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X染色体連鎖性低リン血症性くる病
菅原 大輔

監修医師
菅原 大輔(医師)

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2007年群馬大学医学部卒業 。 自治医科大学附属さいたま医療センター小児科勤務 。 専門は小児科全般、内分泌代謝、糖尿病、アレルギー。日本小児科学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医、臨床研修指導医。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の概要

X染色体連鎖性低リン血症性くる病(XLH)は、骨の石灰化(骨を丈夫にすること)の障害を特徴とする遺伝性の病気です。

「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」に含まれる病気で、遺伝子の変異により「FGF23」というホルモンが過剰に分泌されることにより発症します。

FGF23は血中のリンを低下させる働きがあるため、過剰分泌によって骨の形成に必要なリンが不足し、骨の変形や成長障害、骨折などの症状が出現します。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の診断は、身体所見の確認や血液検査、画像検査などの結果を総合的に判断することで行われます。

主な治療はリンやビタミンD製剤、過剰なFGF23を中和させるブロスマブなどがあります。

根治につながる治療法は確立されていませんが、適切な薬剤を使用することで多くの人が大きな問題なく日常生活を送れています。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病は、進行によって移動に杖や車椅子が必要になる場合もあります。骨の痛みや変形などの症状を少しでも感じた場合は、できるだけ早く医療機関を受診して適切な治療を受けることが大切です。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の原因

X染色体連鎖性低リン血症性くる病は遺伝子の変異によって発症する病気です。X染色体にあるPHEX(フェックス)という遺伝子に変異が生じることで発症することが判明していますが、どのような機序で遺伝子変異が起きるのかは解明されていません。

PHEX遺伝子の変異があるとFGF23の分泌・作用が過剰になり、血中のリンに作用します。

本来、リンは骨の石灰化の役割を担っているミネラルであるため、FGF23は尿へリンを排泄したり、腸管からのリン吸収が抑制されることで血中リン濃度が低下する「低リン血症」を招きます。低リン血症によって、全身の骨にさまざまな症状が出現します。 また、X染色体連鎖性低リン血症性くる病は、親から子へ遺伝するケースが多いです。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の前兆や初期症状について

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の初期症状は骨の痛みや変形です。

歩行時に下肢の骨に体重がかかることで、骨や関節が変形し、О脚やX脚になるケースがしばしばあります。ぎこちない歩き方や頻繁に転ぶ様子が見られることもあります。

また、同年齢の子どもと比べて低身長や成長の遅さが目立つこともあります。関節周辺の骨が変形することで、膝や足首などの関節が腫れるケースもあります。

ほかにも、歯の萌出(ほうしゅつ:歯が生えてくること)の遅れや形成異常、むし歯などが見られることも多いです。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の検査・診断

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の診断は、視診や問診、血液検査、画像検査などを組み合わせておこないます。

視診・問診

視診や問診では、骨の変形や成長の遅れなどの特徴的な症状について確認します。また、X染色体連鎖性低リン血症性くる病は遺伝性の病気であるため、家族歴の有無は診断において重要な要素です。

血液検査

血液検査ではリンやアルカリフォスファターゼ(ALP)などの数値を調べます。リンは低値を示し、リンを分解する酵素のアルカリフォスファターゼは高くなる傾向があります。

血液中のFGF23を測定することが診断に有用で、X染色体連鎖性低リン血症性くる病ではFGF23が上昇します。

画像検査

骨幹端の骨の中央部と端の間がコップ上に窪む杯状陥凹(はいじょうかんおう)や、骨幹線の拡大や毛羽立ちといったくる病の所見が認められます。 大人では骨の変形やLooser’s zone(骨を横断しない骨折の所見)などの特徴的な所見が認められることがあります。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病の治療

X染色体連鎖性低リン血症性くる病は、リン製剤と活性型ビタミンD製剤を併用し骨の成長や強度を適正に保つことを目的として治療します。歯の症状が出ている場合は歯科治療もおこないます。

薬物療法

薬物療法では骨の痛みを緩和する薬剤や、リン製剤、活性型ビタミンD製剤を組み合わせます。 リン製剤は体内で不足しているリンを補充するもので、活性型ビタミンD製剤はリンの作用をサポートし、骨を丈夫にする効果が期待できます。 ほかにもFGF23の働きを抑える薬が開発され、生涯にわたって継続して投与することで、症状の改善が期待できます。なお近年、FGF23の働きを抑える薬であるブロスマブが開発されました。この薬はFGF23と結合し、FGF23の過剰な作用を中和することでリン濃度を上昇させ、症状を改善させます。 どの薬剤においても、定期的な検査によって治療の効果や副作用の有無を確認しながら、用量を調整していくことが重要です。

歯科治療

X染色体連鎖性低リン血症性くる病は、歯の主体であるエナメル質や象牙質(ぞうげしつ)が弱くなる傾向があるため、むし歯のリスクが高まります。1日数回の歯磨きや定期的な歯科検診の受診が大切です。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病になりやすい人・予防の方法

X染色体連鎖性低リン血症性くる病は遺伝性疾患であるため、家族歴がある場合は発症しやすいといえます。

現時点で予防する方法は確立されていませんが、家族の中にX染色体連鎖性低リン血症性くる病を患っている人がいる場合は、できるだけ早期に医療機関へ相談しましょう。

症状が出現する前から適切に対応することで、骨の変形や痛みなどの症状を予防できる可能性が高まります。

日常生活においては、十分な水分を取ることや栄養バランスの良い食事を心がけることにより、骨を含む全身的な健康維持に役立ちます。 身体を動かす際は、骨や筋肉に過度の負担をかけないよう注意しながら、適度に運動することで骨や筋肉の機能を維持します。 また、歯の問題も起こりやすいため、定期的な歯科検診と毎日の歯磨きで、むし歯や歯茎の炎症などのリスクを減らすことにつながります。 できるだけ早い段階で発見し、適切な治療を始めることで、症状の進行を抑えて生活の質を高めることが期待できます。

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