

監修医師:
鎌田 百合(医師)
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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。
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血小板機能異常の概要
血小板とは、骨の中にある骨髄という造血組織で作られて、血液中を循環している細胞です。血管壁が損傷した際にその傷口に集まって固まり(凝集)、止血する役割を果たします。 血小板の数が正常でも、その働き(機能)に異常があると凝集が十分にできません。すると止血するのに時間がかかったり止血困難になったりすることがあります。この状態を血小板機能異常といいます。 血小板機能異常が起こっている場合、けがで傷を作った場合に止血が困難になるだけでなく、何もしていないのに血が止まらない、自然出血のリスクが高まります。 この記事では、血小板機能異常が起こる原因や症状、治療法を詳しく解説します。血小板機能異常の原因
血小板機能異常は、大きく遺伝性と後天性に分かれます。遺伝性
遺伝性の疾患は、疾患によりますが、たいていは若い頃から症状が出現します。 遺伝性の血小板機能異常で頻度の高い病気に、フォン・ウィルブランド病があります。この病気は、血小板の数は正常ですが、血小板の機能に影響を与えるフォン・ウィルブランド因子が欠乏しています。この結果、血小板機能異常をきたし、止血が困難になります。 ほかにも、グランツマン病、灰色血小板症候群、チェディアック・東症候群、ベルナール・スーリエ症候群などが血小板機能異常の原因になります。後天性
後天性とは、生まれた後に発生した病気をいいます。後天性の血小板機能異常は、特定の薬や疾患で発症するとされています。薬
ADP受容体阻害薬(クロピドグレル、プラスグレルなど)、アスピリンなどの抗血小板薬は、血小板の凝集を阻害し機能低下させる薬です。脳卒中の予防や心筋梗塞、狭心症の際に使用されることがあります。 また、非ステロイド系性消炎鎮痛薬(NSAIDs)も同様の機序で起こしやすいとされています。ほかにも、抗生物質、EPA(エイコサペント)製剤なども血小板の機能異常をきたすとされています。疾患
以下のような疾患が後天性の血小板機能異常の原因となりうるとされています。さまざまな疾患が血小板の機能に関与するとされており、原因となりうる疾患は多岐にわたります。- 肝硬変
- 腎疾患(慢性腎不全)
- 全身性エリテマトーデス
- 骨髄増殖性腫瘍
- 骨髄異形成症候群
- 多発性骨髄腫(異常タンパクによる血小板機能低下)
- 体外循環の使用歴
- 弁膜症(大動脈弁狭窄症など)
- 後天性フォン・ウィルブランド病
血小板機能異常の前兆や初期症状について
血小板機能異常は、出血が起こりやすく、血が止まりにくくなります。起こりやすい症状について解説します。粘膜出血
出血症状は、粘膜からの出血や皮膚表層の出血が主体とされています。 鼻出血、歯肉出血(歯茎からの出血)、紫斑(皮膚の紫のあざ)が起こることがあります。特になにもしていないのに出血する場合もあります。さらに、ただ出血するだけでなく、圧迫などの止血処置を行ってもなかなか血が止まらないことが特徴です。粘膜以外からの出血
まれですが、表層ではない部分からの出血がみられることがあります。胃や腸などからの出血(消化管出血)によって吐血や下血が起こる場合があります。また、血尿がみられたり、頭部打撲によって頭蓋内出血を起こすこともあります。 一方で、関節内出血や筋肉内出血などの、深部出血といわれる出血はほとんどないと言われています。 出血の症状や部位、程度は、個々によってさまざまです。 血小板機能異常が疑われる場合は、血液内科で精査加療が行われます。しかし、出血をしていて止まらない場合は、まずは急いで止血をする必要があります。鼻出血であれば耳鼻咽喉科を、歯肉出血は口腔外科を、消化管出血であれば消化器内科を受診し、止血処置を受けましょう。血小板機能異常の検査・診断
出血しやすい、出血が止まらないなどの症状がみられた場合、診断のために以下のようなことを行います。発症時期の確認
まずは先天性の異常か後天性の異常かを判断します。生後間もなく出血症状が認められる場合は、遺伝性の病気が疑われます。内服薬の確認
血小板機能異常のなかでも頻度が高いのは薬剤性によるものです。 そのため、現在内服している薬を漏れなく確認し、血小板の機能異常をきたすような薬剤を使用しているかどうか判断します。 例えば、アスピリンは、血小板の機能異常によって粘膜出血を起こしやすいことが知られています。ほかにも、ADP受容体阻害薬、抗生剤の使用歴や、解熱鎮痛剤としてのNSAIDsの使用の有無などを確認します。既往歴の確認
血小板の機能に影響する病気は数多くあります。そのため、既往歴を確認しどのような疾患をもつのかを確認します。血液検査
検査では、まずは血小板の数が少ないのか、機能が低下しているのかを確認します。 血液検査で血小板数を測定します。血小板機能異常であれば、血小板数は正常です。また、血液の凝固に関与するプロトロンビン時間(PT)、トロンボプラスチン時間(APTT)も測定します。これらの異常がすべてない場合に、血小板機能異常を疑います。 場合によっては血小板凝集機能検査という検査が行われることもあります。血小板を活性化させる物質を添加し、血小板が正常に反応するかどうかの検査です。異常がみられた場合、血小板機能異常が疑われます。 なお、以前は出血時間測定が行われていたこともありましたが、安定した結果を得ることが難しい検査で、かつ侵襲的な検査であることから現在はあまり行われておりません。血小板機能異常の治療
血小板機能異常は、以下のような治療が行われます。原因薬剤の中止
血小板機能異常を起こす薬を内服している場合、可能な限り中止します。 しかし、アスピリン製剤やADP受容体阻害薬は、脳卒中や心筋梗塞の再発予防など、さまざまな理由で使用が必要な薬剤です。中止することで脳卒中や心筋梗塞を発症するリスクがあります。そのため、出血の状況と薬剤の中止によるリスクなどを総合的に考えて中止の判断がされます。原因疾患の治療
血小板機能異常をきたす原因疾患が背景にある場合は、その治療をすることで血小板機能が回復する可能性があります。出血の治療
現在出血が起こっている場合は、抗線溶薬(トラネキサム酸)が使用される場合があります。また、鼻出血、口腔出血などの表在出血であれば直接圧迫止血を行います。 先天性の血小板機能異常の場合、出血予防としてε-アミノカプロン酸やトラネキサム酸など抗線溶薬を服用します。 フォン・ウィルブランド病の場合は、止血のためにデスモプレシン(DDAVP)が使用されることがあります。血小板輸血
上記のような止血処置を行っても血が止まらず生命を脅かす可能性がある場合、血小板輸血が行われる場合があります。生活指導
日常生活では、重篤な出血を回避する必要があります。以下のようなことに注意して出血リスクを抑えます。- 怪我をしやすいスポーツなどの運動を控える
- 転倒に注意する
- 出血が起こった場合は、圧迫できる場合は圧迫止血を行う
血小板機能異常になりやすい人・予防の方法
さきほど提示したような疾患を持っている場合、血小板機能に異常をきたすことがあります。さらに、血小板機能異常を起こしやすい薬剤を使用している場合は、出血の程度によって薬剤中止が必要となる場合があります。 血小板異常をきたしやすい疾患があったり疑わしい内服薬がある患者さんで、出血しやすい、出血が止まらないといった場合は、はやめにかかりつけの医療機関を受診しましょう。関連する病気
- 血小板減少症
- 特発性血小板減少性紫斑病
- von Willebrand病
参考文献




