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高宮 新之介

監修医師
高宮 新之介(医師)

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昭和大学卒業。大学病院で初期研修を終えた後、外科専攻医として勤務。静岡赤十字病院で消化器・一般外科手術を経験し、外科専門医を取得。昭和大学大学院 生理学講座 生体機能調節学部門を専攻し、脳MRIとQOL研究に従事し学位を取得。昭和大学横浜市北部病院の呼吸器センターで勤務しつつ、週1回地域のクリニックで訪問診療や一般内科診療を行っている。診療科目は一般外科、呼吸器外科、胸部外科、腫瘍外科、緩和ケア科、総合内科、呼吸器内科。日本外科学会専門医。医学博士。がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了。JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)修了。ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)。BLS(Basic Life Support)。

G6PD欠乏症の概要

G6PD欠乏症(グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠乏症)とは、赤血球内の酵素であるグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)が先天的に不足しているために、特定の薬剤や感染症、食品などをきっかけに赤血球が壊れ(溶血し)、貧血を起こす遺伝性の疾患です。
赤血球は全身に酸素を運ぶ役割を持ちますが、G6PDは赤血球内で酸化ストレスから赤血球を守るために重要な酵素です。この酵素が不足していても日常的には無症状のことが多いですが、感染症にかかったり特定の薬を服用したり、そら豆などの食品を摂取したりすると赤血球が急激に破壊され、急性溶血性貧血という重い貧血発作を起こすことが特徴です。

G6PD欠乏症は世界的に見ると人類で頻度の高い酵素異常症の一つであり、推定4億人以上がこの酵素の遺伝子異常を有するとされています。日本人での頻度は低く全人口の約0.1%ですが、近年では国際結婚や移民などにより日本国内でも発症例が増えてきています。

G6PD欠乏症の原因

G6PD欠乏症の直接の原因は、G6PD遺伝子の変異です。この遺伝子はX染色体上に存在しており、変異があると赤血球内で作られるG6PD酵素の量や働きが低下します。その結果、赤血球が酸化ストレスに対抗するために必要な物質を十分に維持できなくなり、赤血球中のヘモグロビンが酸化によって変性しやすくなります。変性したヘモグロビンはハインツ小体と呼ばれる小さな塊を形成し、そうなった赤血球は脾臓などで破壊されてしまいます。要するに、遺伝子変異によって赤血球が壊れやすい状態になっています。

遺伝の形式はX連鎖性劣性遺伝といい、X染色体に乗った遺伝で伝わります。そのため、発症するのは主に男性患者さんで、女性は変異遺伝子を1本だけ持つ場合は症状の出ない保因者(キャリア)となることが多いです。女性でも両方のX染色体に変異がある場合や、一部の赤血球で酵素活性が著しく低下した場合には症状が現れることがありますが、その割合は全体の約10%と報告されています。

実際に溶血を引き起こすきっかけとしては、酸化ストレスを高めるような要因が挙げられます。具体的には、薬剤(抗マラリア薬、サルファ剤、解熱鎮痛薬の一部など)や、細菌感染などの感染症、外科的な手術、そしてソラマメ(そら豆)などの特定の食品摂取が有名です。このように遺伝的な酵素異常が背景にありつつ、それ自体だけでは症状を出さず、何らかの誘因が加わることで初めて症状が引き起こされる点が本症の特徴です。

G6PD欠乏症の前兆や初期症状について

G6PD欠乏症の患者さんは、普段は酵素が不足している以外は健康なため無症状で経過します。しかし、前述のような誘因に曝露され赤血球の溶血が始まると、急速に貧血の症状が現れます。初期の症状として現れやすいのが、黄疸と呼ばれる皮膚や白目の黄染、そして尿の色が濃くなります。赤血球が大量に壊れるとヘモグロビンの分解産物であるビリルビンが増えて身体に黄疸が生じ、尿中にもヘモグロビン由来の色素が排泄されるためお茶のような褐色尿や赤茶色の尿(ヘモグロビン尿)が見られることがあります。

また、貧血に伴ってめまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、倦怠感などの症状を感じたり、症状が強い場合には極度のだるさ息苦しさ、皮膚の蒼白など全身状態の悪化が見られます。幼児や小児では顔色が悪くなってぐったりする、ミルクや食事の飲みが悪くなる、などが溶血発作(赤血球が壊れること)の兆候となる場合があります。
これらの症状は溶血が始まってから短時間で出現し、急速に進行することもあるため注意が必要です。

こうした症状が見られた場合、まずは速やかに医療機関を受診することが大切です。特に、「ある薬を飲んだ数日後から尿が赤褐色になり肌が黄色い」「ソラマメを食べた後に息切れがひどい」といった場合は本症を疑って早めに受診しましょう。受診する診療科としては、大人であれば内科を、小児の場合は小児科を受診するとよいでしょう。

G6PD欠乏症の検査・診断

疑わしい症状がある場合、医療機関では血液検査を中心に診断のための検査が行われます。まず全身状態の確認と一般的な血液検査で、貧血の程度や赤血球が壊れている所見がないかを調べます。赤血球が壊れている場合には血液中の間接ビリルビンや乳酸脱水素酵素(LDH)の値が上昇し、ハプトグロビンというタンパク質が低下するなどの典型的な変化が現れます。また血液の塗抹標本では、赤血球にかじられたような欠けがあるバイト細胞や、内部にハインツ小体という凝集物を含む赤血球が見つかることがあります。

G6PD欠乏症を確定するには、赤血球中のG6PD酵素活性を測定する検査を行います。これは採血した血液を用いて専門の検査機関で行われるもので、酵素の活性レベルが正常値より低下していればG6PD欠乏症の診断が確定します。最近では遺伝子検査でG6PD遺伝子の変異タイプを特定することも可能ですが、一般的な診断では酵素活性測定が用いられます。

G6PD欠乏症の治療

G6PD欠乏症そのものを根本的に治す治療法は現時点ではありませんが、適切な対処を行えば予後は良好であるとされています。治療の柱は、溶血発作を予防することと、発作が起きた場合の対症療法です。

まず予防の面では、後述するように溶血を引き起こす薬剤や食品を避けることが最も重要です。G6PD欠乏症と判明している方には、誘因となりえる薬剤を医師から処方されないよう禁止薬剤リストを作成して携帯することが推奨されます。こうした注意を守ることで、多くの患者さんは日常生活で問題なく過ごすことができます。
しかし、何らかの理由で急性の溶血発作が起こってしまった場合は、速やかに対症療法を行います。具体的には、まず原因となった薬剤を服用していれば中止し、必要であれば入院のうえで酸素投与や輸液などを行って全身状態を維持します。赤血球が壊れることで腎臓に負担がかかる可能性があるため、十分な輸液で尿量を確保し、血液中のヘモグロビンが腎臓に沈着して起こる急性腎不全を防ぎます。

貧血の程度が重い場合には輸血による赤血球の補充が検討されます。幸い、溶血発作は誘因が去れば通常は一過性で、壊れた赤血球は骨髄で新しく作られていくため時間とともに自然回復することが多いです。そのため中等度までの貧血であれば特別な治療をしなくても1週間程度で赤血球数がもとに戻り、黄疸や症状も改善します。治療が必要ない軽症例も少なくありません。
脾臓を摘出する治療は、本症では急性溶血発作の予防効果がないため通常は行いません。いずれにせよ、G6PD欠乏症の患者さんは医師の指導のもと適切に管理すれば生命予後は良好であり、日常生活や寿命に大きな支障が出ることはまれです。

G6PD欠乏症になりやすい人・予防の方法

G6PD欠乏症になりやすい方は、その遺伝形式からいえば先天的にG6PD遺伝子の変異を持っている方ということになります。前述のとおり本症はX連鎖性遺伝のため男性に発症者が集中します。患者さんのお母さん(保因者)からX染色体を受け継いだ息子さんが発症する場合が典型的です。逆に娘さんの場合は父親からのX染色体のもう一方が正常であれば発症しないため、女性患者さんはまれです。ただし女性でも一部に発症する例があり、家系的にG6PD欠乏症の男性がいる場合、その姉妹や娘さんはキャリアとなっている可能性があるため注意が必要です。

予防の方法としては、遺伝子そのものを変えることはできないため、溶血発作をいかに防ぐかが重要になります。基本は、溶血の誘因となるものを徹底的に避けることです。具体的には、医師や薬剤師に自分がG6PD欠乏症であることを必ず伝え、注意すべき薬剤を処方・投与されないようにすることが大切です。医療機関ではこうした薬剤を避けるよう管理されますが、海外旅行先で市販薬を入手する場合などは注意が必要です。
患者さん本人や保護者は禁止薬剤リストを作成して携帯し、必要に応じて医療者に提示できるようにしておくと安心です。
また、そら豆の摂取は避けましょう。そら豆にはビシンなどの成分が含まれ、G6PD欠乏症の方が食べると重い溶血を引き起こすことがあります。日本の食生活ではそら豆を大量に食べる機会は多くありませんが、例えば地中海料理や中華料理などで使われることがありますので注意します。
その他、ナフタレンを含む防虫剤にも近づけないようにし、衣類を収納する際は違う成分の防虫剤を使うようにします。感染症の予防も重要です。日頃から手洗いやうがいを励行し、流行している感染症のワクチン接種も検討してください。感染症にかかった場合でも早めに受診し適切な治療を受けることで、体内での炎症・酸化ストレス反応を抑え、二次的な溶血を防ぐことにつながります。

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