監修医師:
松澤 宗範(青山メディカルクリニック)
2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医
2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局
2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科
2017年4月 横浜市立市民病院形成外科
2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科
2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職
2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長
2020年5月 青山メディカルクリニック 開業
所属学会:日本形成外科学会・日本抗加齢医学会・日本アンチエイジング外科学会・日本医学脱毛学会
口唇口蓋裂の概要
口唇口蓋裂とは、先天的に口唇(くちびる)や口蓋(口の中の上部)、上顎(歯ぐき)に裂け目が生じる病態です。胎生期の組織欠損や癒合不全が原因で、単独で発生することもあれば、同時に発生するなど多様な症状がみられます。日本では、約500人に1人の割合で口唇口蓋裂の新生児が誕生するとされています。
口唇口蓋裂は、見た目の問題だけでなく、哺乳や摂食、発音などにも影響を及ぼします。口唇裂が見られると乳首をうまくくわえることができず、母乳やミルクの摂取が困難になります。また、口蓋裂の影響で飲んだミルクが鼻から出てしまうことがあり成長の妨げになるケースも見られるのです。
さらに、口蓋裂は発音にも影響を与えます。口蓋裂があると、口の中の圧を高めることができず、正しい発音が困難になります。特に、鼻咽腔閉鎖機能がうまく働かないため、鼻に抜ける声(開鼻声)になることがあり、言語発達が遅れる可能性があります。
口唇口蓋裂の治療は、形成外科、歯科、耳鼻咽喉科などの多様な職種による連携が重要です。治療は出生直後から始まり、成長に合わせて段階的に進められます。また、場合によっては言語訓練や歯科矯正治療も必要となるでしょう。
口唇口蓋裂の原因
口唇口蓋裂の原因は完全には解明されていません。遺伝的要因や環境要因が複雑に絡み合って発生すると考えられており、妊娠初期に胎児の顔や口蓋が形成される過程で、組織欠損や癒合不全が生じることが原因とされています。
遺伝的要因・環境要因
遺伝的要因としては、近親者に口唇口蓋裂の既往がある場合にリスクが高まるとされています。しかし、遺伝だけではなく、多くのケースでは環境要因との因果関係が指摘されています. 環境要因としては、妊娠中にかかる母体へのストレスや栄養状態の不良、風疹やヘルペスなどの感染症が挙げられます。特に、妊娠初期における葉酸の不足や喫煙、アルコールの摂取がリスクを高めるため注意が必要です。
薬剤の使用
妊娠中に特定の薬物を使用することもリスク要因となります。例えば、副腎皮質ステロイド薬や鎮痛剤などは、胎児の発育に悪影響をもたらします。さらに、定期検診などで行われる放射線の照射も、口唇口蓋裂の発生リスクを高めるとされており、検査前には医師からリスクに関する説明を受けるようにしましょう。
口唇口蓋裂の前兆や初期症状について
出生前検査
口唇口蓋裂の前兆は、妊娠中の出生前診断で確認されることが多いです。特に、妊娠20週以降の超音波検査で、胎児の顔や口蓋の異常が発見されることがあります。しかし、すべてのケースで出生前に診断されるわけではなく、出生後に初めて確認されることも少なくありません。また、胎児の発育遅延や羊水量の異常などがきっかけで発見される場合もあります。
哺乳障害
出生後の症状としては、哺乳障害が挙げられます。口蓋裂が見られる乳児では、乳首をうまくくわえることができず母乳やミルクの摂取が困難になります。また、飲んだミルクが鼻から出てしまうことケースもしばしばあります。これにより、栄養が不十分となり、体重増加が遅れてしまいかねません。
中耳炎などの感染症
口唇口蓋裂を患った幼児には、中耳炎や鼻咽腔炎などにかかりやすい傾向があります。口蓋裂があると、口の中と鼻の中がつながってしまうため、食物や液体が鼻に入りやすくなり、これが原因で感染症を引き起こします。
言語発達の遅延
言語発達の遅れも口唇口蓋裂の初期症状の一つです。口蓋裂があると鼻咽腔閉鎖不全が見られ、鼻から抜ける声(開鼻声)になってしまい、正しい発音が困難になるため言語発達が遅れることがあります。
種々の症状からも分かる通り、口唇口蓋裂の治療は、形成外科や耳鼻咽喉科、歯科などの多様な職種によるチーム医療が必要となります。
口唇口蓋裂の検査・診断
口唇口蓋裂のスクリーニング検査は出生前前から行えますが、確定診断は出生後に行われます。
出生後の診断
出生後の診断は視診と触診を中心に行われます。口唇裂や口蓋裂は見た目で確認できることが多く、出生直後に診断されることがほとんどです。新生児の口唇や口蓋の状態を詳しく観察し、裂け目の有無や程度を確認し、口の中と鼻の中がつながっているかどうかを確認します。
遺伝子検査
口唇口蓋裂の診断には遺伝子検査も合わせて行います。染色体異常がないかを調べ、他の遺伝性疾患がないかも確認します。特に、親族で口唇口蓋裂を罹患している方がいる場合は、遺伝子検査の実施が推奨されます。
多職種での検査
口唇口蓋裂の診断には、形成外科医や口腔外科医、耳鼻科医が関わります。より詳細な言語発達や摂食障害の評価には、言語聴覚士や栄養士の専門的な評価が必要となります。
口唇口蓋裂の治療
口唇口蓋裂の治療は、出生直後から成人に至るまでの長期にわたる計画が必要です。治療の目的は、見た目の改善だけでなく、摂食、発音などの機能回復になります。
口唇形成術
口唇裂の手術は生後3〜6か月頃に行われることが一般的です。口唇形成術といい、裂け目を閉じるために口唇の縫合を行います。口唇裂を縫合した後は、バランスの取れた自然な口唇形態を実現するために、鼻柱や鼻翼基部の位置を整えるように調整が必要です。
口蓋形成術
口蓋形成術は口腔と鼻腔の遮断を主目的とし、軟口蓋の口蓋帆挙筋や口蓋垂筋を再建後、正常な鼻咽腔閉鎖機能の獲得を目指します。口蓋裂の手術は1歳から2歳までに行われることが一般的で、手術後は、口蓋の機能を回復させるためにリハビリテーションが行われます。特に、言語や摂食の発達に影響を与えるため、言語聴覚士による言語・摂食訓練が重要です。
歯科矯正治療
口唇口蓋裂の場合は、上顎の発育不全や歯列不正が見られる可能性があります。その治療のため、歯科矯正治療が必要です。特に、顎裂(歯ぐきに割れ目がある状態)がある場合には、顎裂部骨移植術が行われ、顎裂部に骨を移植し、歯が正常に生えてくるよう促します。
口唇口蓋裂になりやすい人・予防の方法
口唇口蓋裂は遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合って発生します。家族に口唇口蓋裂の既往がある場合、罹患のリスクが高まると知られています。しかし、遺伝だけが原因ではなく、多くのケースで環境要因が関与するのです。
口唇口蓋裂になりやすい環境要因
環境要因として、妊娠中の母体にかかるストレスや葉酸の不足、副腎皮質ステロイド薬や鎮痛剤の使用、風疹やヘルペスなどの感染が挙げられます。特に、妊娠初期における喫煙やアルコールの摂取が高リスク要因です。したがって、妊娠を計画している女性は、禁煙や断酒を心がけましょう。また葉酸の摂取は口唇口蓋裂の予防に効果的です。緑黄色野菜や果物、全粒穀物などに多く含まれており、サプリメントとして摂取することも推奨されます。
予防方法(妊婦検診)
定期的な妊婦健診を受けることで、早期に異常を発見し、適切な対応を取ることができます。特に、妊娠初期には超音波検査で、胎児の上唇や鼻孔の左右差、口蓋の形状などを評価可能です。
予防方法(ストレス管理)
ストレスは、胎児の発育に悪影響を与えるため、リラックスした環境を整えることが重要です。パートナーに妊娠中の体にかかる負担を理解してもらいつつ、適度な運動やリラクゼーション法を取り入れて、ストレスを軽減するように努めましょう。
予防方法(薬物の正しい選び方)
妊娠中は副腎皮質ステロイド薬や鎮痛剤の使用は控えましょう。胎児の発育に悪影響を及ぼすため、医師と相談しながら別の薬で対処することがおすすめです。
予防方法(感染症の予防)
妊娠中に風疹やヘルペス、インフルエンザなどの感染症にかかると、口唇口蓋裂のリスクを高まります。妊娠を計画している女性は、妊娠前に予防接種を受けているかどうか確認してみるとよいでしょう。
参考文献
- 国立成育医療研究センター
- 口唇裂・口蓋裂について
- 口唇裂・口蓋裂の発生機序と発生原因
- 口唇・口蓋裂|日本産婦人科医会
- 口唇・口蓋裂のトータルケア|日本産婦人科医会