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非典型溶血性尿毒症症候群
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

非典型溶血性尿毒症症候群の概要

非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS; atypical hemolytic uremic syndrome)は、以下の3つの症状が急激に悪化する病気です。
  • 溶血性貧血
  • 血小板減少
  • 急性腎障害

この病気は、体内の補体という免疫に関わる因子が過剰に働くことで発症します。補体は、細菌などの病原体を破壊する役割を持っています。通常、補体の活性化は体内でコントロールされ、不必要かつ過剰な活性化が起こらないように厳密に制御されています。

aHUSでは、遺伝子の変異により生まれつき補体のコントロールが難しい方が、感染症や分娩などをきっかけに補体の異常活性を起こし発症します。 補体が異常に活性化すると、病原体だけでなく、自分の血管の内側にある血管内皮細胞を傷つけます。すると、傷ついた血管内皮細胞に血小板が集まり血栓が形成されます。血栓によって血液中の赤血球が壊れることで貧血が起こり、血栓が血管を詰まらせることでさまざまな臓器障害を起こします。

このなかでは、腎障害は発症頻度が高い臓器障害です。場合によっては末期腎不全に至り透析が必要となることもあります。 正確な統計はありませんが、日本ではおよそ200人程度の患者さんが報告されています。小児に多い傾向がありますが、大人でも発症します。

非典型溶血性尿毒症症候群の原因

aHUSは補体の異常活性が原因とされていますが、なぜ補体が異常に活性化するかはわかっていません。 1つわかっているものとして、補体の活性化を調節する補体制御因子の先天的・後天的な機能異常が原因とされています。補体制御因子の機能異常は、以下の2つに分けられます。
  • 補体活性化の抑制因子の機能低下:H因子、I因子、CD46の病的遺伝子変異、抗H因子抗体
  • 活性化因子の機能亢進:B因子、C3の病的遺伝子変異

しかし、遺伝子検査でこれらの遺伝子変異がない患者さんも4割程度おり、別の原因遺伝子やほかの要因があることが考えられています。また、これらの遺伝子異常があっても全員がaHUSを発症するわけではありません。 なお、家族歴がある患者さんは全体の2,3割程度とされています。家族歴がなくとも発症する可能性があり、誰にでも起こりうる病気といえます。

非典型溶血性尿毒症症候群の前兆や初期症状について

aHUSの典型的な症状は溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害の3つです。これらによって以下のような症状が起こります。  

溶血性貧血

赤血球が体内で破壊され溶血することで、貧血が進行し、息切れ、疲れやすさなどの貧血症状が起こります。貧血によって全身のだるさも出現します。黄疸(目や全身の皮膚が黄色くなること)、褐色尿(コーラ色の尿)がみられる場合もあります。  

血小板減少

血小板が減少することで皮膚に点状や斑状の出血斑がみられます。  

腎機能障害

むくみ(浮腫)や、尿が出にくくなることがあります。重症になると、食欲低下、腹痛・下血などの消化器症状、けいれんや意識障害、発熱など多彩な症状が出る場合もあります。 もともと遺伝的な素因がある患者さんが、感染症や出産、臓器移植手術などをきっかけに発症する場合が報告されており、このような先行する症状や背景も重要です。 aHUSはまれな病気のうえ、出現する症状も患者さんにより異なるため、診断が難しいことがあります。初期の段階では風邪やほかの病気と区別がつきにくく、見逃されることも少なくありません。しかし、数日から数週間で急激に悪化するため注意が必要です。 症状に気付いたときには、できるだけ早く医療機関を受診することが大切です。特に腎臓や血液に関わる症状がある場合は、腎臓内科や血液内科の専門医につなげてもらえるよう、まずは一般内科で相談してみましょう。

非典型溶血性尿毒症症候群の検査・診断

aHUSの診断は、特定の検査だけで確定診断ができるわけではありません。さまざまな症状から除外診断を行い、治療を開始します。三大症状である溶血性貧血、血小板減少、腎機能障害が同時期に認められればaHUSを疑います。  

血液検査

血液検査では、腎機能の指標である血清クレアチニンを確認します。また、尿検査で尿蛋白や尿潜血を調べることで腎機能障害の程度を確認します。 溶血性貧血、血小板減少では、赤血球数や血小板数などをみる血算を確認するだけでなく、溶血の程度を反映するLDHやハプトグロビンも確認します。また、破砕赤血球(物理的に破壊されている赤血球)が出現すると本疾患を強く疑います。

除外診断

三大症状が出現する類似した疾患には、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、o-157などによる典型的な溶血性尿毒症症候群などがあります。これらの疾患を除外するために、ADAMTS13活性の測定や、便中の志賀毒素の検査が行われます。 自己免疫性疾患、悪性腫瘍、感染症などを背景に二次性TMA(血栓性微小血管症)を発症すると、aHUSと似た症状が出現します。必要に応じてこれらの疾患も除外します。

遺伝子検査

遺伝子異常があれば確定診断をつけることはできます。しかし、遺伝子検査は検査を委託しても結果が判明するまでに時間がかかること、40%程度の患者さんに遺伝子異常がないことが課題です。急激に悪化する疾患のため、現実的には除外診断をし速やかに治療を開始することが求められます。

非典型溶血性尿毒症症候群の治療

aHUSの治療は、血漿(けっしょう)療法と抗C5抗体薬による治療の2つがあります。 急性期には血漿療法、抗C5抗体薬のいずれも第一選択となっていることから、状況に応じて使い分けます。  

血漿療法

血漿療法(血漿交換、血漿輸注)は、急性期にのみ行われる治療です。血液中の液体成分である血漿を分離して、補体の異常な活性化を促す成分をすべて除去し、献血由来の正常な新鮮凍結血漿で血漿を置換する方法です。これを血漿交換といいます。血漿療法によって異常な補体関連蛋白を除去し、補体活性を軽減させることができます。 小児や新生児で血漿交換が難しい場合は、自身の血漿を除去せず注入のみ行われる場合もあります。  

抗C5抗体薬

抗C5抗体薬は、補体成分であるC5という成分の働きを抑えることで、補体経路の進行、増幅を抑える効果があります。 急性期の症状を改善させる効果だけでなく、維持期にも有効です。抗C5抗体は、現在エクリズマブ、ラブリズマブの2種類があります。維持期は、エクリズマブは2週に1回、ラブリズマブは8週に1回投与します。

aHUSの第一選択となる治療法の1つですが、髄膜炎菌などの一部の細菌による致命的な感染症のリスクが高まることが知られています。そのため、可能であれば治療開始前にワクチン接種をしておく必要があります。抗C5抗体薬による治療中に発熱を認めた場合は、すみやかに医療機関を受診し抗生剤治療を行う必要があります。

腎障害に対する治療

急性腎障害が重度の場合、一時的に血液透析が必要になる場合もあります。急性期を乗り越えた後も、維持透析が必要な高度の腎不全が残存する場合もあります。

非典型溶血性尿毒症症候群になりやすい人・予防の方法

aHUSの患者さんのおよそ60%程度に、補体制御に関わる遺伝子異常がみつかるとされています。しかし、遺伝子異常があっても必ずしも発症するわけではありませんので、過度に恐れる必要はありません。 aHUSはまれな疾患であり、予防のための方法が確立されていません。ただし、過去にaHUSを発症したことがある場合は、aHUSの再発の引き金になるものを避けるようにしましょう。感染症の予防をし、妊娠出産の際は事前に医師に相談をしましょう。

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