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フォン・ヴィレブランド病
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

フォン・ヴィレブランド病の概要

フォン・ヴィレブランド病とは、出血が止まりにくくなる病気です。 血液では、けがをしたときに血を固めて止める際にさまざまな因子が複合的に作用します。この病気は、そのなかのフォン・ヴィレブランド因子の遺伝子が変異し、フォン・ヴィレブランド因子が作られなくなったり、たんぱく質に異常が起こり発症します。

フォン・ヴィレブランド因子は、出血したときに血小板と呼ばれる細胞を集めて傷口をふさぐ役割があります。そのため、フォン・ヴィレブランド因子が少なかったり、働きが弱かったりすると、血が止まりにくくなってしまいます。 この病気は、令和5年血液凝固異常症全国調査(厚生労働省委託事業)によると、日本では1,658人の患者さんが報告されています。遺伝性出血性疾患のなかでは血友病に次いで頻度が多い疾患です。しかし、症状がほとんどない場合は気付かれないことも多いため、診断がされていない場合も多いとされています。推定頻度は1万人あたり100人と報告されていますが、出血症状を起こす患者さんはそのなかの約1%と考えられています。 フォン・ヴィレブランド病は、適切な治療によって出血を防ぐことが可能です。

フォン・ヴィレブランド病の原因

フォン・ヴィレブランド病は、フォン・ヴィレブランド因子に異常が起こることで発症します。 フォン・ヴィレブランド因子とは、血管の内皮細胞や血小板のもとになる骨髄巨核球の中で作られる、分子量約25万のタンパク質です。血管の内皮細胞の中で重合して、分子量約50万の二量体が作られ、さらにこれが重合して分子量約2000万以上の多量体ができて、血中に放出されます。 この多量体は、血液を固まらせるはたらきをもつ血小板を傷口に集め、さらに血栓を強化するために必要な血液凝固因子の一つである第Ⅷ因子を傷口に運ぶ働きがあります。 このように、フォン・ヴィレブランド因子は血液凝固にたいへん重要な働きをしています。

この病気は遺伝が関係しており、常染色体顕性(優性)遺伝によってフォン・ヴィレブランド因子に異常が出現します。量的・質的いずれの低下でもフォン・ヴィレブランド病を発症します。 フォン・ヴィレブランド病の型は大きく3つの型に分かれます。

1型:止血に十分な量のフォン・ヴィレブランド因子が作れない。 2型:質的な異常。2A、2B、2M、2N型の4つの型がある。 3型:フォン・ヴィレブランド因子がほとんどかまったく作れない完全欠損症。

このなかでは、3型が最も出血が起こりやすく重症です。

フォン・ヴィレブランド病の前兆や初期症状について

おもな症状は、出血です。 1型や2型では鼻血、歯茎などの口腔内からの出血、少しのけがでも出血が長引く、ちょっとした打撲でも大きな皮下出血ができるなどが起こります。女性の場合は生理が多くなり月経過多となったり、卵巣出血を起こしたり、分娩後に異常出血を生じる場合もあります。抜歯後や手術の後に出血が止まりにくいことで発見される場合もあります。 ただし、軽症の場合は自覚症状がほとんどないこともあり、気付かないまま生活している方も少なくありません。 3型は皮膚や粘膜からの出血に加えて、関節内出血や筋肉内出血などの深部出血も生じることがあり、出血の程度も1型や2型より重症です。

出血が止まりにくい、大きなあざができたなどの症状がある場合は、血液内科を受診し医師に相談をしましょう。

フォン・ヴィレブランド病の検査・診断

まず、出血しやすい、血が止まりにくいという症状からこの病気を疑います。出血が起こりやすくなる病気はさまざまなものがあるため、いくつかの検査を組み合わせて診断をします。また、フォン・ヴィレブランド病と診断した場合、どの病型であるかも診断します。

家族歴の確認

フォン・ウィルブランド病は常染色体顕性(優性)遺伝の病気です。そのため、両親や兄弟がフォン・ヴィレブランド病かどうか、出血が止まりにくいことがあったかどうかを聴取します。 しかし、家族歴がなくとも発症する場合や、家族歴があっても発症しない場合があるため注意が必要です。

確定診断のための血液検査

止血に関わる検査を行います。血小板数の確認、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の測定で、止血に関わる因子のうちどの因子が欠乏しているかを推察します。フォン・ヴィレブランド病では血小板数とPTは正常でAPTTが延長しますが、軽症の場合は正常であることもあります。 フォン・ヴィレブランド病を疑う場合、以下の3つを測定します。

  • フォン・ヴィレブランド因子抗原量(VWF:Ag)
  • リストセチンコファクター活性(VWF:RCo)
  • 第VIII因子活性(FVIII)
VWF:Agが30%未満またはVWF:RCoが30%未満の場合にフォン・ヴィレブランド病と診断します。なお、血液型O型の場合は健常な方でもフォン・ヴィレブランド因子が少ないため、検査値だけではなくさまざまな検査を総合的に判断し診断します。

病型診断のための血液検査

VWF:Ag、VWF:RCoの値や比率である程度の病型予測は可能です。しかし、正確な病型診断のためにはVWFマルチマー解析やリストセチン惹起性血小板凝集検査が必要です。

フォン・ヴィレブランド病の治療

フォン・ヴィレブランド病の治療は、出血の程度や病型に応じて行われます。 治療には、以下のようなものがあります。

酢酸デスモプレシン

酢酸デスモプレシンの注射製剤の投与によって、血管内皮細胞からフォン・ウィルブランド因子の放出を促すことで一時的に増やし、止血力を高めます。1型、2A型に効果が期待できます。しかし、2B型では反対に出血や血栓症のリスクが悪化するため、投与しないことが推奨されています。

フォン・ウィルブランド因子製剤

酢酸デスモプレシンが効かない場合や重症である場合は、フォン・ウィルブランド因子を含む凝固因子製剤が使用されます。不足している因子を直接補う治療です。近年では、遺伝子組換えの製剤も利用されています。 生命に影響を及ぼしたり、関節内出血などで生活の質に影響を及ぼす可能性がある場合は、定期補充療法が行われることもあります。 手術や重度の出血で、一時的に大量のフォン・ウィルブランド因子が必要な場合にも有効です。投与する量は、大手術、小手術、抜歯、分娩、自然出血(軽症、重症)によってそれぞれ目標とするフォン・ウィルブランド因子活性にあわせて設定します。

抗線溶薬

出血が軽度である場合は、トラネキサム酸などの抗線溶薬が使用される場合もあります。軽症の鼻出血や歯科処置、過多月経などに使用されます。 また、手術時の出血防止のために酢酸デスモプレシンやフォン・ウィルブランド因子製剤と併用される場合もあります。

日常生活での予防

出血リスクを減らすため、日常生活では怪我をしないよう十分に注意をします。また、医療処置の際に事前に医師に病気を伝えることが大切です。

フォン・ヴィレブランド病になりやすい人・予防の方法

フォン・ウィルブランド病は、ほとんどが生まれつき発症する先天性の病気です。遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝であるため、血縁者でこの病気がある場合は発症する可能性があります。 軽症の場合はなかなか気付かれないことも多く、血が止まりにくいことをきっかけに診断がされることもあります。出血しやすい、血が止まりにくい場合は早めに医療機関を受診し医師に相談しましょう。

関連する病気

  • 血小板機能障害
  • 凝固異常症
  • 急性出血
  • 鼻血
  • 月経過多
  • 消化管出血

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