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骨髄増殖性腫瘍
鎌田 百合

監修医師
鎌田 百合(医師)

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千葉大学医学部卒業。血液内科を専門とし、貧血から血液悪性腫瘍まで幅広く診療。大学病院をはじめとした県内数多くの病院で多数の研修を積んだ経験を活かし、現在は医療法人鎗田病院に勤務。プライマリケアに注力し、内科・血液内科医として地域に根ざした医療を行っている。血液内科専門医、内科認定医。

骨髄増殖性腫瘍の概要

骨髄増殖性腫瘍とは、血液の細胞が過剰に作られてしまう病気をいいます。 血液の細胞には、白血球、赤血球、血小板の3種類があります。すべての血液細胞は、骨の中にある骨髄という場所で、血液の元となる造血幹細胞から作られます。しかし、この造血幹細胞になんらかの遺伝子変異が生じると、血液細胞が過剰に作られてしまうようになります。 骨髄増殖性腫瘍には、以下のような種類があります。

  • 真性多血症(真性赤血球増加症)
  • 本態性血小板血症
  • 原発性骨髄線維症
これら3つの疾患に共通してみられる遺伝子異常に、JAK2変異、CALR遺伝子変異、MPL遺伝子変異があります。 共通した遺伝子変異をもつこともあり、これらの3疾患はお互いに移行することもあります。さらに、最終的には骨髄線維化による骨髄不全や急性白血病に移行するなど、症状や経過が似ていることが知られています。

慢性骨髄性白血病、慢性好中球性白血病、慢性好酸球性白血病という疾患も骨髄増殖性腫瘍に含まれます。しかし一般的に骨髄増殖性腫瘍というと、上記3つを指します。 そのため、この記事では真性多血症、本態性血小板血症、原発性骨髄線維症の3つの疾患について解説します。

骨髄増殖性腫瘍の原因

JAK2変異、CALR変異、MPL変異が代表的な遺伝子変異です。これらの変異があると、細胞増殖が活性化し、骨髄増殖性腫瘍を発症します。 特に、JAK2蛋白の617番目のアミノ酸がバリンからフェニルアラニンに変化した、JAK2 V617変異は、骨髄増殖性腫瘍の中でも真性多血症の90%以上で認められます。

骨髄増殖性腫瘍の前兆や初期症状について

症状は、各疾患によって異なります。

真性多血症

赤血球が異常に増える病気です。自覚症状を伴わないことが多く、健康診断などで赤血球数が多いことを指摘されて診断される場合があります。 赤血球数が増えると血液がどろどろになり、以下のような症状が起こります。

  • 頭痛
  • めまい
  • 赤ら顔(顔の赤みが強くなる)
また、以下のような、全身の症状が出現する場合もあります。

  • 体重減少
  • 倦怠感
  • 体のかゆみ
血がどろどろになることで血管が詰まると「血栓症」を起こし、以下のような症状が出現することがあります。

  • 下肢痛(下肢静脈血栓症)
  • 片麻痺(脳梗塞)
  • 胸痛(心筋梗塞)
また、手先や足指などにピリピリした痛みや熱感がみられることがあります。微小な血栓による末梢循環障害が原因と考えられており、これを肢端紅痛症といいます。

本態性血小板血症

血小板が異常に増える病気です。無症状のことも多く、真性多血症と同様に健康診断などで血小板が多いことを指摘されて診断される場合があります。 真性多血症と同様、血栓症を発症するリスクが高く、以下のような症状が出現することがあります。

  • 下肢痛(下肢静脈血栓症)
  • 片麻痺(脳梗塞)
  • 胸痛(心筋梗塞)
微小な血管が詰まることで血液の循環障害が起こると、以下のような症状が出現します。

  • 肢端紅痛症
  • 頭痛
  • 視力障害
また、血小板が著増すると逆に出血が起こりやすくなることも知られています。そのため、以下のような症状も起こることがあります。

  • 鼻出血
  • 皮下出血
  • 歯肉出血

原発性骨髄線維症

骨髄中に線維組織が増えている(線維化)病気を、骨髄線維症といいます。骨髄の線維化は、悪性リンパ腫やほかの骨髄増殖性腫瘍などに合併する場合があります。このような疾患が否定される場合、原発性骨髄線維症と診断されます。 骨髄で線維化が起こると、骨髄での造血が困難となり、血液細胞が減少します。さらに、肝臓や脾臓などの骨髄以外の場所で造血が起こります。進行すると肝臓が腫れたり(肝腫大)脾臓が腫れたり(脾腫)することがあります。 また、以下のような全身症状が出やすいことが特徴です。

  • 倦怠感
  • かゆみ
  • 寝汗
  • 体重減少
骨髄増殖性腫瘍は血液内科が診断・治療を行います。健康診断で血小板や赤血球の異常を指摘されるなど、骨髄増殖性腫瘍を疑う場合は血液内科を受診しましょう。

骨髄増殖性腫瘍の検査・診断

骨髄増殖性腫瘍が疑われる場合は、以下のような検査を行います。

血液検査 血液検査では、血液細胞である白血球、赤血球、血小板の数を調べます。どの細胞がどの程度増加しているか、細胞の形態に異常がないかなどを確認します。

骨髄検査 造血が行われている骨髄の中でどのような細胞が増殖しているかを確認します。 赤血球や血小板のもととなる細胞が増殖しているかを調べます。また、骨髄線維症を疑う場合、線維化の確認も行います。

遺伝子検査 JAK2、CALR、MPLなどの遺伝子異常の有無の確認を行います。特に、真性多血症では90%以上の患者さんでJAK2 V617F変異を認めます。 しかし、これらの異常がない場合も骨髄増殖性腫瘍は否定できません。すべての検査を総合して診断を行います。

CT 脾腫が疑われる場合は、脾臓の大きさの確認のために行われることがあります。

骨髄増殖性腫瘍の治療

骨髄増殖性腫瘍の治療は、病型によって異なります。 真性多血症、本態性血小板血症は血栓症や出血の治療予防が主になります。しかし、原発性骨髄線維症はこの2疾患と治療内容が異なります。

真性多血症

血栓症の予防が重要です。

瀉血(しゃけつ) 真性多血症の場合は、瀉血を行います。瀉血とは、静脈から血液を抜き取ることで赤血球の数を減らす治療です。1回に200~400mL程度の血液を抜き取ります。 抗血小板薬の内服 抗血小板薬であるアスピリンの内服を行い、血栓症の予防をします。 細胞減少療法 ヒドロキシウレア、ルキソリチニブなどを使用し、赤血球数を減少させます。ルキソリチニブはかゆみなどの全身状態の改善に効果があります。

血栓症リスク因子の治療

高血圧、脂質異常症、肥満、糖尿病などは、血栓症の一般的なリスク因子とされています。したがって、これらの疾患をもつ場合は治療を行います。

本態性血小板血症

血栓症の予防に加えて、出血症状の予防も重要です。

抗血小板薬の内服 抗血小板薬を用いて、血栓症の予防を行います。 経過観察 低リスク群の場合は無治療で経過観察を行います。 細胞減少療法 ヒドロキシウレア、アナグレリドなどを使用し、血小板数を減少させます。低リスク群であっても、血小板の数が極端に多い場合は出血のリスクが上がるため、細胞減少療法を行う場合があります。

血栓症リスク因子の治療

真性多血症と同様、一般的な血栓症のリスク因子をもつ場合は治療を行います。

原発性骨髄線維症

経過観察 低リスク群や無症状の場合は経過観察を行います。 薬物療法 倦怠感、かゆみ、脾腫などの全身症状がある場合、症状緩和を目的としてルキソリチニブの投与が行われます。 輸血 赤血球数が少ない場合、血液検査のデータを確認しながら輸血を行う場合があります。 同種造血幹細胞移植 高リスク群の場合、同種造血幹細胞移植(ドナーから提供された造血幹細胞を患者さんに移植する治療)が行われます。造血幹細胞移植は、原発性骨髄線維症の唯一の治癒的治療法です。

骨髄増殖性腫瘍になりやすい人・予防の方法

骨髄増殖性腫瘍は遺伝子異常で起こる病気です。したがって誰もがなり得る病気で、予防の方法はありません。 しかし、症状が出現する前に血液検査で発見されれば、早期治療による予後改善が期待できます。初期の段階では自覚症状を伴わないことが多い病気です。そのため、健康診断などで定期的に血液検査を受け、異常を指摘された場合ははやめに医療機関を受診し、医師に相談するようにしましょう。

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  • 慢性骨髄性白血病

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