目次 -INDEX-

原発性骨髄線維症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

プロフィールをもっと見る
防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

原発性骨髄線維症の概要

原発性骨髄線維症は、骨髄(骨の中心部の組織)のなかにある造血幹細胞(さまざまな血液細胞をつくる細胞)の異常が生じることで発症する造血器腫瘍の一種です。
骨髄線維症には原発性骨髄線維症のほかに、基礎疾患が原因によって生じる二次性骨髄線維症もあります。
これらは主に50〜70代に多く見られ、男性の発症率は女性の約2倍と報告されています。

(出典:厚生労働科学研究費補助金 特発性造血障害に関する調査研究「Ⅵ骨髄線維症 診療の参照ガイド」

原発性骨髄線維症が発症すると、造血幹細胞の異常により、骨髄内で線維組織が異常に増殖し、骨髄の線維化や骨硬化が進行します。
正常な血液細胞の産生も阻害され、赤血球、白血球、血小板などの血液細胞が十分に作られなくなります。
また、異常な形状の赤血球が産生されることも特徴です。

症状としては、貧血による倦怠感や息切れ、脾臓の腫大による腹部膨満感や痛み、あざや歯ぐきの出血、体重減少、発熱などが現れます。
診断は血液検査や骨髄生検、遺伝子検査などを組み合わせておこなわれます。

治療法は重症度に応じて、薬物療法や放射線療法が選択されます。
根治的な治療法として同種の造血幹細胞移植もあり、特に若年患者や中〜高リスク群の患者に対して検討されます。
しかし、移植関連死亡率も高いため、患者の状態や予後を慎重に評価したうえで治療方針を決定する必要があります。

原発性骨髄線維症の原因

原発性骨髄線維症の原因は、造血幹細胞の遺伝子異常です。
特に「ヤヌスキナーゼ2(JAK2)」という遺伝子の異常が高頻度でみられます。

JAK2は免疫反応や細胞の増殖に関わる酵素を調節する役割を担っており、変異が生じると、造血幹細胞が異常に増殖し、さまざまな増殖因子やサイトカインが過剰に産生されます。その結果、骨髄の線維化や骨硬化が進行します。

JAK2 以外にも、細胞の機能に必要なタンパク質を作るカルレティキュリン遺伝子(CALR)や、細胞の増殖に関わるトロンボポエチン受容体遺伝子(MPL)の変異も原因になることがあります。

原発性骨髄線維症の前兆や初期症状について

原発性骨髄線維症の初期症状は、病状がある程度進行してから現れることが多く、健康診断をきっかけに偶然発見されることもあります。
最も一般的な症状は貧血に起因するもので、動悸や息切れ、倦怠感などが挙げられます。

病状の進行に伴い、脾臓や肝臓が髄外造血(骨髄以外で血液細胞が産生される病態)の役割を担うようになり、これらの臓器が腫大していきます。
特に脾臓の腫大は顕著に生じることが多く、腹部膨満感や腹痛などの腹部症状も現れます。

正常な血球産生が阻害されることで、血小板(出血時に血を固める血液細胞)が減少し、皮膚のあざや歯ぐきからの出血などの出血傾向が見られることがあります。
さらに、病状の進行とともに体重減少、発熱、過剰な寝汗などの全身症状も現れます。

原発性骨髄線維症の検査・診断

原発性骨髄線維症の診断は、血液検査や骨髄生検、遺伝子検査、画像検査などを組み合わせておこなわれます。
血液検査では貧血の有無や程度、血小板数の異常などを確認します。
骨髄生検では骨髄穿刺で骨髄液を採取し、線維化や骨硬化の程度、赤血球の形状の異常、造血細胞成分の減少などを確かめます。
遺伝子検査では、JAK2やCALR、MPLなどの遺伝子変異の有無を調べます。

さらに、腹部超音波検査やCT検査、MRI検査などの画像診断によって、脾臓や肝臓の腫大の程度を評価します。

これらの検査結果を総合的に判断することで、ほかの骨髄増殖性疾患との鑑別をおこない、原発性骨髄線維症の診断が確定します。

原発性骨髄線維症の治療

原発性骨髄線維症の治療方針は特定のリスク分類(MYSEC-PMの分類)に基づいて決定されます。
MYSEC-PMの分類では重症度に応じて、低リスク群と中間−1リスク群、中間-2リスク群、高リスク群の4つに分類します。

低リスク群と中間−1リスク群で臨床症状がない場合は、経過観察となることが一般的です。
しかし、脾臓腫大や全身症状が現れた場合は、JAK阻害剤という分子標的薬を用いた治療がおこなわれます。

中間-2リスク群と高リスク群での若年者で、重大な合併症がない場合は、同種造血幹細胞移植が推奨されます。
同種造血幹細胞移植は、造血幹細胞を抗がん剤や放射線によって破壊した後におこなわれます。
根治の可能性がある唯一の治療法ですが、移植に伴う合併症や致死的なリスクがあるため、慎重に検討する必要があります。

移植の適応にならない場合は、JAK阻害剤による治療が選択されます。

原発性骨髄線維症になりやすい人・予防の方法

原発性骨髄線維症は、特定のリスク因子が明確に特定されていない疾患です。
しかし、疫学的な特徴として、50〜70代の男性に多く発症する傾向があることが知られています。

現時点では、原発性骨髄線維症を予防する確立された方法はありません。
しかし、原発性骨髄線維症は初期段階で自覚症状がほとんどないため、早期発見が大切です。
できるだけ早期に適切な治療が開始できるよう、定期的に健康診断を受け、早期発見につなげることが推奨されます。
また、貧血症状や体重減少、発熱などの症状が持続する場合は、早めに医療機関を受診し、適切な検査を受けることも重要です。

関連する病気

この記事の監修医師