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X連鎖無ガンマグロブリン血症
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

X連鎖無ガンマグロブリン血症の概要

X連鎖無ガンマグロブリン血症は、生まれつき免疫に必要な抗体(免疫グロブリン)がほとんど作られない病気です。主に男児に発症し、生後6ヶ月頃から感染症を繰り返すことで気付かれることが多いです。この病気は、B細胞の成長に必要なBTK(Bruton型チロシンキナーゼ)という酵素の遺伝子に異常があることで起こります。B細胞が成熟できないため、抗体が作れず、細菌やウイルスに対する防御が弱くなります。適切な治療を行わなければ、重篤な感染症を繰り返し、時には命に関わることもあります。

X連鎖無ガンマグロブリン血症の原因

この病気の主な原因はBTK遺伝子の変異です。この遺伝子はX染色体上に存在しており、男性はX染色体を1本しか持たないため、BTK遺伝子に異常があると発症します。BTKはB細胞が成熟する過程で重要な役割を担っており、遺伝子の異常によってB細胞の成熟が停止します。結果として、体内には成熟したB細胞がほとんど存在せず、抗体が作られません。BTK遺伝子の変異には、全遺伝子欠失、ナンセンス変異、ミスセンス変異、スプライス部位変異など様々なタイプがあります。変異の種類により、症状の程度にも違いが生じることがあります。

X連鎖無ガンマグロブリン血症の前兆や初期症状について

生後6ヶ月頃までは母親から胎盤を通じて受け取った抗体に守られていますが、この抗体が減少する頃から症状が出始めます。中耳炎、副鼻腔炎、肺炎、気管支炎、骨髄炎、皮膚感染症、尿路感染症、髄膜炎など多彩な細菌感染症を繰り返します。これらの感染症の多くは肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などによるものです。特に中耳炎や副鼻腔炎は頻繁にみられます。

また、消化管症状として慢性下痢や腹痛を認めることもあります。一部の患者では腸炎や炎症性腸疾患に進展する例も報告されています。ウイルス感染は比較的軽症で済むことが多いですが、エンテロウイルスやポリオウイルスに感染した場合には重症化しやすく、注意が必要です。ポリオの生ワクチン接種は重篤な合併症を引き起こす可能性があるため禁忌とされています。

さらに、長期間治療が遅れると慢性副鼻腔炎、気管支拡張症、慢性肺疾患などの非可逆的な合併症が進行します。気道構造の破壊により呼吸機能が低下し、生活の質に影響を及ぼす場合もあります。

X連鎖無ガンマグロブリン血症の検査・診断

診断は、まず血液検査で免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM)の著しい低下を確認します。多くの患者では、IgGがほぼ検出限界以下まで低下し、IgAとIgMも同様に低値です。次に、末梢血中のB細胞(CD19陽性細胞)を測定すると、通常は全く検出できないか、ごくわずかしか存在しません。これが診断の重要な手がかりとなります。

確定診断には遺伝子検査が必要です。BTK遺伝子の変異を特定することで診断が確定します。最近では遺伝子解析技術の進歩により、迅速かつ正確に変異の種類を特定できるようになっています。家族歴がある場合や、過去にX連鎖無ガンマグロブリン血症の男児を出産した経験のある母親では、出生前診断や新生児スクリーニングを行うことが可能です。出生前診断では絨毛検査や羊水検査、新生児では臍帯血や末梢血を用いた検査が行われます。

X連鎖無ガンマグロブリン血症の治療

現時点では根治治療は存在せず、治療の基本は免疫グロブリン補充療法です。免疫グロブリン製剤を静脈注射または皮下注射で定期的に補充することで、血中のIgG濃度を維持し、感染症を予防します。静脈注射は通常月1回、皮下注射は週1回程度行います。治療を適切に継続すれば、重症感染症の発症頻度は著しく低下し、患者は通常の生活を送ることが可能になります。

重症感染症を繰り返している場合や慢性副鼻腔炎、気管支拡張症が進行している場合には、抗菌薬の予防投与が併用されることもあります。また、感染症の早期発見と速やかな治療開始が重要であり、患者および家族は日常的に健康観察を行うことが勧められます。最近ではBTK遺伝子に対する分子標的治療や遺伝子治療の研究も進められており、将来的には根治的治療法の実現が期待されています。

X連鎖無ガンマグロブリン血症になりやすい人・予防の方法

この病気はX連鎖劣性遺伝形式をとるため、母親が保因者である場合、その息子が発症する可能性があります。保因者女性では子どもが男児であれば50%の確率で発症します。したがって、家族歴のある家系では、妊娠前の遺伝カウンセリングや出生前診断が重要です。出生後も早期スクリーニングによる早期発見と治療開始が予後改善に直結します。

生後早期に免疫グロブリンの低下やB細胞数の低下が認められた場合には、確定診断を急ぎ、速やかに免疫グロブリン補充療法を開始することが推奨されます。また、ポリオや麻疹などの生ワクチンは厳格に禁忌となるため、予防接種スケジュールの調整も必要です。適切な治療を受けていれば、学校生活、就労、結婚、出産といった人生の節目も健常者とほぼ同様に迎えることができます。

参考文献

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