

監修医師:
鎌田 百合(医師)
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チェディアック・東症候群の概要
チェディアック・東症候群は、遺伝子の異常によって免疫の働きが生まれつき弱くなる先天性免疫不全症の一種です。
細菌やウイルスに対する抵抗力が低いため、幼い頃から重い感染症を繰り返しやすく、皮膚や髪、眼の色素が薄くなる部分的な白子症(しらこしょう)が見られるのが特徴です。また、血液中の血小板の機能が低下する影響で出血しやすく(出血傾向)、成長に伴って知的発達の遅れや痙攣(けいれん)発作など神経症状が現れることもあります。
まれな病気で、日本では小児慢性特定疾病(国の指定する小児の難病)の一つにもなっており、国内の患者数はわずか15人ほどと報告されています。
チェディアック・東症候群の原因
チェディアック・東症候群は遺伝性の病気で、原因はCHS1/LYSTと呼ばれる遺伝子の変異(突然変異)です。この遺伝子は細胞内のライソゾームという小さな器官の形成や輸送を調節する働きを持っています。ライソゾームは細胞内で不要な物質を分解し、細菌を殺す役割を担っています。そのため、この遺伝子に異常があると免疫細胞の中で細菌を死滅させる仕組みが正常に機能せず、体内に侵入した菌やウイルスを十分に撃退できなくなります。
加えて、細胞内部の骨組みにあたる微小管の働きにも異常をきたし、白血球の一種である好中球が感染部位に集まっていく能力(遊走能)が低下します。つまり、免疫細胞が敵である細菌までたどり着きにくく、たどり着いてもうまく殺せない状態になるため、さまざまな感染症を発症しやすくなるのです。
この遺伝子変異は、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の働きにも影響します。メラノサイトで作られたメラニン色素は通常、細胞内のメラノソームという小胞の中で運ばれて皮膚や毛髪に着色されます。しかし、CHS1/LYST遺伝子に異常があるとメラノソーム内の色素顆粒の輸送に支障をきたし、メラニンが適切に運ばれないために皮膚や髪に色が付きにくくなり、部分的白子症の原因となります。
遺伝形式は常染色体潜性遺伝といい、両親から受け継ぐ一対の遺伝子が2つとも変異すると発症します。そのため、患者さんの両親は多くの場合健康な保因者であり、近親婚ではこの病気の子どもが生まれる確率が高くなることが知られています。世界でも報告例が少ない超希少疾患で、推定患者数は全世界で200〜500例程度、男女差なく発生するとされています。
チェディアック・東症候群の前兆や初期症状について
チェディアック・東症候群の症状は生後まもなくから幼児期に現れることがほとんどです。赤ちゃんのときから髪の毛や瞳の色が薄い銀色〜薄茶色であったり、皮膚が色白であることに気付かれる場合があります。
また、生後数ヶ月〜乳児期にかけて肺炎などの重い感染症にかかったり、何度も入退院を繰り返すことが初期のきっかけとなることがあります。特に気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症や、皮膚の傷口が化膿して膿が出るような皮膚感染症を繰り返す点は、本症の重要な手がかりになります。
幼児期には、発熱が続いたり抗菌薬を使ってもなかなか治らない感染症が起きることで、初めて免疫不全が疑われるケースもあります。軽い怪我でもあざができたり鼻血が頻繁に出る場合は、免疫だけでなく血液の異常が疑われます。
受診すべき診療科としては、まずはお子さんの場合小児科を受診するのがよいでしょう。皮膚の色素異常が目立つ場合は皮膚科、眼の色が薄く視力障害などがあれば眼科などで相談することもありますが、最終的な診断や治療の方針決定には総合的な判断が必要なため、大学病院など高度医療機関の小児科に紹介されます。
大人になるまで診断されなかった軽症の例では、内科医が診療を行うことも考えられますが、通常は幼少期に診断が付くことがほとんどです。
チェディアック・東症候群の検査・診断
チェディアック・東症候群の診断には、主に血液検査と遺伝子検査が用いられます。血液検査では白血球や血小板など血液中の細胞の数や機能、形態の異常がないかを詳しく調べます。具体的には、顕微鏡で血液の塗抹標本を観察し、白血球の中に通常は見られない大きな顆粒が存在するかどうかを確認します。
この病気では好中球などの白血球内部に直径が大きな巨大顆粒が生じることが知られており、その所見が診断の手がかりになります。さらに、白血球の中でもNK細胞や細胞障害性T細胞の働きを調べる特殊な検査を行い、それらの免疫細胞の機能低下を確認します。加えて、必要に応じて患者さんの遺伝子を調べる遺伝子検査を行い、CHS1/LYST遺伝子の変異の有無を調べます。遺伝子に病的な変異が見つかれば確定診断となります。
チェディアック・東症候群の治療
チェディアック・東症候群の治療では、感染症への対応と根本的な治療が主になります。
現在、この病気を完治させるための唯一の根本治療は造血幹細胞移植です。
造血幹細胞移植とは、骨髄などに含まれる血液を作る元となる細胞(造血幹細胞)を健康なドナーから提供してもらい、患者さんの身体に移植する治療法です。これにより患者さんの体内で新たに正常な免疫細胞や血球が作られるようになり、免疫不全を改善することが期待できます。できるだけ早期に適切なドナーを見つけて造血幹細胞移植を行うことが推奨されます。移植が成功すれば免疫不全そのものは改善し、感染症に対する抵抗力が飛躍的に向上する可能性があります。
また、感染症に対する治療と予防も重要です。免疫不全そのものの治療には時間がかかるため、それまでの間は感染症を予防し、早期に治療することが重要です。具体的には、広域スペクトルの抗菌薬を予防的に投与したり、感染の徴候があればただちに入院加療して点滴抗生剤で治療します。また、免疫機能を少しでも補うためにインターフェロンγという免疫調節薬を用いることがあります。インターフェロンγは本来体内で作られるタンパク質の一種で、投与することで白血球の殺菌能力を高め、重い感染症の発生を減らす効果が期待されます。
しかし、造血幹細胞移植を行っても皮膚や毛髪の色素異常や神経系の症状が劇的に治るわけではありません。そのため、これらの症状に対しては適切な支持療法が行われます。例えば皮膚の色素が薄いことで日光に対する過敏症(光過敏症)がある場合は、日焼け止めクリームを塗ったり帽子や長袖を着用するなどの紫外線対策を徹底します。
けいれん発作が見られる患者さんには抗けいれん薬を用いて発作を抑える治療を行います。歩行のふらつきなど運動機能の低下が進んでいる場合には、転倒防止や生活の質の向上のために車いすや歩行器の使用を検討することもあります。
このように、それぞれの症状に合わせたリハビリテーションや内科的治療を組み合わせ、患者さんができるだけ日常生活を送りやすいようサポートしていきます。
チェディアック・東症候群になりやすい人・予防の方法
チェディアック・東症候群は遺伝子の変異によって起こる病気であり、生活習慣など後天的な要因で発症するものではありません。そのため、基本的に誰でも偶然にこの遺伝子変異を両親から受け継いでしまえば発症する可能性があります。
まれな疾患のため一般集団で心配する必要はほとんどなく、患者さんのご家族など限られた状況で注意が必要となります。両親がともにCHS1/LYST遺伝子の変異を保因している場合、子どもに発症する確率は25%(4人に1人)です。逆にいえば、兄弟姉妹で同じ病気の患者さんが複数いることもあります。また、近い血縁同士の夫婦では、たまたま両親が同じ変異遺伝子の保因者である可能性が高くなるため、非血縁の夫婦に比べてこの病気の子どもが生まれる頻度が高くなると考えられます。
予防の方法も同様で、現時点でこの病気の発症そのものを完全に予防する方法は確立されていません。遺伝子の組み合わせによって偶然起こる疾患であるため、一般の方が特別な対策を講じて発症を避けることは困難です。ただし、患者さんのご家族に保因者がいる場合や、ご両親が血縁関係にある場合には、事前にリスクを把握することが可能です。
例えば、すでにお子さんが本症と診断されているご夫婦が再び子どもを望む場合、遺伝カウンセリングを受けて次のお子さんが発症する確率や、出生前診断の選択肢について専門医と相談することができます。また、出生後であっても兄弟姉妹について遺伝学的検査を行い、将来的にお子さんが保因者かどうかを知ることで、お孫さん世代に病気が出る可能性を考慮した家族計画を立てることも可能です。遺伝カウンセリングでは、遺伝の専門医が家系図をもとに発症リスクを詳しく説明してくれるので、心配な場合は主治医に相談して紹介してもらうとよいでしょう。
関連する病気
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参考文献




