

監修医師:
林 良典(医師)
内頸動脈狭窄症の概要
内頸動脈狭窄症(ないけいどうみゃくきょうさくしょう)は、脳へ血液を供給する重要な動脈である頸動脈が狭くなり、脳への血流が妨げられる病気です。
この疾患は主に動脈硬化が原因となり、血管内にコレステロールや脂質が蓄積してプラークを形成することで発症します。このプラークが血管内腔を狭窄させることで血流が低下し、最終的には脳梗塞などの深刻な合併症を引き起こす可能性があります。
日本では高齢化社会の進展に伴い、内頸動脈狭窄症の発症率が年々増加しています。特に50歳以上の男性に多く見られる疾患で、動脈硬化のリスク要因を持つ人々が影響を受けやすい傾向があります。女性に比べて男性の発症率が高いことも特徴的です。さらに、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を抱える人、喫煙者、肥満の人が発症リスクを高めるとされています。
内頸動脈狭窄症の原因
内頸動脈狭窄症の最も一般的な原因は動脈硬化です。動脈硬化は、血液中に含まれるLDLコレステロール、いわゆる悪玉コレステロールが血管の内壁に蓄積することで引き起こされます。このコレステロールの蓄積は血管内に炎症を引き起こし、時間の経過とともに血管壁を硬くする要因となります。結果として、プラークと呼ばれる塊が形成され、これが血管内の空間を狭めることになります。このプラークが成長すると、血液の流れを妨げるだけでなく、突然破裂して血栓を形成する可能性もあります。この血栓が血流によって運ばれ脳の血管に詰まると、脳梗塞を引き起こす深刻な状態に陥ります。
動脈硬化の進行にはさまざまな要因が関与しています。その中でも、高血圧、糖尿病、喫煙、高コレステロール血症、肥満、ストレス、そして遺伝的要因が主なリスク要因として知られています。高血圧は血管壁に過剰な圧力をかけて負担を与え、細かな損傷を引き起こします。糖尿病の場合、血糖値が高い状態が続くことで血管の内壁が傷つき、それが動脈硬化の進行を加速させます。喫煙は血管を収縮させる作用があり、これにより酸素が十分に供給されなくなるだけでなく、血管壁自体にも直接的なダメージを与えます。
これらの要因は単独で影響を与えることもありますが、多くの場合は複合的に作用します。例えば、高血圧と糖尿病が同時に存在すると、動脈硬化の進行速度がさらに加速することが知られています。また、喫煙者が肥満である場合、血管への悪影響が重なり、内頸動脈狭窄症の発症リスクはさらに高まります。このような背景を持つ方々は、特に定期的な健康診断や医療機関でのフォローアップが重要です。
内頸動脈狭窄症の前兆や初期症状について
内頸動脈狭窄症の初期段階では、自覚症状がほとんど現れないことが一般的ですが、病状が進行すると一過性脳虚血発作(TIA:transient ischemic attack)が発生する可能性があります。TIAは脳への血流が一時的に減少することで引き起こされ、「ミニ脳梗塞」とも呼ばれる状態です。この症状は脳梗塞と類似していますが、症状が短時間で自然に回復するという特徴があります。
このTIAには、いくつかの特徴的な症状が見られます。たとえば、片側の手足にしびれや力が入らなくなる感覚が現れることがあります。また、視界が一時的に欠けたり、片目の視力が突然失われることもあります。さらに、言葉がうまく話せなくなる言語障害や、突然のめまい、バランス感覚の喪失といった症状も含まれます。
これらの症状は数分から数時間以内に自然に消えることがありますが、見過ごしてはいけません。なぜなら、これらは脳梗塞の前触れである可能性が高いためです。TIAの兆候を感じた場合は、速やかに医療機関を受診することが極めて重要です。脳神経外科や循環器内科に相談し、適切な検査や診断を受けることで、さらなる合併症を防ぐことができます。早期の受診と治療が、脳梗塞などの重大な健康問題を回避する鍵となります。
内頸動脈狭窄症の検査・診断
内頸動脈狭窄症の診断では、まず頸動脈エコー(超音波検査)が一般的に行われます。この検査は痛みがなく、非侵襲的で簡便な方法で、頸動脈内の血流や狭窄の程度を詳細に観察できます。エコー検査で異常が疑われた場合、さらなる精密検査としてCTアンギオグラフィー(CTA)やMRI/MRAが行われます。CTAでは造影剤を使用し、頸動脈内のプラークの状態や狭窄の部位を高精度で評価できます。一方、MRI/MRAは放射線を使用せず、血管や周辺組織を詳細に描写できるため、安全性が高いとされています。
さらに、血管造影検査ではカテーテルを用いて造影剤を直接注入し、狭窄部位を精密に観察します。この方法は侵襲的ですが、外科的治療やステント治療を計画する際に重要な情報を提供します。狭窄の程度は50%未満の軽度、50-69%の中等度、70%以上の重度に分類されます。重度狭窄の場合、治療が必要と判断されることが多く、適切な治療法の選択が進められます。
内頸動脈狭窄症の治療
内頸動脈狭窄症の治療は、患者さんの症状の有無や狭窄の程度に応じて異なります。無症状や軽度の狭窄の場合、薬物療法が第一選択となります。主に使用される薬剤は、血栓を予防するための抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレルなど)や、コレステロール値を下げるスタチン系薬剤です。これらの薬剤はプラークの進行を抑制し、脳梗塞のリスクを低減します。また、高血圧や糖尿病が併存している場合には、それらの疾患を適切に管理するための治療が併用されます。
一方、中等度から重度の狭窄、あるいはTIAや脳梗塞の既往がある患者さんには外科的治療が検討されます。頸動脈内膜剥離術(CEA)は、狭窄を引き起こしているプラークを直接除去する手術で、血流を物理的に改善します。また、頸動脈ステント留置術(CAS)はカテーテルを用いて狭窄部にステントを挿入し、血管を広げる治療法です。この方法は高齢者や外科手術リスクが高い患者さんに適しており、侵襲性が低いのが特徴です。
内頸動脈狭窄症になりやすい人・予防の方法
内頸動脈狭窄症になりやすい人には、50歳以上の男性や生活習慣病を持つ人、喫煙者、肥満の人が含まれます。また、家族に心血管疾患を持つ人がいる場合もリスクが高まるとされています。この疾患を予防するためには、生活習慣の改善が不可欠です。
予防策としては、まず健康的な食事が挙げられます。塩分や飽和脂肪酸の摂取を控え、野菜や果物、魚を積極的に取り入れることで血管の健康を維持できます。また、適度な運動は血流を促進し、動脈硬化の進行を遅らせる効果があります。喫煙は動脈硬化を加速させるため、禁煙は重要な予防策です。さらに、アルコール摂取を控えることも血管の健康に寄与します。
定期的な健康診断も予防の重要な要素です。特に、頸動脈エコー検査を受けることで、早期に狭窄の兆候を発見し、適切な治療を始めることができます。このような取り組みによって、脳梗塞などの深刻な合併症を未然に防ぐことが期待されます。
関連する病気
- 脳梗塞
- 一過性脳虚血発作
- 脳動脈硬化症
- 脳血管性認知症
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