

監修医師:
五藤 良将(医師)
未熟児貧血の概要
未熟児貧血は、早産や低出生体重で生まれた赤ちゃんに多くみられる貧血症状のことです。日本では令和元年の時点で、赤ちゃん全体の約9.4%が低出生体重児(2500g未満)として生まれています。
低出生体重児の割合は、近年で最も低い数値が報告された1975年の5.1%と比較すると、約4%上昇しており、なおかつ先進国の中でも高い割合です。
未熟児貧血の状態になると赤ちゃんの体内の赤血球が不足し、全身へ十分な酸素が行き渡らなくなる可能性があるため、体重の増加がみられなかったり活力が低下したりするなどの症状が現れます。
ここ数年、低出生体重児の割合は大きくは改善されてはいませんが、医療技術の進歩による適切な治療で多くの赤ちゃんが健やかに成長できるようになっています。
定期的な検査や経過観察により赤ちゃんの健康状態を把握し、必要に応じて適切な治療を行うことが重要です。

未熟児貧血の原因
未熟児貧血が起こる主な原因は、赤ちゃんの体内において赤血球を産生する力が不十分であることです。
赤ちゃんは母親のおなかの中にいる間、母体から十分な鉄分を受け取り、出生後に必要となる赤血球を蓄えていますが、早産児や低出生体重児の場合はこの準備期間が十分でないため、赤血球が不足しやすい状態になるのです。
赤血球を作る細胞の働き自体が未熟で赤血球の産生が追いつかないことや、正期産(せいきさん:妊娠37週0日以降から妊娠41週6日までに生まれること)の赤ちゃんに比べて赤血球の寿命も短いことなどから、体内の赤血球が急速に減少することがあります。
他にも、エリスロポエチンという赤血球の産生を促すホルモンの分泌も、早産児や低出生体重児は十分でない場合が多いです。
未熟児貧血の前兆や初期症状について
未熟児貧血の初期症状として、皮膚や唇、爪の色が通常より白っぽくなることがあります。これは赤血球の不足により、身体の末端まで十分な酸素が行き渡りにくいためです。
また、貧血が進むと赤ちゃんの活力が低下することがあるため、普段より哺乳力が弱くなったり、授乳中すぐに眠ってしまったりするなどの様子が見られます。
体重が増えなかったり増加のペースが緩やかになったりすることも、注意を要する症状の1つです。他にも、体内の酸素不足を補おうとするために呼吸が早くなる場合や頻脈(ひんみゃく:脈が速くなること)になる場合もあります。
赤ちゃんは自分で症状を訴えることができないため、日頃から様子をよく観察し、少しでも変化がある場合や不安に思う場合は早めに医療機関を受診しましょう。
未熟児貧血の検査・診断
未熟児貧血は主に血液検査によって診断します。血液検査では貧血の程度を把握するために、赤血球やヘモグロビン、ヘマトクリットなどの数値を調べます。
赤ちゃんの採血は踵(かかと)からおこない、針を刺す際の痛みもできる限り抑えられるよう配慮します。他にも赤ちゃんの体重増加の様子や皮膚の色、活気の有無なども観察します。
必要に応じて鉄分の貯蔵状態を示すフェリチン値や、赤血球の産生に関わるエリスロポエチンの値を調べる場合もあります。
未熟児貧血の治療
未熟児貧血の主な治療はエリスロポエチンや鉄剤の投与、輸血療法です。
エリスロポエチンは腎臓で分泌されるホルモンで、赤血球の産生を促進する働きがあります。
早産児や低出生体重児は腎臓の働きが成熟しておらず、エリスロポエチンの分泌が不十分なことがあるため、エリスロポエチン製剤を投与することで赤血球の産生を促進します。
また、ヘモグロビンは鉄分を材料としているため、シロップや顆粒の形状をした鉄剤を投与することもあります。
未熟児貧血の程度が重い場合や赤ちゃんの状態が悪化している場合は、輸血が必要なケースもあります。輸血は速やかな赤血球の補充が可能で、赤ちゃんの貧血の改善につながります。
未熟児貧血になりやすい人・予防の方法
未熟児貧血は在胎週数(母体のおなかの中にいる期間)が短い場合や出生体重が少ない場合において発生のリスクが高くなります。
また、双子や三つ子などの多胎児の場合も早産児や低出生体重児になる可能性があるため、未熟児貧血になりやすいことが知られています。
これらを踏まえて未熟児貧血を予防するためには、赤ちゃんへしっかりと栄養が届くように妊娠中から十分に栄養を摂取するように心がけましょう。定期的に妊婦健診を受けて赤ちゃんの状態を把握することも大切です。
出生後は赤ちゃんの状態を日頃からよく観察しましょう。体重増加の経過や程度、皮膚の色や活動の様子、哺乳力などを注意深く見て、いつもと様子が違う場合は早めに医療機関へ受診するようにしましょう。
関連する病気
- 先天性造血異常症
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- 血液型不適合
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参考文献




