

監修医師:
五藤 良将(医師)
目次 -INDEX-
ウィスコット・アルドリッチ症候群の概要
ウィスコット・アルドリッチ症候群は、血小板減少、湿疹、易感染性(いかんせんせい:感染症にかかりやすい状態)を特徴とした原発性免疫不全症の一種です。
まれな疾患であり、日本国内では約60例が報告されています。
出典:小児慢性特定疾病情報センター「ウィスコット・アルドリッチ(Wiskott-Aldrich)症候群 概要」
原発性免疫不全症とは、生まれつき免疫系に異常のある疾患の総称で、感染症への抵抗力が低くなり、重篤な感染症を引き起こしやすくなります。
ウィスコット・アルドリッチ症候群は、WAS遺伝子の変異が原因で発症します。
X連鎖染色体劣性形式をとるため、母親から男児に遺伝することが多いです。
症状の程度は患者によって異なり、重篤な出血や感染症を引き起こし死に至るケースもあります。
検査としては、症状の確認や血液検査、遺伝子解析をおこないます。
診断には遺伝子解析が必須で、WAS遺伝子の変異を確認することで確定診断がおこなわれます。
治療は症状に対する支持療法だけでなく、乳幼児期から根治療法も検討します。
根治療法である造血幹細胞移植を行わない場合、平均生存年齢は11歳と言われています。
出典:厚生労働科学研究費補助金事業 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)分担研究報告書「ウィスコット・アルドリッチ(Wiskott-Aldrich)症候群」
ウィスコット・アルドリッチ症候群は患者によって症状や重症度が異なるため、専門医による適切な管理と治療方針の決定が重要です。

ウィスコット・アルドリッチ症候群の原因
ウィスコット・アルドリッチ症候群は、X染色体上にあるWAS遺伝子の変異によって引き起こされます。
WAS遺伝子は「WASP」という免疫系に関わるタンパク質を作る働きをしています。
WAS遺伝子に変異が生じるとWASPが正常に機能しなくなり、免疫系のT細胞やB細胞に機能不全が生じ、細菌やウイルスに対する抵抗力が低下して感染症にかかりやすくなります。
また、血小板が小さくなったり、数が減少したりするため、出血しやすくなる症状が現れます。
ウィスコット・アルドリッチ症候群は、X染色体連鎖劣性遺伝形式をとるため、母親が遺伝子異常を持っている場合、産まれてくる男児に発症する可能性が高くなります。
ただし、ごくまれに女児にも発症例が報告されています。
ウィスコット・アルドリッチ症候群の前兆や初期症状について
ウィスコット・アルドリッチ症候群の主な症状には、出血傾向、湿疹、易感染性が挙げられます。
血小板の凝集能(血小板同士が集まって血を止める働き)の低下もみられるため、出血しやすくなるだけでなく、一度出血すると血が止まりにくくなります。
具体的には、生まれた直後から、血便や皮下出血、紫斑(しはん:皮膚の下に出血して皮膚に紫色のあざができた状態)などが現れます。
出血傾向が強い場合は、頭蓋内出血や肺出血といった命に関わる病気に陥ることもあります。
また、アトピー性皮膚炎に似た湿疹が現れるのも特徴です。
乳幼児期から現れ、なかなか治りにくいとされています。
免疫不全によって、細菌やウイルス、真菌などのさまざまな感染症に罹患しやすくなります。
繰り返し発熱したり、風邪症状が長引いたりすることが多く、乳児期から中耳炎、肺炎、副鼻腔炎、皮膚感染症、髄膜炎などを繰り返し発症します。
感染症のかかりやすさや重症度には個人差がありますが、頻繁に感染を繰り返す場合には免疫不全の可能性を疑う必要があります。
さらに、自己免疫性溶血性貧血、血管炎、腎炎、関節炎、炎症性腸疾患、悪性リンパ腫などを合併することもあります。
出生後に少しでも疑われる症状が見られたら、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
ウィスコット・アルドリッチ症候群の検査・診断
ウィスコット・アルドリッチ症候群の診断は、臨床症状の確認や血液検査、遺伝子解析によっておこなわれます。
臨床症状の確認では、皮下出血や湿疹の有無、感染症に伴う所見を詳しく調べます。
家族歴の有無も重要で、特に母親に血小板減少や免疫不全の既往がある場合には、遺伝的背景を考慮する必要があります。
血液検査では、血小板、T細胞、免疫グロブリン(IgMの低下、IgEの上昇)などの値を調べます。
これらの検査で特徴的な所見が認められた場合、遺伝子解析によってWAS遺伝子の変異を確認します。
WAS遺伝子の変異が確認されれば、ウィスコット・アルドリッチ症候群と確定診断されます。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や遺伝性血小板減少症、血小板減少を伴う原発性免疫不全症、自己免疫性疾患などの類似疾患との鑑別もおこないます。
ウィスコット・アルドリッチ症候群の治療
ウィスコット・アルドリッチ症候群の治療には、症状を和らげるための支持療法と病気を根本的に治すための根治療法があります。
支持療法
支持療法では、感染症のコントロール、出血や湿疹の治療を中心におこないます。
感染症のコントロールとしては、感染症予防のための薬物療法をおこないます。
細菌やヘルペス属ウイルス、真菌などの感染を防ぐために、ST合剤や抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤を日常生活で予防的に投与します。
低ガンマグロブリン血症を発症している場合や重症感染症のリスクがある場合には、免疫グロブリン製剤を投与することもあります。
出血予防としては、必要に応じて血小板輸血をおこないます。
ただし、血小板輸血は頭蓋内出血や肺出血などの重篤な出血のリスクが高い場合に限られ、最小限の頻度で慎重に実施されます。
湿疹の治療としては、アトピー性皮膚炎と同様の治療をおこないます。
スキンケアとして、皮膚を清潔に保ち、低刺激性の保湿剤で乾燥を防ぐことが重要です。
皮膚のかゆみや炎症が強い場合には、抗炎症薬の内服薬または外用薬を使用します。
また、食物アレルギーがある場合は、原因となる食品の除去をおこないます。
根治療法
病気を根本的に治す治療として、造血幹細胞移植がおこなわれます。
造血幹細胞移植は、赤血球、白血球、血小板などの血液細胞を生み出す造血幹細胞を患者に移植する治療法で、免疫系や血小板の機能回復が期待できます。
造血幹細胞移植の成功率は移植時の年齢や合併症の有無によって左右されます。
特に5歳未満での移植は長期生存率が高いため、早期診断と治療計画の決定が重要です。
一方で、5歳以上ではさまざまな合併症により治療が成功する確率が低いことがわかっています。
出典:厚生労働科学研究費補助金事業 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)分担研究報告書「ウィスコット・アルドリッチ(Wiskott-Aldrich)症候群」
移植の適応を決定する際は、患者の状態や移植ドナーの状況を踏まえ、慎重に評価する必要があります。
ウィスコット・アルドリッチ症候群になりやすい人・予防の方法
ウィスコット・アルドリッチ症候群は遺伝性疾患であり、母親がX染色体の異常を保有している場合、生まれてくる男児に発症する可能性があります。
ウィスコット・アルドリッチ症候群の予防方法は、現在のところ確立されていません。
しかし、家族にウィスコット・アルドリッチ症候群の患者がいる場合、遺伝カウンセリングを受けることで、疾患の発症リスクについて確認できます。。
遺伝カウンセリングでは、専門の遺伝カウンセラーや医師が発症リスクや治療法、今後の対応について詳しく説明し、家族計画に役立つ情報を提供します。
ウィスコット・アルドリッチ症候群は、現在のところ予防が困難であるため、早期診断と適切な治療が重要となります。
関連する病気
- IgA腎症
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
- 遺伝性血小板減少症
- 原発性免疫不全症
- 自己免疫性疾患
参考文献




