

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
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新生児高ビリルビン血症の概要
新生児期(生まれてすぐの時期)に、赤ちゃんの体内でビリルビンという物質が増えすぎて、皮膚や目の白い部分が黄色くなる状態を新生児高ビリルビン血症と呼びます。この状態は新生児の多くに見られ、通常は赤ちゃんの正常な生理現象(生理的黄疸)として発生します。しかし、場合によってはビリルビンが正常範囲を超えて増加することがあり(病的黄疸)、その際は適切な治療が必要となります。病的黄疸の場合、治療が遅れるとビリルビンが脳に影響を与え、重い後遺症を残す可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。新生児高ビリルビン血症の原因
赤ちゃんが生まれた直後は、胎児期の赤血球が急速に分解され、その過程でビリルビンが多く作られます。通常、ビリルビンは肝臓で処理され、便として体外に排出されます。しかし、生まれたばかりの赤ちゃんの肝臓は未熟なため、このビリルビンを十分に処理することができません。そのため、一時的にビリルビンが体内に蓄積し、黄疸として現れます。また、母乳を飲んでいる赤ちゃんは黄疸が長引くことがありますが、これは母乳に含まれる成分が腸でのビリルビンの再吸収を促すためです。ただし、これは自然な現象で、通常は心配ありません。新生児高ビリルビン血症の前兆や初期症状について
黄疸は通常、生後2-3日目ごろから現れ始め、4-6日目ごろに最も強くなり、その後徐々に改善していきます。生まれてすぐの時期は、赤ちゃんの皮膚が赤みを帯びているため、黄色というよりもオレンジがかった色に見えます。この赤みが落ち着いてくると、かえって黄色みが目立つようになることがあります。 特に気をつけなければならないのは、生後24時間以内に黄疸が現れる「早発黄疸」や、生後2週間以上続く「遷延性黄疸」です。また、24時間でビリルビン値が5mg/dL以上上昇する場合や、生後72時間以降に正期産児で17mg/dL以上、早産児で15mg/dL以上となる場合は病的黄疸として扱われ、特別な注意が必要です。 黄疸が強くなると、赤ちゃんに眠気が強くなる、母乳やミルクの飲みが悪くなる、筋肉の力が弱くなるなどの症状が現れることがあります。これらの症状は黄疸による脳への影響の初期サインとして重要です。このような症状が見られた場合は、すぐに医師に相談してください。新生児高ビリルビン血症の検査・診断
検査は主に二つの方法で行われます。一つは、皮膚に特殊な機械をあてて黄疸の程度を測る方法(経皮黄疸計)です。この検査は痛みがなく、簡単に繰り返し測定できるため、生後数日は1日2-3回、その後は1日1回程度測定します。ただし、この方法は目安であり、特に早発黄疸の場合や光線療法中は実際の血中のビリルビン値より低く測定されることがあります。 もう一つは血液検査です。これにより、血液中の総ビリルビン値やアルブミンと結合していない危険なビリルビン(アンバウンドビリルビン)の値を正確に測定することができます。アンバウンドビリルビンは血液脳関門を通過して脳に影響を与える可能性があるため、特に注意が必要です。新生児高ビリルビン血症の治療
治療が必要と判断された場合、主な治療方法は光線療法です。これは、特殊な青色の光を赤ちゃんに照射することで、体内のビリルビンを水溶性の物質に変え、排泄しやすくする治療法です。治療中は定期的に検査を行い、ビリルビンの値が十分下がったことを確認します。 早発黄疸や重症例では2-6時間ごとに、それ以外の場合でも6-24時間ごとに検査を行い、治療効果を確認します。治療を終了した後も24時間後に再検査を行い、ビリルビンが再び増加(リバウンド)していないことを確認してから退院となります。可能な限り、お母さんと赤ちゃんが同時に退院できるよう治療計画を立てます。新生児高ビリルビン血症になりやすい人・予防の方法
新生児高ビリルビン血症は、早産の赤ちゃんや出生体重が少ない赤ちゃんで起こりやすくなります。また、出産時に頭部に内出血(頭血腫)ができた場合や、赤ちゃんと母親の血液型が合わない場合、感染症にかかっている場合なども注意が必要です。同胞(きょうだい)に重い黄疸があった場合や、遺伝性の溶血性貧血の家族歴がある場合も要注意です。さらに、母乳やミルクの量が少なく、おむつの中の便の量が少ない赤ちゃんでも黄疸が強くなりやすいことが知られています。 予防としては、まず適切な頻度での授乳を心がけることが大切です。母乳やミルクをしっかり飲むことで腸の動きが活発になり、ビリルビンの排泄が促されます。また、定期的な検診を受けて、黄疸の程度を確認してもらうことも重要です。特に退院後数日は注意深く観察が必要で、気になる症状があれば、すぐに医療機関に相談することをお勧めします。また、早産や低出生体重、血液型不適合などのリスク要因がある場合は、より慎重な観察が必要となります。参考文献
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