾液が漏れ出して生じる唾液腺の病気の一つです。見た目には小さな膨らみやしこりのように感じられ、唇や頬の内側、舌の下など、口腔内のさまざまな部位に発生します。大きさは2〜5mm程で、半球状に膨らみます。触ると弾力があり、やわらかく揺れて動くような感触があります。自然につぶれて縮小する場合もありますが、治癒しているわけではないため、数日で再び膨らみます。10歳未満の子どもに多く見られますが、大人でも発症し、50歳以降では減少します。 粘液嚢胞は、嚢胞内の液体が無菌性の唾液であるため、感染や炎症が起こりにくく、痛みがないのが特徴です。しかし、嚢胞を何度も噛んでしまうと内出血や感染が生じ、痛みや腫れを引き起こす可能性があります。また、口腔内のほかの部分に炎症を引き起こすこともあります。したがって、再発を防ぐためにも嚢胞を無理に潰さないよう注意が必要です。 粘液嚢胞は感染症ではないため、周囲にうつることはありません。しかし、嚢胞が大きくなり、食事や会話に支障をきたす場合は、治療が必要となることがあります。症状が長引く場合や大きさが1cmを超える場合、頻繁に再発を繰り返している場合は、専門の医療機関への相談が推奨されます。粘液嚢胞の原因
以下では、粘液嚢胞の主な2つの原因について詳しく解説します。①粘膜への物理的な刺激
粘液嚢胞の主要な原因の一つは、口腔内の粘膜への物理的な刺激です。例えば、食事中に誤って唇や頬の内側を噛んでしまうことがあります。これにより粘膜が傷つき、その治癒過程で唾液腺の管が詰まり、唾液が溜まって粘液嚢胞が形成されます。そのため、下唇を噛む癖がある場合は、同じ場所に繰り返し刺激が加わることで、粘膜がさらに傷つきやすくなります。 また、歯の先端や歯科器具による物理的な刺激も粘液嚢胞の原因となります。歯並びが悪い場合や、歯列矯正器具や入れ歯が粘膜に常に接触していると、粘膜が損傷しやすくなります。子どもや若年層に多く見られるのは、怪我によって歯が欠けたり、むし歯で歯に穴があいたりして、その尖った部分が粘膜を傷つけることがあります。さらに、歯ブラシで誤って口腔内を傷つけることも粘液嚢胞の一因となります。 これらの物理的な刺激は、口腔内の小唾液腺の管を塞ぎ、唾液の流出を妨げることで粘液嚢胞を引き起こします。したがって、口腔内の習慣や器具の使用方法に注意し、粘膜を傷つけないことが重要です。②口内炎
口内炎も粘液嚢胞の原因となります。口内炎によって粘膜が傷つくと、その治癒過程で唾液腺の管が詰まり、唾液が溜まって粘液嚢胞が形成されることがあります。口内炎の原因は明確ではありませんが、ビタミン欠乏や鉄欠乏などの栄養障害、睡眠不足、ストレス、女性の性ホルモン周期、喫煙、遺伝、ウイルス感染、口内を噛んでしまう、アレルギーなどが関与しているとされています。粘液嚢胞の前兆や初期症状について
粘液嚢胞は、主に口内に液体がたまった小さな嚢胞として現れる良性の状態です。初期症状としては、口内に繰り返しできる水ぶくれのような症状で、粘膜の損傷がない限り痛みはありません。上唇に発生することは稀で、下唇に発生しやすく(下唇粘液嚢胞)、口内の異物感や腫れを伴うことがあり、大きな口内炎が治らないと受診する方もいます。 また、粘液嚢胞は1歳頃の幼児から見られることもあり、口内に何度もできる水ぶくれや大きな口内炎に悩まされる場合には、粘液嚢胞の可能性があるため医師の診察が推奨されます。嚢胞が自然に破れて液体が流出し縮小する場合もありますが、放置して治ることは少ないため、再発することが多いようです。再発を繰り返しているケースでは、徐々に表面が硬く白っぽくなっていき、放置すると増大する傾向にあります。 治療には、耳鼻咽喉科や歯科口腔外科の専門の医師が対応します。再発を防ぐためには適切な切除が必要となるため、専門的な治療を受けることが重要です。粘液嚢胞の検査・診断
粘液嚢胞の診断は、視診と触診が基本です。医師は患部の大きさ、形状、硬さを確認します。また、穿刺吸引細胞診により嚢胞内部の液体を採取し、細胞診を行って嚢胞の性質を詳しく調べます。 必要があれば、より詳細な評価のために、超音波検査やMRI、CTスキャンなどの画像検査が利用され、嚢胞の位置や周囲組織との関係を診断する場合もあります。これらの検査により、良性か悪性かを含めた正確な診断が行われます。粘液嚢胞の治療
粘液嚢胞の治療には、主に手術が用いられます。手術は局所麻酔下で行われ、1時間以内に完了します。手術の手順としては、まず粘液嚢胞を切開し、嚢胞とその周囲の小さな唾液腺を摘出します。これにより再発を防ぐことが期待されます。手術後は傷口を縫合し、数日間の痛みや不快感が続くことがありますが、抗菌薬や痛み止めを処方されるため、痛みや感染症のリスクを軽減できます。 術後の注意点としては、傷口のケアが重要です。傷口は清潔に保ち、感染や炎症を防ぐために、触れたり引っ張ったりしないようにしましょう。縫合糸が気になる場合も、主治医と相談して適切に対処してください。また、口腔内の清潔を保つために、食後の歯磨きや含嗽(うがい)をしっかり行い、細菌の繁殖を防ぎます。 粘液嚢胞の手術費用は保険が適用されるため、5,000円〜1万円程度で済みます。ただし、全身麻酔や特殊な治療法が必要な場合、費用は多少増えることがあります。特に、小学生から中学生の年齢層で手術を受けるケースが多く、自治体が提供する医療証を持っている場合は、1回の治療費が500円程度に軽減されることもあります。 大きな粘液嚢胞やがま腫(舌下粘液嚢胞)と呼ばれる特殊な場合には、開窓療法という治療法が用いられることもあります。これは嚢胞の一部を切除し、唾液の流出経路を確保する方法です。しかし、再発が続く場合には、原因となる唾液腺を全身麻酔下で摘出する手術が行われることもあります。 粘液嚢胞の治療は短時間で済む一方、再発防止のためには適切な手術と術後ケアが重要です。早期に専門医を受診し、適切な治療を受けることで、再発のリスクを軽減し、口腔内の健康を維持しましょう。粘液嚢胞になりやすい人・予防の方法
粘液嚢胞の発生は、生活習慣や健康状態が関与していたり、また、歯並びが悪かったり、義歯などが合っていなかったり、口内炎を繰り返したりしている場合は、粘液嚢胞のリスクが高まります。これらの状態は、口内の傷つきやすさや炎症の頻度を増加させるため、唾液腺の管が詰まりやすくなるからです。 さらに、唾石がある場合も粘液嚢胞が発生しやすくなります。唾石は唾液の流れを阻害し、管の詰まりを引き起こすことがあるため、嚢胞が形成されやすくなります。また、下唇を噛む癖がある場合も注意が必要です。下唇は粘液嚢胞が発生しやすい部位であり、噛むことによって繰り返し傷つけられることで嚢胞が形成される可能性が高まります。 粘液嚢胞の予防には、いくつかの方法があります。まず、口内の衛生を保つことが重要です。定期的な歯磨きや口内洗浄を行い、口内炎や感染症のリスクを減らしましょう。また、唾石の予防には十分な水分補給が有効とされており、唾液の流れを促進し、唾石の形成を防ぎます。定期的に歯科医を受診し、歯並びの歯列矯正や口内の健康状態をチェックすることも重要です。 さらに、悪い習癖(咬唇癖、吸唇癖)の改善も重要です。唇を噛む癖がある場合は、意識してその癖を直す必要があります。ストレス管理やリラックス法を取り入れ、無意識の癖を減らす努力をしましょう。関連する病気
- ガマ腫
- 唾液腺腫瘍
- 血管腫
参考文献




