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急性下肢動脈塞栓症
中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

急性下肢動脈塞栓症の概要

急性下肢動脈塞栓症は、突然足の動脈が閉塞し、血流が途絶えることで発症する緊急性の高い疾患です。主な原因は、心臓や他の動脈でできた血栓が足の動脈に流れ込み、血管を塞いでしまうことです。

発症すると、激しい痛みや冷感、しびれ、運動麻痺などが急速に進行し、放置すると足の壊死に至る可能性があります。特に、心房細動などの不整脈を持つ人や、動脈硬化が進んでいる人は発症リスクが高いとされています。

発症後は早期発見と迅速な治療が非常に重要であり、時間との勝負となるため、症状が現れたら直ちに医療機関を受診する必要があります。治療法としては、血栓溶解療法や血栓除去術、バイパス手術などがあり、症状の程度や発症からの時間によって選択されます。

急性下肢動脈塞栓症の原因

急性下肢動脈塞栓症の主な原因は、心臓でできた血栓が血流に乗って足の動脈に流れ込み、血管を塞いでしまうことです。

特に、心房細動という不整脈は、心臓内で血栓ができやすい状態を引き起こすため、重要な原因の一つとされています。また、動脈硬化が進むと、血管の内壁にプラークと呼ばれる塊ができ、これが剥がれて血栓となることがあります。

さらに、動脈瘤(動脈のコブ)があると、その部分で血流が滞りやすく、血栓ができやすくなります。まれな原因としては、腫瘍や外傷による血管の損傷が挙げられます。

これらの原因により、足の動脈が突然塞がれると、血液に含まれる酸素や栄養が組織に供給されなくなり、急速に症状が悪化します。

急性下肢動脈塞栓症の前兆や初期症状について

急性下肢動脈塞栓症の初期症状は、突然の激しい足の痛みや冷感、しびれなどです。急性下肢動脈閉塞症の中には、症状がないケースもあります。

これらの症状は、発症後、数時間以内に急速に進行します。足の感覚がなくなったり、運動麻痺の症状が現れたりする場合は、病気の発症から時間が経過していることを意味する危険なサインです。また、歩くときに足の痛みが生じて、休むと症状が消失する一連の症状(間歇性跛行)が現れる可能性があります。

特に、安静時にも激しい痛みがある場合や、足の色が異常に白い、または紫色になっている場合は、緊急性が高いサインです。

これらの症状は、血流が途絶えることで組織が酸素不足になり、神経や筋肉が正常に機能しなくなるために起こります。早期に治療を受けなければ足の切断に至ったり、生命の危機に陥ったりします。

そのため、足に違和感を覚えたり、症状が現れたりしたら直ちに医療機関を受診することが必要です。

急性下肢動脈塞栓症の検査・診断

急性下肢動脈塞栓症の診断には、まず問診と身体診察が行われます。医師は、症状の経過や既往歴などを詳しく聞き取り、足の脈拍や温度、色などを確認します。

次に、ABI検査(足関節上腕血圧比)を行い、足首と腕の血圧を比較して血管の狭窄や閉塞を評価します。カラードップラー検査では、超音波を使って血流の状態をリアルタイムで観察し、血管の詰まり具合や血流の速度を測定します。

さらに、CTアンギオグラフィーやMRIアンギオグラフィーなどの画像検査を行い、血管の状態を詳細に確認します。これらの検査で診断が確定できない場合は、血管造影検査が行われます。血管造影検査は、カテーテルを足の付け根の動脈から挿入し、造影剤を注入してX線撮影を行うもので、血管の詰まり具合や側副血行路の状態を正確に把握できます。

これらの検査結果をもとに、急性下肢動脈塞栓症と診断します。

急性下肢動脈塞栓症の治療

急性下肢動脈塞栓症の治療は発見後緊急に行われ、血流を迅速に再開して足の壊死を防ぎます。治療法は、発症からの時間や症状の重症度、患者の全身状態などを考慮して選択されます。

血栓溶解療法

血栓溶解療法は、発症後比較的早期(通常は数時間以内)に行われる治療法です。

カテーテルと呼ばれる細い管を足の付け根などの動脈から挿入し、詰まった血管まで進めます。そして、カテーテルから血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)を注入し、血流を再開させます。

この治療法は、手術に比べて身体への負担が少ないというメリットがありますが、脳出血や消化管出血など出血のリスクがあるため、患者の状態を慎重に評価する必要があります。

また、血栓が完全に溶解しない場合や血管の狭窄が残る場合には、追加の治療が必要になることがあります。

血栓除去術

血栓除去術は、カテーテルや手術によって血栓を直接取り除く治療法です。

カテーテルを用いる場合は、血栓溶解療法と同じように、血栓が詰まった血管までカテーテルを挿入し、吸引や特殊な器具を使って血栓を取り除きます。

手術の場合は皮膚を切開し、血管を露出させて血栓を取り除きます。血栓除去術は、血栓溶解療法に比べて血栓を確実に除去できるというメリットがありますが、身体への負担が大きいため、患者の状態によっては選択できない場合があります。

また、血栓を取り除いた後に、血管の狭窄や損傷が見つかる場合には、追加の治療が必要になることがあります。

バイパス術

バイパス術は、詰まった血管を迂回する新しい血管を作る手術です。

患者の血管(通常は足の静脈)や人工血管を使用し、詰まった血管の上下をつなぎ合わせます。バイパス術は、血栓除去術で血管の再開通が難しい場合や血管の狭窄が高度な場合に選択されます。

この手術は、血流を長期的に改善できるというメリットがありますが、身体への負担が大きく、手術後の合併症のリスクもあるため、患者の状態を慎重に評価する必要があります。

また、バイパス手術後も、定期的な経過観察や抗血小板薬などの薬物療法が必要になります。

急性下肢動脈塞栓症になりやすい人・予防の方法

急性下肢動脈塞栓症は、特定の危険因子を持つ人に発症しやすいことが知られています。

重要な危険因子は、心房細動といった不整脈です。心房細動があると、心臓内で血栓ができやすく、これが血流に乗って足の動脈を塞いでしまうことがあります。

また、動脈硬化が進んでいる人もリスクが高く、特に糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を持つ人は注意が必要です。喫煙も動脈硬化を進行させるため、重要な危険因子となります。

予防のためには、これらの危険因子を管理することが重要です。具体的には、生活習慣病の適切な管理や禁煙、適度な運動、バランスの取れた食事などが挙げられます。

定期的な健康診断を受け、心臓や血管の状態をチェックすることも大切です。特に、高齢者や心臓病を持つ人は、定期的な検査を受けることをおすすめします。

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