

監修医師:
鎌田 百合(医師)
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先天性低ガンマグロブリン血症の概要
免疫グロブリン(抗体)とは、体内の異物(抗原)を認識して生体反応を引き起こし、それを排除する働きをもつ重要な免疫タンパク質のことです。大きさや働きによって、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類に分かれます。
ガンマグロブリンは、免疫グロブリンを含む血清タンパク質を分類する際に使われる名称であり、実質的には免疫グロブリンと同じものを指します。
低ガンマグロブリン血症は、この免疫グロブリンが少なく、免疫系の働きが低下することで(免疫不全)、感染症を繰り返したり、アレルギー、がん、自己免疫疾患を発症しやすくなったりする病気です。
このうち、先天性低ガンマグロブリン血症は、免疫機能に関連する遺伝的な異常により、生まれつき免疫グロブリンの量が少なくなることで発症します。
症状が現れる時期は、関与する疾患の種類によっても異なり、生後半年〜2歳頃から出始めるものもあれば、成人後に初めて出るケースも知られています。
治療は不足しているグロブリンの補充や感染症への対策がありますが、原因のタイプや症状によっても異なります。
先天性低ガンマグロブリン血症の原因
先天性低ガンマグロブリン血症は、免疫に関わる遺伝子や染色体の異常によって免疫の働きがうまくいかなくなることで生じます。
このような異常の種類に応じて、それぞれに詳細な病名がついており、ここでは代表的なものを紹介します。
X連鎖性無ガンマグロブリン血症(X-linked agammaglobulinemia: XLA)
ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK遺伝子)の変異によって、対応するBtkタンパク質の働きが失われ、B細胞の成熟が妨げられます。B細胞は、抗体を産生する形質細胞のもとになる細胞です。
Btkの異常により形質細胞がつくられず、抗体が十分に産生されないため、免疫不全が生じます。この遺伝子はX染色体(性染色体)上に存在するため、X連鎖性の遺伝形式をとり、男性に多くみられます。
分類不能免疫不全症(Common variable immune deficiency: CVID)
B細胞、T細胞、樹状細胞などの免疫細胞に機能障害が起こることで、B細胞が形質細胞へと分化できず、抗体の産生が低下することを主体とする症候群です。
原因として、複数の遺伝子の変異に加え、遺伝子の働き方に影響するような変化が関与していると考えられています。責任遺伝子として、TACI、ICOS、CD19、CD20などが知られています。
乳児期の一過性低ガンマグロブリン血症(Transient hypogammaglobulinemia: THI)
生理的に免疫グロブリンの産生が低下する時期が延長することで、生後3〜6ヶ月頃に免疫グロブリンが減少し、2〜6歳頃までに正常化することが特徴とされています。原因は明らかになっていません。
その他の原因
このほかにも、IgAだけが減少または欠損する選択的IgA欠損症や、IgMがほかの免疫グロブリンに転換できないことでIgM高値となる高IgM症候群などが、先天性低ガンマグロブリン血症の原因として知られています。
先天性低ガンマグロブリン血症の前兆や初期症状について
先天性ガンマグロブリン血症では、免疫グロブリン(抗体)が少なくなることで、さまざまな症状が現れます。
一見すると、身体診察で目立った異常が見られないこともありますが、免疫の働きが弱まることで、日常生活のなかで繰り返す症状が出てくることがあります。
原因となる疾患によって現れやすい症状は異なりますが、長引く発熱や繰り返す感染症、アレルギー症状などが診断の手がかりになることがあります。
以下のような症状がみられた場合には、血液内科または小児科を受診してください。
感染症
細菌やウイルスに対する抵抗力が弱まり、中耳炎、肺炎、急性・慢性副鼻腔炎などを繰り返しやすくなります。
治るまでに何度も抗生物質が必要になるケースもあります。
また、気管支拡張症、尿路感染症、胃腸炎などが報告されているほか、髄膜炎や敗血症など、重篤な感染症を発症することもあります。
自己免疫疾患
免疫のバランスが崩れることで、本来は攻撃しないはずの自分の身体に対して、生体反応(自己免疫反応)が起こりやすくなります。
その結果、血球減少症、多発関節炎、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、甲状腺機能の異常、全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患を発症することがあります。
アレルギー症状
喘息、じんま疹、アレルギー性鼻炎などのアレルギー症状が出ることがあります。
一部では、アトピー性皮膚炎や食物・薬物アレルギーとの関連も報告されています。
悪性腫瘍(がん)
大腸がんやリンパ管悪性腫瘍、非ホジキンリンパ腫などのがんがみられることがあります。
その他の異常
リンパ節が腫れたり、肝臓や脾臓が大きくなったりすることがあります。
また、発育が遅れたり、下痢や腹痛などの消化器症状が出ることもあります。
先天性低ガンマグロブリン血症の検査・診断
低ガンマグロブリン血症では、IgG濃度が年齢相応の平均値よりも大きく低下しています。欧州免疫不全学会(ESID)では、健康な成人で5 g/L未満を診断基準のひとつとしていますが、日本国内では明確な基準は定まっていません。
IgGの低下に加えて、IgAやIgMといったほかの免疫グロブリンも低値を示すことがあり、これらを総合的に評価することが重要です。そのため、まずは血液検査で免疫グロブリンの値を調べます。
加えて、血球計算(CBC)、生化学検査、感染症・ワクチンに対する抗体価などの測定を行うことで、免疫機能の状態や、これまでの感染症に対する身体の反応を確認します。
さらに、これらの結果から低ガンマグロブリン血症が疑われた場合には、XLAやCVIDなどの背景を区別し、ほかの免疫不全症を除外するための追加検査が行われます。
例えば、フローサイトメトリーを用いてリンパ球(B細胞、T細胞)の種類や数を調べたり、必要に応じて胸部レントゲンやCT検査などが実施されることもあります。
先天性低ガンマグロブリン血症の詳しい原因を特定するためには、遺伝子の異常を調べる検査が行われます。
必要に応じて、特定の遺伝子を調べるシークエンス解析や、複数の遺伝子を一度に調べる遺伝子パネル検査、より広範囲なゲノム解析などが用いられ、診断の確定につながります。
先天性低ガンマグロブリン血症の治療
先天性低ガンマグロブリン血症に対する治療は、原因の種類や現れている症状によって異なります。
不足している免疫グロブリンを補うために、点滴による免疫グロブリン補充療法(IVIG)が行われることがあります。補充される免疫グロブリンは主にIgGです。
ただし、IVIGの投与によってアナフィラキシー(重いアレルギー反応)が生じやすいケースもあるため、原因や全身状態に応じて、治療の適応は慎重に判断されます。
また、背景となる疾患や重症度によっては、造血幹細胞移植が選択されるケースもあります。
ほかにも、活動性の感染症に対して抗生物質による治療が行われたり、血球の減少など自己免疫に関連する症状に対してステロイド(副腎皮質ホルモン)が使われることもあります。
先天性低ガンマグロブリン血症になりやすい人・予防の方法
先天性低ガンマグロブリン血症は、生まれつき免疫に関わる遺伝子や染色体に異常があることで発症するため、現時点では予防法は確立されていません。
ただし、原因のはっきりしない発熱が続く、感染症を何度も繰り返すといった症状がある場合は、早めに医療機関で相談することが大切です。
診断後は、医師の指導を受けながら、感染症やアレルギーへの対策を続けていくことが大切です。手洗いやマスクの着用といった日常的な感染予防策も有用です。
ワクチン接種については、抗体の欠損の程度やワクチンの種類によって、接種を控えるべき場合や推奨される場合が異なります。必ず医師と相談したうえで判断しましょう。
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参考文献




